Amyloidosisアミロイドーシス

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アミロイドーシスはとてもミステリアスな疾患です。 診断は容易ではなく、時にプロの病理医ですら誤診する場合があります。 当ページではアミロイドーシスの疾病総論と診断方法について概説します。 診断支援を希望される方は村上までご連絡ください。

アミロイドとは

生体に存在する機能性タンパク質の多くは水溶性の球状タンパク質であり、輸送やシグナリングなどに関与しています。 アミロイドとはこれらの生体由来のタンパク質が誤った折りたたみ(ミスフォールディング)を生じて形成された難溶性の線維タンパク質です。 電子顕微鏡で観察すると直径約7~15nmの枝分かれのない細線維状を呈しています。

アミロイドTEM

アミロイドの電子顕微鏡観察像

アミロイドはコンゴレッド色素に特異的に結合し、同色素によって橙赤色に染色されます。 これを偏光顕微鏡で観察すると、黄色~緑色の複屈折を呈します。 当ページのトップ画像は鶏のアミロイド関節症のコンゴレッド偏光像で、私のお気に入りの写真です。 時に息を飲むほど美しいエメラルドグリーンに出会えるのは、アミロイド研究の醍醐味です。

さて、多くの生体タンパク質は元々構造内に多少のβストランドを有しています。 このβストランドが並び合ってβシート構造を形成するわけですが、 アミロイドはβシートが線維軸に対して規則正しく垂直に整列するクロスβシート構造をとっており、このことが物理抵抗性や染色特性に関与しています。

アミロイドという名前はラテン語でデンプンを示す"amylum"に由来します。 アミロイドはヨウ素液に漬けると黒変する性質があるため、類デンプン質という意味で"amyloid"と名付けられました。

ルゴール反応

ヨウ素液に浸漬したヤギのアミロイド脾(豹紋状のアミロイド沈着)

アミロイドの名付け親は現代病理学の父 Rudolph Virchow です。 1854年、彼はヨウ素と反応する球状構造体を脳で発見し、Corpora amylacea(英:Amyloid body)という用語を使用しました (但し、脳の Corpora amylacea はアミロイドでは無いことが分かっています)。

Virchow は実は人体のデンプンを探して、様々な組織をヨウ素液に漬けたとも言われています。 結果的に彼は、インドを目指してアメリカ大陸を発見したコロンブスのように、デンプンを探してアミロイドを発見したのかもしれません。

Virchow はアミロイドは炭水化物に類似した物質であると提唱しましたが、1859年に Schmidt がこれを否定します。 アミロイド沈着臓器に窒素が多く含まれている点に着目し、アミロイドはタンパク質であると主張しました。

その後、様々な解析によって「アミロイド=タンパク質」が確定していくのですが、アミロイド(類デンプン質)という用語は残り続けました。 これは病理学の権威である Virchow の影響力が大きかったこと、また、ヨウ素液を用いた検査が当時、一般的に使用されていたことが原因かも知れません。

アミロイドーシスとは

アミロイドーシスとは、アミロイドの局所あるいは全身への蓄積に起因する、進行性の難治性疾患群の総称です。 アミロイドーシスは原因となる前駆タンパク質の種類によって分類されます。 International Society of Amyloidosis による2020年の分類では、人のアミロイドーシスは36種類、動物のアミロイドーシスは10種類に分類されています(実際はもっとあるので、いずれちゃんと分類します)。 前駆タンパク質が血清タンパク質の場合は全身性アミロイドーシスに、局所で産生される場合には局所性アミロイドーシスとなります。

「プリオン」とは、広義には感染性を有するアミロイドを意味し、狭義でプリオンタンパク質を前駆とするアミロイドを指します。 その伝播特性から、かつては他のアミロイドと区別されていましたが、近年はプリオン蛋白質以外の多くのアミロイド蛋白質において伝播性が確認されています。 たとえばAAおよびAApoAIIではプリオン同様、経口での伝播性が実証されています。

