癌骨転移の研究

 癌の転移は全身で散在的に発生し、根治は難しく、特効薬がないのが現状です。特に、癌の骨転移は骨破壊や骨疼痛の原因となり、患者のQOLを大きく低下させます。癌骨転移を抑制し再発を阻止することは、癌克服に繋がることから、大きな課題となっています。癌骨転移のメカニズムとして、癌細胞は宿主細胞(この場合は骨芽細胞)との細胞間接着によって、骨を壊す細胞である破骨細胞の分化を誘導します。分化した破骨細胞は骨を破壊し、できたスペースに癌細胞が浸潤し増殖していきます。この繰り返しにより、癌細胞は骨に転移し病巣を形成していきます。

研究例

 癌細胞の培養を行い、細胞増殖実験や蛍光癌細胞解析、スクラッチアッセイ(細胞遊走能解析)などの解析方法を駆使し、抗癌薬 (Compound) の評価を進めています。

炎症性PGE2を介した新規癌転移メカニズム

 プロスタグランジン(PG)E2は非常に強力な炎症誘発性の分子として知られています。これまでに、PGE2は破骨細胞の分化を促すことで、骨破壊を誘導することが明らかとなっています。

 私達は、癌細胞が宿主細胞と接着することで、宿主細胞からのPGE2産生を促すことを見出しました。肺や肝など軟組織では、癌細胞は線維芽細胞や間質細胞との細胞間接着によってPGE2産生を誘導し、癌細胞増殖や血管新生を促しました。一方、骨組織(硬組織)では、癌細胞は骨芽細胞との細胞間接着によってPGE2産生を誘導し、破骨細胞による骨破壊を促しました。そこで、小野薬品工業株式会社との共同研究において、PGE2合成酵素の遺伝子欠損、および、PGE2の受容体であるEP拮抗薬の効果を検討したところ、これら癌細胞と宿主細胞との細胞間接着による作用が抑制されることが明らかとなりました。

骨転移性前立腺癌の新薬候補の開発

 抗がん薬は癌細胞に直接作用して、増殖や浸潤を抑制するというメカニズムが一般的です。私達は大鵬薬品工業株式会社との共同研究において、破骨細胞に作用して骨破壊を抑制し、その後の癌細胞の増殖を阻止するというユニークなアプローチで新薬候補化合物であるTAS-115の効果検討を行いました。TAS-115は3種のチロシンキナーゼ型受容体、MET/VEGFR/FMSいずれも阻害する作用を有しており、破骨細胞においてはMET/VEGFR/FMS阻害によって骨破壊を抑制すること、前立腺癌細胞においてはMET/VEGFR阻害によって増殖の抑制することを見出しました。

研究テーマ

  • 悪性黒色腫の溶骨性骨転移のメカニズム解析
  • 前立腺癌における造骨性骨転移のメカニズム解析
  • 乳癌における溶骨性骨転移のメカニズム解析
  • 骨転移性癌由来エクソソームの機能解析