平成24年度卒業式・学位記授与式
平成24年度卒業式・学位記授与式の告辞です。
平成25年3月26日
東京農工大学長 松永 是
本日、東京農工大学を卒業される皆さん、そして大学院課程を修了される皆さん、おめでとうございます。本学教職員を代表し、心よりお祝い申し上げます。
本年は、学士の学位取得者が、農学部327名、工学部603名、修士の学位取得者が工学府博士前期課程353名、工学府専門職学位課程31名、生物システム応用科学府博士前期課程64名、農学府修士課程156名、技術経営研究科専門職学位課程1名、博士の学位取得者が工学府博士後期課程42名、生物システム応用科学府博士後期課程16名、連合農学研究科博士課程49名、計1642名が、この学び舎から巣立っていくこととなりました。本学で過ごした数年間、皆さんは実に様々な経験をされたと思います。楽しいばかりでなく、挫折や困難に直面し研鑽と努力を重ねる厳しい日々でもあったに違いありません。しかし皆さんは乗り越えました。この壇上から見ていても、皆さんの晴れやかな表情の中に逞しく成長した力強さが感じられ、我々教職員としても頼もしく嬉しく思います。おそらく今、皆さんの胸中は、学生生活への名残惜しさ、心地よい達成感、そして未来への期待などで溢れていることでしょう。しかし今ここでもう一度、皆さんが学業に励んできた間皆さんを支えてくださったご家族、ご友人、関係者の方々に対する感謝の気持ちを思い起こしてください。皆さんが今日この日を迎えられたのはこうした方々の有形無形の支えがあったからこそです。我々教職員一同もその温かいご支援に謝意と敬意を表しつつ、新たな世界へ羽ばたいていく皆さんの更なる活躍を期待して送り出したいと思います。
本日は皆さんへの餞として、この学位授受を機に皆さんに意識してほしいことを少しお話しさせていただきます。19世紀後半から20世紀前半にかけて活躍したアメリカの女性歴史学者でMary Ritter Beardという人がいます。数々の有名な著作のほか、社会運動家としても著しい業績を残しました。しかし私がここで言及したのは、アメリカの歴史や社会運動を語るためではなく、彼女の信念を表した次の言葉を紹介するためです。
“Action without study is fatal. Study without action is futile.”
(学習の伴わない行動は致命的であり、行動の伴わない学習は無益である。)
行動するための基盤となる知識を学ばず、効果を吟味せず、善後策を講じる論理的思考力も培わずにただ闇雲に行動しても、無謀で徒労に終わるか、むしろ危険な暴走にも繋がりかねません。一方、理論を学び知識を深め思想を育てても、何も行動を起こさなければ、何ひとつ生み出すことはできないのです。皆さんは今まで大学という学びの場において”study”、つまり知の継承・蓄積と探求・深化をしてきました。そしてこれから皆さんはそれぞれの進路で、科学者として、社会人として、イノベーション、つまり新たな知を創造するという”action”を求められます。つまり、「学習を伴う行動」も「行動を伴う学習」もどちらも実行して社会的責任を全うするべき人材となったわけです。そしてこの数年間行ってきた学習、得た知識や経験を基に、今後はそれを一歩も二歩も進化させながら、目的達成に対して実効性の高い行動をしなくてはなりません。その目的とはすなわち、本学の理念でもある「持続発展可能な社会の実現」に向けて貢献することです。現在地球環境は危機に瀕し、環境・エネルギー・資源・食糧をはじめ様々な問題が山積しています。これらは科学技術のもたらした負の産物であるという人もいるでしょう。科学技術は諸刃の剣で、事実ではないとは言い切れないかもしれません。しかしそれらを解決し、自然環境と共存しながら全ての人類が安心して豊かに発展し続ける明るい未来を創造するためには、やはり科学技術の力が、学術に裏打ちされ先見的見識に基づく実践的なイノベーションが必要とされています。そしてそのイノベーション創造の担い手は、ここにいる皆さんなのです。
皆さんがこれから進む道には、学生時代以上に様々な困難が待ち受けているでしょう。しかし本学は、来年で創基140年という長い伝統をその特色である機動力と先進性で作り上げてきた大学です。その本学で学び晴れて学位を取得した皆さんは、専門的知識・技術や真理の追究に対する情熱だけでなく、学風も受け継ぎ、どんな壁も乗り越えられる強い意志や失敗を恐れず挑戦する意欲、そして幅広い視野と柔軟な姿勢をしっかりと身につけたはずです。どうか皆さんの夢に向かって、自信を持って全力で突き進んでいってください。皆さんの活躍を期待している社会のためにそれぞれの進路で力を尽くしてください。それが我々の皆さんへのただひとつの希望です。皆さんが我が国、そして国際社会において、最高の見識を伴った最先端の行動の牽引力となり、また後進の見本となって未来へとつなげていけば、世界は必ず変わります。科学者として、ともにより良い未来のために奮闘していきましょう。
次に皆さんにお会いする時には、さらに成長した頼もしい姿を見ることができると信じています。そして本学も、皆さんの母校として誇れる心強い基柱となるよう、より良い大学づくりに一層の努力をしてまいります。
皆さんのご健闘・ご活躍を心より祈っております。