時々、動物の全身性アミロイドーシスを原発性(AL)と続発性(AA)に分ける記述を見かけますが、これは正確ではありません。 まず、動物の全身性アミロイドーシスのほとんどはAAアミロイドーシスであり、全身性ALは超レア疾患です。 我々は数百症例の動物アミロイドーシスを経験していますが、一度も全身性ALに出会ったことはありません。 動物のALアミロイドーシスは主に形質細胞腫に"続発"する腫瘍随伴性の局所性アミロイドーシスとしてみられます。 一方、AAアミロイドーシスは炎症性の前駆疾患に続発する場合と、原因不明の原発性(特発性)のもの、動物種によっては家族性のものも報告されています。 このため、アミロイドーシスを原発性と続発性に分けて分類するのはナンセンスであり、原因タンパク質によって分類するのが通例となっています。

病理学的診断法

アミロイドーシスの確定診断は「病理組織診断」によって行われます。
そのため、内科検査によって、まずはアミロイドーシスを疑うことが非常に重要となってきます。 とはいえ、アミロイドーシスには非典型例も多く、組織を観察して偶然発見することも少なくありません。

剖検あるいは食肉検査において、多量にアミロイドが沈着している臓器であれば、ヨウ素液を用いた判定が可能です。 臓器を5mm厚程度にスライスし、ヨウ素液に浸漬すれば、アミロイド沈着部位が黒変します。 腎臓などのグリコーゲンが少ない臓器であれば、特に高いコントラストでアミロイドを検出可能です。

ヨード

腎アミロイドのヨウ素による検出

アミロイドーシスを疑い、生検あるいは剖検を経て組織切片を作製すれば、遂に確定診断が可能となります。 教科書的にはアミロイドとは「細胞間あるいは組織間隙に沈着する弱好酸性均質無構造物」のような書かれ方をしますが、 実は多くの例外があります。

アミロイドの様々な沈着形態

HE染色標本にてアミロイド様の沈着物を見つけたのであれば、次はいよいよコンゴレッド染色です。 生体中のアミロイドは必ずコンゴレッド染色に陽性であり、そこに例外はありません。 病理組織学において、コンゴレッドへの反応性は最も重要なアミロイドの定義の1つです。

ただし、とても重要なことですが、全てのアミロイドがコンゴレッドで真っ赤に染まるわけではありません。 コンゴレッドの染色性は、「前駆タンパク質」 「動物種」 「沈着部位」 「標本の状態」 によって変わってきます。


AAのCR染色性

上図は全てAAアミロイドーシス症例のコンゴレッド組織像です。
同じAA、かつ同じ偶蹄目であっても、牛とラクダではこれほどコンゴレッドの染色性が変化します。

上図の下段は同一個体のニワトリの関節と肝臓に沈着したアミロイドを示しています。 関節の結合織に沈着したアミロイドが濃く染まっているのに対し、肝臓の方はどこがアミロイドかも分からないくらいです。

コンゴレッドの染色原理は、アミロイドフィブリル表面の規則正しく並んだ溝を利用したコンゴレッド分子の嵌合であると考えられています。 ただし、コンゴレッドは分子内の2つのスルホ基を有するため、実はその染色性はタンパク質内のアミノ酸組成に影響されます。 すなわち、正荷電アミノ酸残基(R, K, H)の少ないアミロイドは染色性が低下し、 逆にこれらのアミノ酸残基を豊富に有するタンパク質は、フィブリル構造を有していなくてもコンゴレッドで染まる可能性があります。

コンゴレッドの化学構造

経験上、多くの動物種において、AAはコンゴレッドに染まりにくい傾向があります。 先述の通り、AA以外の全身性アミロイドーシスにはなかなかお目にかかれません。 全身性アミロイドーシスで、やたらコンゴレッドに染まる、という症例にはとてもテンションが上がります。


様々な動物におけるAAのコンゴレッド染色性

正確な診断を下す上で、コンゴレッドの染色特性は十分に理解しておく必要があります。 他にも、コンゴレッドの注意点について、下のコラムにまとめました。 是非ご一読下さい。

コラム:コンゴレッドの落とし穴

コンゴレッド染色による判定は、アミロイドーシス診断の永年のゴールドスタンダードです。 ただし、いくつかの落とし穴にご注意を。 本コラムでは「コンゴレッドの非特異」と「過マンガン酸処理」について記載します。

