骨組織は破骨細胞によって古い骨が破壊され、骨芽細胞によって新しい骨が造られる、というサイクル(骨のリモデリング)によって常に代謝が行われています。炎症や加齢、不動、ホルモン変動などのストレスは骨のリモデリングを破綻させ、破骨細胞による過剰な骨破壊を誘導します。その結果、骨粗鬆症や歯周病など骨量減少を伴う骨疾患に発症します。
破骨細胞の分化メカニズム
歯周病原因因子であるリポ多糖(LPS)、インターロイキン(IL)、腫瘍壊死因子(TNF)、プロスタグランジン(PG)などの炎症性物質は骨芽細胞に作用することで、骨芽細胞の細胞膜上に破骨細胞分化誘導因子RANKL(NF-κB受容体活性化リガンド)の発現を誘導します。マクロファージ系細胞は細胞膜上にRANKを発現しており、骨芽細胞のRANKLと相互作用することで、破骨細胞へと分化・融合していきます。骨芽細胞からはOPGと呼ばれるRANKLのデコイ受容体も分泌されており、これらの因子などによって破骨細胞分化は厳密に制御されています。
研究例
マクロファージ様細胞培養系を用い、破骨細胞マーカーであるTRAPの細胞染色法や免疫細胞染色法(赤: アクチン, 緑: 細胞質分子, 青: 核)を駆使し、破骨細胞分化を評価しています。また、骨芽細胞培養系では、骨形成試薬を用いた骨芽細胞分化、及び、骨石灰化(骨形成)を細胞染色法により評価しています。
細菌が炎症を誘導する作用機序を解明するため、エンドソームを緑、細菌由来因子を赤、核を青で免疫細胞染色を行った結果、細菌由来因子がエンドサイトーシスにより細胞内に取り込まれていることを明らかになりました(黄色)。これより、この細菌由来因子は細胞内に取り込まれることで炎症応答を促していることが示唆されました。
歯周病の新規発症メカニズムの解明
歯周病は細菌感染によって引き起こされる口腔局所の炎症性疾患で、歯牙の喪失を招くことで生活の質(QOL)を著しく低下させます。歯周病の骨破壊の主な原因として、歯肉縁下プラークに多く存在するグラム陰性細菌が産生するLPS (lipopolysaccharide) が主な原因とされていますが、歯肉縁上プラーク(好気環境下)に多く存在するグラム陽性細菌が産生するLTAの詳細な関与は不明でした。私達はLTAが骨芽細胞におけるPGE2を介したRANKL発現を亢進し、破骨細胞による骨破壊を誘導する作用を有することが明らかとなりました。これらより、グラム陽性細菌壁由来のLTAは歯周疾患におけるPGE2誘導性の骨破壊に直接的に関与する可能性が示されました。
研究テーマ
- 歯周病の炎症性骨破壊における自然免疫応答の関与
- 廃用性骨萎縮(骨粗鬆症)の発症メカニズムの解析
- 破骨細胞と骨芽細胞の相互作用(カップリング)因子の解析