平成27年度 入学式
平成27年度入学式の式辞です。
平成27年4月7日
東京農工大学長 松永 是
東京農工大学に入学された皆さん、おめでとうございます。教職員を代表して、心よりお祝い申し上げます。また、今まで支えてこられたご家族はじめ関係各位の方々にも謹んでお慶び申し上げます。一歩一歩成長していく彼らをこれからも共に応援してくださるようお願いいたします。
本年度の新入生は、学部では農学部が325名、工学部が616名で合計941名、大学院は工学府・農学府・生物システム応用科学府及び連合農学研究科の4つで構成されており、生物システム応用科学府内に設置されている早稲田大学との連携による共同先進健康科学専攻もあわせますと、博士前期課程・修士課程・専門職学位課程675名、博士後期課程131名となります。アジア、中東、アフリカなど世界各地からの留学生は合わせて68名で、すべて含めた学部・大学院全体の新入生の総計は1,747名です。この1,747名が、それぞれの未来のために助け合い切磋琢磨する仲間となります。卒業後・修了後も研究や仕事を通じて生涯の付き合いとなる人もいるでしょう。どうぞ良い影響を与え合う関係を築いていってください。
皆さんは今、受験や学部卒業など一つの試練を乗り越え、解放されたような、いわゆる『自由』な気分を味わっていることと思います。そこで本日はあらためて『自由』について考えてみていただきたいと思います。皆さんは『自由』という言葉でどのような状態を想像しますか?束縛や強制がない、何ものにも囚われない、自分の意のままにできる、などでしょうか。確かに辞書を引けばそのような説明が書いてあります。そしてその中で多種多様な使い方がされているのも事実です。身近なところで学生生活に例を取ってみましょう。書かなくてはならないレポートがある、でも別のことがやりたい、という時に、「今日一日くらい好きにしていいだろう。自分の自由だ。」と言って楽しい方や楽な方を選んでしまうのはよくあることですね。しかしそれは本当に『自由』なのでしょうか?『自由』というのが何ものにも囚われないということなら、自分の怠惰や欲望や甘えに囚われているこの状態は『自由』などではなく、むしろ『勝手気まま』ではないでしょうか。本来あるべき姿、自分の信念に沿って行動ができることこそ真の『自由』であり、そこには必ず克己心や自他に対する責任が発生してきます。 “Liberty means responsibility.” というイギリスの劇作家バーナード・ショーの言葉もある通り、『自由』とは決して楽で楽しいだけではないのです。先程の例で言えば、レポートを書くことはもちろん教員の指示ですが、そもそも皆さんがこの大学で様々な専門知識を学び技術を磨き人間力を向上させてこのグローバル社会に益する人材となるために他ならず、それはひいては皆さんひとりひとりの人生に対する責任であり、過去現在未来にわたって皆さんを支援してくれる周囲の人々に対する責任でもあるのです。勝手気ままにした結果の責任を自分で取ればよいという単純なことではありません。これから皆さんが進む科学技術の道も同じです。興味のあることを好きなように自由に研究する、それ自体はもちろん大変素晴らしいことです。しかし同時に強く意識すべきなのは、その研究を社会のためにどう活かすかであり、成果を益として社会に還元することこそ我々科学技術に携わる者の使命であり責任なのです。皆さんもこれからその責任ある科学者の一員となるのだという自覚をしっかり持って、これからの学生生活を有意義に過ごし、自分の人生を自由に創り上げていってほしいと思います。
皆さんが学ぶこの東京農工大学は産業の基幹である農学と工学の2分野に加え、その2つを併せ持つからこそ可能な融合領域にもフィールドを発展させて、『持続発展可能な社会の実現』・『循環型社会の構築』を目標とした最先端研究の強化や高度なイノベーションリーダー育成に全力で取り組んできました。そして目標や使命のために自己を律しながら既成概念や枠組みに囚われず柔軟に新しいことに挑戦するという真の『自由』に重きを置く姿勢は、創基以来140年の長きにわたって培ってきた本学の特色であると同時に強みでもあります。その姿勢のもと、新研究院の設置や組織改革などグローバルなイノベーション推進のために様々な先進的な取り組みを実施し、進化を続けてきました。また他機関や他大学との連携、民間企業との共同研究や海外との交流も積極的に行い、常に俯瞰的視点を持ちつつ自分たちの研究・教育活動の多様性と公益性をしっかりと意識しながら活動を進めています。このような本学の特色を充分に活用してできるだけ多くの経験を積むとともに、こうした信念を持って自由に挑戦する強い精神力をぜひ皆さんにも充分に受け継いでいただきたいと願っています。それは本学卒業後または修了後の進路において、きっと皆さんの力となるはずです。
最後にもうひとつ、あたり前のようですがとても大切なことを申し添えます。学術研究の道は、時に精神的にも身体的にも厳しいものになります。健康な心と体がなくては続けることができません。特に地方や海外から来られた方々は、慣れない土地でいろいろと不安なことも多いかと思います。健康に十分留意して、実り多い大学生活を送ってください。本学もさらに力強く皆さんのバックアップができるよう、あらゆる面で常に最大限の努力を続けてまいります。本日入学される皆さんが今日の気持ちを忘れずそれぞれの夢に向かって大きく成長されることを願い、また皆さんが本学の一員となることにあらためて歓迎の気持ちをお伝えして、式辞とさせていただきます。