コンゴレッド色素はしばしばアミロイド以外の線維タンパク質を検出します。 まずは以下のブタ肝臓のコンゴレッド偏光観察像をご覧下さい。


コラーゲン

この症例はアミロイドーシス陰性であり、矢印の緑色に光っているのは実はコラーゲン線維です。
動物種の違いや染色液の状態、分別不足などの要因によって、コンゴレッド染色はしばしば偽陽性を生じます。 また、コンゴレッド自体の特性として、コラーゲンやエラスチンはそもそも共染が生じます。 初めからコンゴレッドを頼ってしまうと、このような非特異に惑わされます。 まずはHE染色によってアミロイド沈着の部位や組織像を見極め、コンゴレッド染色はあくまでもHEによる診断の補助要因として使用されるべきです。


続いて、過マンガン酸カリ処理についてお話しします。

過マンガン酸処理法はかつてAA, ALのオーソドックスな鑑別法として使われていました。 ひょっとすると、現在も確定診断に使用しているラボもあるのかも知れません。
この方法は、過マンガン酸処理によってAAのコンゴレッド親和性が失われるという特性を利用したものですが、やはり例外があります。


ALの過マンガン酸処理

左:明視野、右:偏光


上の写真は形質細胞腫に随伴したネコのALアミロイドーシスの標本を過マンガン酸処理した後、コンゴレッド染色したものです。 ご覧の通り、偏光が消失しています。 AAでなくとも、標本の状態やアミロイドの種類、沈着部位や動物種の違いによって、過マンガン酸処理不耐性となる場合があります。 逆に、マウスなど動物種によっては、AAでも過マンガン酸処理に耐性があります。 近年、アミロイドの分類も増え、過マンガン酸カリ処理法による鑑別は意味を成さなくなってきました。

免疫組織化学

コンゴレッド染色によってアミロイドを検出出来たら、続いて原因タンパク質を同定しましょう。
現在、多くの施設におけるアミロイドの同定は主に免疫組織化学が使われています。 しかしながら、免疫組織化学は手軽さの反面、いくつかの問題を孕んでいます。

免疫組織化学はほとんどの場合、市販の抗体を購入して使用します。 しかしながら、市販の抗体のほとんどはヒトのタンパク質をターゲットとしています。 抗ウシ抗体や抗イヌ抗体などは少なく(あってもとても高価)、ましてマイナーな動物種に関しては、市販の特異抗体はまず望めません。

このため、獣医学領域において、免疫組織化学は多くの場合、抗ヒト抗体で代替します。
ただし、当然ながらほとんどのタンパク質はヒトと動物とでアミノ酸配列が異なります。

例えば、アルツハイマー病の老人斑を形成するAβ42はヒトとニワトリでも100%の相同性を有しており、抗ヒトAβモノクロ抗体が使用可能です。 一方、ヒトの甲状腺髄様癌で蓄積するカルシトニンの相同性はたった46%であり、ポリクロ抗体でも交鎖反応は期待薄です。 仮に染まったとしても特異性を証明するのは骨が折れるでしょう。

相同性

ロット毎の安定性や非特異の少なさから、免疫組織化学には出来るだけモノクロ抗体を使用したいところですが、 多様な動物種を扱う当教室では、多くの場合、ポリクロ抗体が第一選択となります。 もちろん、ある程度エピトープを予測した上で購入するのですが、それでも買ってみてやっぱり染まらなかった、なんてことは日常茶飯事です。

これらの事情から、対・動物、特に稀少動物におけるアミロイドーシスの同定は容易ではありません。
さらには、ALアミロイドーシスであれば前駆タンパク質である免疫グロブリンは可変領域を持っていますし、その他のアミロイドもしばしばアミノ酸変異や断片化を伴います。 こうした症例を相手にした際、免疫組織化学による陽性・陰性の判断は非常に難しくなります。
遭遇したアミロイドが新規原因タンパク質だった場合、免疫組織化学は完全にお手上げです。

