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微弱なテラヘルツ放射を検出できれば

外部光照射無しのパッシブな計測アプローチは宇宙初期の情報を乗せた背景輻射を捕らえるために長く天文学の分野で追求されてきました.しかしながら,豊富な固有スペクトルを考えますと,身近な物質における極微小領域における分子・電子系からの放射も興味深い対象のはずです.テラヘルツ波の光子エネルギー(10 meV程度)は,常温の熱エネルギー(25 meV at 300 K)より小さく,可視光のたった1/100以下でしかありません.これは,多くの物質が特別に与えられた状況でなくてもテラヘルツ放射に必要なエネルギーを容易に獲得できることを意味します.すなわち,対象物は周辺環境から10 meV程度のエネルギーを電気エネルギー,熱エネルギーまたはATP加水分解などの化学反応を通して容易に入手可能なはずです.そして,獲得した過剰エネルギーを対象物自身のもつ固有モードに変換し,その一部をテラヘルツ放射として消費しているに違いありません.例えば分子モータが熱浴中でATPを消費しながら運動しているとき,その分子がどの内部自由度を使って活動しているのかをテラヘルツ単一光子計測を通して知ることができるかもしれません.また,温度が定義できるもう少しマクロなスケールでも大変興味深い応用が考えられます―――生きている細胞内の温度イメージングです.リアルタイムに細胞組織内のいつどこでATPが消費されたかをその場観察できれば,代謝メカニズムの研究に画期的な手法を提供することになるでしょう.生体系の自然な状態における微視的ダイナミクスを研究するためには,外部照射無しのパッシブな顕微観察が強く望まれます.また,半導体量子構造,原子層マテリアルおよび分子デバイスの多くはテラヘルツ帯域にスペクトルを有しますので,10mV程度のソース・ドレイン電圧を閾値としたテラヘルツ発光が期待されます.これら微小デバイスの発光メカニズムを探求し,新たなテラヘルツ素子の開拓をする上でもパッシブ型のテラヘルツ計測は有用でしょう.

>> パッシブ・テラヘルツ計測

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