研究例
破骨細胞培養系において、βクリプトキサンチンの添加により、破骨細胞分化が濃度依存的に抑制されました。βクリプトキサンチンは脂溶性のため容易に細胞膜を透過し、細胞内に取り込まれます。そこで、細胞内における標的分子を決定するため、コンピュータを用いて、in silico Docking simulationを行ったところ、NF-κB経路の構成分子であるIKKタンパク質のATP結合領域にβクリプトキサンチンが結合しうることが示されました。
質量分析イメージングを用いたファイトケミカルの分布解析
質量分析イメージング技術を用いると、植物組織切片上で機能性成分の分布を可視化することができます。従って、これまでに不可能であった分子の空間的分布を解析できます。
私達は温州ミカンの組織切片を用いて、質量分析イメージングを行いました。その結果、カロテノイドのβクリプトキサンチンやビタミンは果肉に、フラボノイドは果皮に多く分布していることが明らかとなりました。今後、質量分析イメージングと液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS)などの定量分析を組み合わせることで、品質や安全性のより精密な評価法の確立が期待されます。
骨芽細胞・破骨細胞における天然化合物の標的タンパク質の発見
柑橘由来天然化合物であるβクリプトキサンチンは温州みかんなどに多量に含まれるカロテノイドの一種であり、日本人にとって非常に馴染み深いファイトケミカルです。βクリプトキサンチンは抗酸化作用や抗アレルギー作用など様々な生理活性を有していることが報告されています。
私達はβクリプトキサンチンが破骨細胞分化を抑制し、骨粗鬆症や歯周病などの予防因子となりうることを見出しました。βクリプトキサンチンは脂溶性のため細胞膜を透過し、細胞内に取り込まれることが示唆されていますが、標的因子については不明でした。私達は骨芽細胞における炎症刺激(LPS-TLR4シグナル)および破骨細胞における分化刺激(RANK-RANKLシグナル)の下流因子であるIKKの活性を、βクリプトキサンチンが直接阻害することで骨芽細胞のPGE2合成や破骨細胞の分化・生存を抑制することを明らかにしました。