質量分析法

上記の免疫組織化学の問題を打開するのが、質量分析法です。

当教室では、主にホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)組織切片から回収したアミロイドを検査対象とします。 理想的にはレーザーマイクロダイセクション装置を用いて、目的組織を正確に回収するのが望ましいのですが、 残念ながらどこでも使えるような一般的な機器ではありません…。 対象とするアミロイド沈着物が比較的大型(1領域 >30,000μm2)の場合、実体顕微鏡観察下で注射針を使って回収することも可能です。

実体顕微鏡を用いたマニュアルダイセクション

FFPE切片はホルマリンによる架橋を受けているため、まず界面活性剤でボイルし、この架橋を切ってあげます。 その上でトリプシン等による酵素処理を行い、LC/MS/MSに供します。 得られたMS/MSデータをMascot等のソフトを用いてデータベース解析に供し、組織中のタンパク質組成を明らかにします。

形質細胞腫のアミロイド沈着から検出されたλ light chain

質量分析のメリットは対象組織中のタンパク質の存在を直接的に証明できることです。 また、1~数種類のタンパク質を検出する免疫組織化学とは異なり、サンプル中の主要なタンパク質組成を網羅的かつ定量的に検出することが可能です。 さらには、様々な動物種をカバーするデータベースを使用することで、免疫組織化学が抱える種特異性の問題を打開することが出来ます。

これまで当教室では質量分析を用いて、 ラット、 リス、 ヤマネコウズラなど、様々な動物種のアミロイドの解析を成功させてきました。 そのほとんどは、免疫組織化学だけでは診断が付かなかったものばかりです。

医学領域では、質量分析はアミロイドーシス診断の新たなスタンダードとなりつつありますが、獣医学領域では未だメジャーな解析手法とは言えません。 上記の通り、質量分析は獣医病理学者が抱える免疫組織化学の問題を打開する、動物を対象とした研究に非常に有用性が高い解析法です。 このウェブページが質量分析に取りかかる方々の一助になる事を願っています。

動物アミロイドーシスの診断支援

近年、アミロイドーシス病型の細分化が進み、その診断は益々難しくなってきました。 そこで、当研究室ではアミロイドーシス診断を、研究の一環として動物種を問わずお引受けします。 主な解析手法は免疫組織化学および質量分析法です。
「アミロイドーシスを疑っている」 「原因タンパク質を同定したい」 と考えている先生方は、遠慮無く村上までご連絡ください(✉️)。

相談例

  • 未知のアミロイドーシスの同定
  • 既知のアミロイドーシスの確定診断
  • 良いAA抗体が無いので代わりに染めて欲しい
  • 発表映えするコンゴレッド偏光写真を撮りたい
  • これって本当にアミロイド? 等々

免疫組織化学による診断支援

隣タグで散々批判しておいてアレですが、動物におけるアミロイドーシスのほとんどは、免疫組織化学により同定可能です。 下記リストは当教室が所持する抗体ですので、これらのアミロイドーシスに関しては、免疫組織化学による速やかな同定が可能です。 動物種間の交差性も検証していますので、気になる方はお問い合わせください。

  • pan Aβ, Aβ42: 脳。老人斑、脳アミロイド血管症
  • Ameloblastin: アミロイド産生性エナメル上皮腫
  • Amylin: 膵島間質
  • Apolipoprotein AIV: 糸球体や全身血管
  • α-S1-casein: 乳腺腫瘍
  • α-synuclein (phospho-S129): 脳。神経細胞細胞質内封入体
  • EFEMP1: 全身動脈壁
  • Fibrinogen α chain: 糸球体や全身血管
  • Keratin5: 毛包腫瘍間質
  • κ/λ light chain: 形質細胞腫間質
  • Lipopolysaccharide binding protein: 乳腺Corpora amylacea表面
  • Serum amyloid A: 糸球体や全身血管
  • Tau (phospho-S202/T205): 脳。神経原線維変化
  • Transthyretin: 糸球体や全身血管
質量分析による診断支援

免疫組織化学で同定出来ないアミロイドーシスについては、質量分析による解析が効果的です。 未固定のサンプルがあればより確実ですが、FFPE試料からの解析も我々の得意とするところです。 当教室では様々な手法でFFPE切片から回収・抽出したアミロイドをLC-MS/MSで解析しています。 理論上、全てのアミロイドーシスを診断可能(なはず・・・)です。


質量分析によるアミロイドの同定

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