Laboratory for Environment and Life Science

From Molecules To Environment

バイオレメディエーション

 近代の急速な化学技術の発展と共に、人類は様々な化学物質を利用するようになった。その中には人体に対して有害なものも含まれ、近年問題となっている環境汚染の原因となってしまっているものも存在する。
 テトラクロロエチレン(PCE)やトリクロロエチレン(TCE)は、有用な有機溶媒としてクリーニング店や半導体において洗浄剤として広く用いられている。しかし、これらの化学物質は肝臓や腎臓、中枢神経に障害を起こし、発ガン性を示す例が報告されている。PCETCEは近年まで廃棄における規制がなかったため、不適切な処理により廃棄され、土壌・地下水の汚染の最も一般的な原因物質の一つであり、近年では全廃の動きが広まっている。土壌中においてPCETCEは、水より比重が重く、また水に対して難溶性であるため、より深部に浸透し、帯水層に蓄積する。土壌中においてPCETCEは様々な嫌気性細菌によって分解され、ジクロロエチレン(DCE)やVCへと分解される。しかし、これらDCEVCは、元のPCETCEよりも毒性が強く、より深刻な汚染を引き起こす原因となっている。これらの化学物質によって汚染された土壌を浄化する方法として、汚染された土壌を直接取り除く物理的手法や、汚染区域に酸化剤を注入し汚染物質を酸化分解させる化学的手法が用いられてきた。しかし、これらの方法には非常に高いコストがかかってしまうことや、浄化効果の持続性、根本的な汚染の解決にはならないとなどの問題点がある。そのため、これらの浄化方法に代わり、近年注目されているのがバイオレメディエーションである。
 バイオレメディエーションとは、微生物を用いることで環境の浄化を行う方法のことである。バイオレメディエーションには大きく分けて、汚染区域に元々生息している微生物を増殖・活性化することで浄化を行うバイオスティミュレーションと、外部で培養した微生物を汚染区域に投入することで浄化を行うバイオオーグメンテーションの2つの手法がある。

 PCETCEを分解できる微生物は好気性細菌、嫌気性細菌共に存在している。しかし、好気性細菌を浄化に用いるには、地中に分解基質、特に酸素を供給する必要があることや、高濃度の汚染には対応できないなどの問題がある。一方で嫌気性細菌は、汚染物質をそのままエネルギー源として用いることや、土壌中や多くの場合嫌気的状態であることからPCETCEの浄化に用いるのに望ましい。
 前述の通り、土壌中ではPCETCEは様々な嫌気性細菌によってDCEVCへと分解される。デハロコッコイデス(Dhc)属細菌の一部は、現在確認されている嫌気性細菌の中で唯一DCEVCをエチレンまで完全に脱塩素化することができる。そのため、当研究室ではこのDhc属細菌をPCETCEによって汚染された土壌の浄化に用いることを提唱している。しかし、Dhc属細菌は絶対嫌気性の微生物であり、難培養性であること、株間で16S rRNAの相同性が非常に高く、詳細な同定が困難であること、増殖に長い時間を要するなどの特徴がある。
 当研究室ではバイオオーグメンテーションに用いるためのDhc属細菌を含む複合培養系を確立した。さらにこれを実際の浄化に用いるため、イムノクロマトグラフィーを用いたDhc属細菌の簡易検出キットの開発、次世代シーケンサーを用いた新規菌相解析方法の確立を中心とした研究を行っている。

ATV1コンソーシアによるTCEの脱塩素活性

ATV1


ATV1コンソーシアの菌叢
Consortia

我々の提案する新しいバイオオーグメンテーション法

Augmentation

主要論文
Isolation and genomic characterization of a Dehalococcoides strain suggests genomic rearrangement during culture.
Sci Rep. (2017) 7:2230.
doi: 10.1038/s41598-017-02381-0.
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微生物コンソーシアを利用したバイオレメディエーションの検討
微生物による低コスト・低環境負荷な環境修復技術の実用化・普及に向けて
化学と生物 (2020) 58:369 - 377
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