平成23年度卒業式・学位記授与式
平成23年度卒業式・学位記授与式の告辞です。
平成24年3月27日
東京農工大学長 松永 是
本日、東京農工大学を卒業される皆さん、大学院を修了される皆さん、おめでとうございます。本学教職員を代表し、心よりお祝い申し上げます。本年は無事にこうして式典を執り行うことができ、安堵と感謝の念を抱いております。そして、本日の学位取得はもちろん皆さんの努力の賜物ですが、努力を続けることができたのは自分一人の力ではありません。皆さんが学業に励んできた間、皆さんを支えて下さったご家族、ご友人、関係者の皆様に対する感謝の気持ちを忘れないでください。我々教職員一同も心より御礼を申し上げ、この晴れの日の喜びを分かち合わせていただきたいと思います。
この度晴れて学位を授与されるのは、学士の学位が、農学部347名、工学部608名、修士の学位が、工学府博士前期課程367名、農学府修士課程183名、生物システム応用科学府博士前期課程85名、技術経営研究科37名、博士の学位が、工学府博士後期課程21名、生物システム応用科学府博士後期課程11名の、計1659名です。 この壇上からあらためて皆さんを眺めると、実に様々な表情が見られます。楽しかった学生生活の終わりを名残惜しく思う顔、これから入る新しい世界に夢と希望を膨らませている顔、先の見えない未知の環境に不安を覚えている顔、本当に様々です。しかし、数年前、皆さんをこの大学へ迎え入れた時と比べると、どの顔も頼もしく見えます。それは、それまでの知識を一方的に受ける立場から、主体的に課題に取り組み、知を積み重ね、応用し、更に新たな知を生み出す研究者になるべく、皆さんが日夜研鑽に励んできた証です。そして、その皆さんをサポートするという我々教職員の思いも報われたように感じます。本学は、ご存じの通り、産業の基幹である農学と工学及びその融合分野も含めた教育研究分野を備えた特色ある大学として、間もなく創基140年という長い歴史と伝統を引き継ぎ、日本の近代化・国際化に貢献する科学者を輩出すべく進化し続けてまいりました。 現在に至る同窓生の方々の各界での活躍は本学の誇りであり、皆さんも彼らに続いて、自分を信じ、これまでの努力に自信を持って、新たな世界に飛び込んで思う存分力を発揮していただきたいと思います。
この旅立ちの日に、皆さんに贈りたい言葉があります。
『道が通じているところに行くのではなく、道がない所に行き、道を残しなさい。』
(Do not go where the path may lead, Go instead where there is no path and leave a trail.)
アメリカの思想家ラルフ・エマ‐ソン(Ralph W. Emerson)の言葉です。皆さんにはこの言葉を常に頭の隅に置いておいて欲しいと思います。多くの著名な科学者もこれと同義の言葉を残しています。フェライト磁石の発明者であった加藤與五郎先生からその弟子たちに脈々と伝わり、私も恩師によって教え込まれ、今も染みついている、『研究者としてFollowerになるな』という言葉も同じです。Followerになるな。道がない所へ行け。そのような生き方をすると当然、怖れ、不安、孤独、敵対心、嫉妬心、あらゆる負の感情に襲われることがあります。皆さんの行く手には、学生生活で体験することとは比べ物にならないような更に多くの困難が立ちはだかるでしょう。しかし、それらを乗り越えてこそ行きつくことができる場所、手に入れることができるもの、見ることができる世界があるのです。そして大学という高等教育機関でその学位を得た者として、皆さんはこれからそのような道を作り人々を先導するという多大な責任と期待をその双肩に背負うことを自覚しなければなりません。言うまでもなく、現在の地球は様々な問題を抱えています。環境、エネルギー、資源、食糧、いずれも地球上の生物の存続に係わる課題であり、これらを解決し、持続発展可能な社会を創るためには、新たな知の創造が必要不可欠です。それには、我々科学者が積極的に携わり、自然と人類の共存と繁栄へつながる新しい道を作らなくてはならないのです。
準備期間は終わりました。皆さんは本学において社会に貢献する人材になるための基盤となるものを身に付けたはずです。そして、学生生活で経験した様々な困難は全て研究者に共通するもの、研究者の仕事である真理の追究に必ず付随するものであることを実感し、同時に『真理を追究する』という根源的な喜びも感じてもらえたと思います。一度この学問の喜びを感じた者は、どのような進路に進んでも、まっすぐに着実に求める方向へ突き進んでゆくことができるのです。本日の学位授与を境に、これからはその身に付けた基盤や思いを自分自身の手でより深く豊かに広げ、さらに実践的に人類に貢献することを求められます。大学院、研究所、企業等、その進路は様々ですが、求められることはどこでも同じです。 一人の研究者として我が国及び国際社会に益するために、真理の追究に対する情熱を忘れず、美しい地球の未来を見据えて、全力で突き進んで行って下さい。次に皆さんにお会いする時には、さらに成長した頼もしい姿を見ることができると信じています。本学も、皆さんの母校として誇れる心強い基柱となるよう、道なき道を進み、より良い大学づくりに一層の努力をしてまいります。皆さんのご健闘・ご活躍を心より祈っております。
本日は、誠におめでとうございます。