活動報告

2010年10月FOLENSセミナー:生物多様性条約第10回締約国会議(CBD-COP10;名古屋)への訪問

グループワークレポート

グループA生物多様性保全におけるNGOの役割:確執から協調へpdf

グループB農業に付随した生物多様性の重要性に関するCOP10を通じた再認識と、損失をいかに回復するかpdf

グループC生物多様性条約の実行へ向けた先進国と途上国のアプローチの比較pdf

グループD先進国と途上国の間での遺伝資源利用に対する立場pdf

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人間は自然の一部であり、人類の生存と活動は生物資源に支えられています。生物多様性、すなわち生物種の豊富さとばらつきは、生物資源を保つために必要です。それは生物システムが多様な種の存在の下での関係性によって成り立っているからです。生物多様性は従って現世代や将来世代のために保全されるべき地球の財産です。しかし、生物多様性への脅威は膨らみ続け、人間活動を原因とする生物種絶滅のスピードは危機的レベルに達しています。この状況に対処するために1988年にUNEPが呼びかけた取り組みが、1992年のリオ地球サミットで国連条約としての枠組みを与えられ、1993年12月に発効したものが国連生物多様性条約(Convention on Biological Diversity: CBD)です。この条約は3つの柱からなっています:

1. 生物多様性の保全
2. 生物多様性の構成要素(多様な生物資源)の持続的利用
3. 遺伝資源の利用から生まれる利益の公正、公平な分配

1994年12月にバハマ・ナッソーで開催された第1回締約国会議(1st Conference of the Parties: COP1)以来、同条約の締約国会議は2年毎(最初の3回は1年毎)に開催されてきました。その第10回締約国会議(COP10)が愛知県名古屋市において2010年10月18日~29日の2週間に亘って開催されました。この第10回締約国会議が開催された2010年は、2002年4月に合意された「2010年生物多様性ターゲット」の最終年と、2006年に国連によって設定された「国際生物多様性年2010」の年に当たり、会議の議題と行く末に対して国際的な関心が集まっていました。

10月度のFOLENSセミナーでは学生と教員が10月17日~19日の3日間の日程でこの名古屋CBD-COP10を訪問しました。将来の環境リーダーとなるFOLENS学生にとって有意義な経験となることが期待されての企画です。訪問の目的は次の通り整理されました:

1.国際会議を経験し如何なるものかを知ること

  • 国際外交文書のスタイルに馴染む
  • 国際合意形成のプロセスを理解する
  • 国際環境会議の関係機関を認知する

2. 生物多様性の概念を知り、これに対する自然科学・社会科学の役割を考えること

  • 生物の多様性とは何か、多様性はどのように計測されるのか
  • なぜ生物多様性は重要なのか(背景及び関連する問題)
  • 概念と議論に対する科学的論拠

3. CBD-COP10での論点を理解し、論点の原因及び解決策について考えること

  • 生物多様性の減少・衰退への歯止め-「2010年ターゲット」以降の新ターゲット
  • 遺伝子資源へのアクセスと利益分配(Access and benefit-sharing of genetic resources: ABS)

9月度のFOLENSセミナーでの事前セッションにおいて学生は4つのグループに分かれ、それぞれの調査トピックと調査方法を検討しました。調査トピックは次の通りであり(それぞれ仮訳)、調査結果の報告書はこの頁の上に添付してあります。

グループA:生物多様性保全におけるNGOの役割:確執から協調へ
グループB:農業に付随した生物多様性の重要性とそこからの2020年ターゲットへのアプローチ:農業に付随した生物多様性とは?
グループC:生物多様性条約の実行へ向けた先進国と途上国のアプローチの比較
グループD:先進国と途上国の間での遺伝資源利用に対する立場

1日目:学生と同行教員(以後、「参加者」とします)は事前の正式登録に基づき、「オブザーバー」資格での参加証を受け取りました。「オブザーバー」資格の取得により、会議会場、サイドイベント会場、歓迎レセプションなどへの自由なアクセスが参加者に保証されました。参加者は会議会場3ヶ所(白鳥地区、長久手地区、栄地区)全てを回り、会議の会場設定を概観して確認しました。

2日目:グループ調査が開始されましたが、多くの参加者は開会式に出席しました。生物多様性をテーマにした素晴らしい影絵と竹笛の上演で始まった開会式では、環境大臣(新旧議長)と事務局長(国連機関)のスピーチがなされましたが、これらスピーチには後になって様々なコメントが学生から寄せられました。午前と午後のセッションの間の昼食時には様々なサイドイベント(活動発表会、研究発表会、分野勉強会、交渉戦略検討会等)が開催され、学生はグループ調査の課題に関して発表・討議内容や専門家から熱心に情報収集に当たっていました。会議会場の直ぐ外に隣接する公園では、会議への参加資格がなくとも誰もが見学・参加できる「生物多様性相互交流フェア」が開催されており、市民グループ、団体組織、研究機関、企業などが出展するブースが数多く並んでいました。学生にはグループ調査とは別の課題が与えられ、それはこれらのブースを見学・観察して、内容、表現方法、もてなし、の観点から良いブースを選ぶというものでした。この簡易「ブース・コンテスト」では、今後自ら関わるであろうこうした出展の機会に良いプレゼンテーションとする秘訣は何かを学生自らに考えさせることが意図されていました。日本政府主催の歓迎レセプションへの出席も得がたい経験になりました。1000人以上のゲストを賄う料理、飲み物、そして優雅で上品な日本のもてなしがそこにはありました。

3日目:グループ調査は朝早くから開始され(いくつかのNGOがその日のブリーフィングを朝早くから行っていました)、午後まで続けられました。会場の構造、会議の成り立ちと文章に慣れ始めていた学生達は一層盛んに調査活動を続けていました。午後遅くに3日間の活動の締め括りのミーティングがもたれ、調査結果の概略が各グループから報告され(詳細報告は11月度のFOLENSセミナーにて行います)、同時に何人かの学生から参加した感想が述べられました。述べられた感想からは、今回の経験が学生にとって、自らが将来関わることになる環境関連の国際的な活動を理解するための有意義な機会になったことが窺われました。

今回のCBD-COPのような国際条約会議は外交官が国際条約文章を討議・交渉する場というだけでなく、非常に重要な機能として、様々な関係者が条約に関連する活動内容・研究結果・自らの意見を発表する場にも、情報や意見を交換する場にも、人脈を広げる場にもなっています。つまり、条約が目的とするもの(今回の会議の場合は「地域レベル、地球レベルでの生物多様性の保全」)に関係する、危惧する多くの人々がコミュニケーション(意思疎通)する場なのです。参加者の一人が言っていた感想がこのことを端的に表現しています―「これは全く学会(学術会合)のようだ」。コミュニケーションは条約交渉の力の源泉であり、実際上この世界の、地球の現在を作り上げているのです。(tf)

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