活動報告

環境計測評価実習

担当:高田秀重(物質循環環境科学専攻・教授)、多羅尾光徳(物質循環環境科学専攻・准教授)、尾崎宏和(FOLENS特任助教)

 
写真1 農工大農場での土壌サンプリング:どうやって、どこから採取するべきかを学んだ。   写真2 実験室での土壌処理
地図1 多摩川流域と調査地域広域図
  地図2 下水処理場(多摩川上流水再生センター、八王子水再生センター)および多摩川での試水採取地点(St.1、St.2)
 
写真3 多摩川上流水再生センターの見学

写真4 下水処理過程について説明を受ける

 

写真6 高田先生による抗生物質測定法の説明 写真7 多羅尾先生による大腸菌(E-coli)および総大腸菌群数の測定法の説明
写真5 実験室で水試料をろ過する

 

 

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「環境計測評価実習」は、FOLENS独自で開講される国内実習で、「海外フィールド実習」との基本的ペアをなす実習です。本実習は、土壌や水質の測定を行う中で、調査計画立案手法、生データの取り扱い、および測定結果の評価方法にも着目します。主な内容は、農工大農場で土壌試料採取方法を学び、重金属含有量の測定(Cu, Zn, Cd, Pb等)、多摩川の現地調査(流量、pH、EC等の現地測定)と水試料の採取および分析(抗生物質、イオン濃度、大腸菌)、下水処理場の見学です。そして、分析操作の習得に並行して、検出限界の算出法とブランク値の扱い方法、有効数字、信頼できるデータ取得のためには必要なサンプル数の計算、実際に採取したサンプル数における信頼度の計算法、統計解析方法を学びます。単に試料分析法だけでない、環境問題のさまざまな分野に役立つ知識を得ることで、この問題の“Field-Oriented Leader”となることを目指します。(HO)

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(1) 土壌採取と重金属濃度の定量…Download data (heavy metal)

本来、同一条件にある一定区画(畑、田、池、試験区…)から試料を採取する際は、ランダム(無作為)に採取場所を決める必要がある。その方法がRandom Samplingである。実際には、採取地点の決定は対角線上の等間隔地点を選ぶなど簡便的に決めることが多い(図1)。そこで本実習では、まずランダムサンプリングの手法を学び(図2)、同一の圃場で対角線法(慣習的方法:Conventional sampling)とランダム法(Random sampling)の両方によって土壌試料を採取して、重金属濃度を測定し、両者の結果を比較した。さらに、測定はICP-MSとAASを使用して、測定結果のクロスチェックも行った。

図1 農地、住宅地、庭、池など調査地における試料採取地点での慣習的対角線採取法
図2 乱数表による地点18、6、8、28、30を選定(左)した無作為採取(Random sampling)法の例(右)

慣習的対角線採取法と無作為採取法で採取した試料を、ICP-MS (Agilent 7500a)および原子吸光法(Hitachi 5310)で測定した。その結果、採取法の違い、分析機器の違いに関わらず、いずれも値は統計的に一致した(Mann-WhitneyのU検定、p>0.05、図3)。このことから、採取エリアを適切に設定すれば、慣習的に行われている等間隔での試料採取が有効な手法であることを確認した。続いて、測定結果が95%信頼度を達成するには何個の試料数が必要であるか計算した。しかし、計算結果は実際の野外調査で実現不可能な多数となる場合が多い。そこで、調査対象より得られた試料数で、どれだけの信頼性を達成しているかを計算し、実際の調査における現実的な応用方法を習得した。

図3 土壌試料中の亜鉛(Zn)濃度:対角線法(diagonal sampling)と無作為採取法
(random sampling)、ICP-MS法と原子吸光法では測定値は統計的に一致した
(2) 多摩川河川水、未処理下水、下水処理水の陰イオン濃度…Download data (ions)

多摩川河川水、未処理下水、下水処理水を農工大周辺(地図1、地図2)で採取し、分析に供した。
下水処理は、活性汚泥内の微生物によって廃水中の有機汚濁物質を分解、除去することが主なプロセスである。したがって、通常の二次処理は、無機イオンの除去には大きな効果をもたない。二次処理水(Tama-OUT、 Hichioji-OUT)におけるNO3-Nの増加は、排泄物由来のアンモニア態窒素NH4-Nが酸化されたことに起因すると考えられる(図4)。また、放流水の殺菌、消毒には、コストの高いオゾン処理よりも、塩素による消毒が一般的になされており、このことも無機イオン濃度が二次処理水で高止まりとなる一因と考えられる。富栄養化物質である窒素やリンの除去はAO法やA2O法などの高度処理が必要となる。

 
図4 多摩川河川水(St.1、St.2)、未処理下水(Tama-IN、Hachioji-IN)、二次処理下水
(Tama-OUT、 Hichioji-OUT)およびオゾン処理水(Tama-O3 )における陰イオン濃度
(3) 多摩川河川水、下水試料、下水処理水の抗生物質濃度…Download data (antibiotics)

下水処理水流入前の多摩川本流St.1では、抗生物質濃度はきわめて低かった。一方、処理水流入後のSt.2では、抗生物質濃度(ここでは、今回の対象物質の各濃度の合計を抗生物質濃度と記載する)がSt.1よりも増加した(図5a)。Tama-OUTおよびHichioji- OUTが示すように、通常の下水処理では抗生物質の除去効率は低く、実際に多摩川本流では下水処理水流入後に抗生物質濃度が増加していることから、下水処理水の流入が影響していると考えられる。抗生物質の環境中への放出が継続することで、耐性微生物が今後も増加し、新たな薬剤の開発が必要となるといった「いたちごっこ」が繰り返されることが懸念される。
八王子水再生センターの二次処理水は、未処理水よりも抗生物質濃度の増加がみられた。また、多摩川上流水再生センターおよび八王子水再生センターに共通して、Macrolides系(マクロライド系抗生物質)のAzithromycinやsulfonamide系抗生物質のSulfapyridine、Sulfamethoxazoleは処理によってむしろ濃度は増加した(図5a)。一方、Macrolides系(マクロライド系抗生物質)でもClarithromycinとErythromycinは減少しており、このことは抗生物質組成の変化に現れている(図5b)。
一方オゾン処理水では、抗生物質濃度は大幅に低下しており(図5a)、オゾンの強い酸化作用による殺菌、脱臭、脱色に加え抗生物質の分解が進んだと考えられた。したがって抗生物質の分解・除去にオゾン処理が有効であると認められる。しかし、オゾン処理設備の導入は、初期費用や運用コストの点から必ずしも容易でない。引き続き、水質モニタリングと影響評価を継続すること、人為化学物質の使用量の抑制に努めることが必要である。

 
図5a 多摩川河川水(St.1、St.2)、未処理下水(Tama-IN、Hachioji-IN)、二次処理下水(Tama-OUT、Hichioji-OUT)およびオゾン処理水(Tama-O3 )における各抗生物質濃度
 

図5b 多摩川河川水(St.1、St.2)、未処理下水(Tama-IN、Hachioji-IN)、二次処理下水
(Tama-OUT、Hichioji-OUT)およびオゾン処理水(Tama-O3 )における各抗生物質組成

(4) 多摩川河川水、下水試料、下水処理水における大腸菌(E-coli)および総大腸菌群数…Download data (e-coli and coliform)

大腸菌(E-coli)密度は、多摩川本流ではSt.1<St.2であった(図6)。これは、下水処理水の流入が影響していると考えられる。ただし、下水処理においては、処理水の放流前に塩素消毒を行うため、大腸菌(E-coli)密度は生下水>処理水である。つまり、塩素処理は放流水流入後の河川水質における大腸菌群数のコントロールには役立っているが、必ずしも全ての大腸菌を殺菌できているわけではなく、大腸菌数そのものは処理水の流入によって増加していると考えられる。

 

図6多摩川河川水(St.1、St.2)、未処理下水(Hachioji-IN)、二次処理下水(Hichioji-OUT)における総大腸菌群および大腸菌(e-coli)数 (二連で測定)

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