ホログラムディスプレイ
ホログラフィーは究極の立体表示技術と言われています。ここでは、その原理と課題、さらに本研究室での取り組みについて紹介します。
【ホログラフィーの特徴】
光は波であることが知られています。光が物体で反射されると波の形が変化しますが、この波の形のことを波面と言います。ホログラフィーは波面を再生するので、そこに物体がなくても、あたかもそこにあるように見えます。そのため、他の立体表示方式で生じる輻輳と調節の矛盾などの問題が生じない理想的な立体表示方式と言われています。
ホログラフィーは、最初、写真技術として開発が行われました。これは、下図に示すように、物体で反射された波面である物体波に、別に用意した光(参照波)を干渉させた干渉縞をフィルムに記録します。これを現像したものがホログラムです。ホログラムに再生波をあてると、光の回折現象により物体波が再生され、立体像が表示されます。
【電子ホログラフィーの課題】
ホログラフィーを、写真としてではなく、電子的に表示するディスプレイとして実現するためには、どうしたらいいでしょうか?単純に考えると、下図に示すように、干渉縞をカメラで撮影して、これをディスプレイに表示すればいいことになります。でも、そう簡単にはいきません。なぜなら、波面は光の波長の間隔で繰り返すため、その干渉縞はやはり光の波長程度の細かさになるからです。
電子的なホログラム表示で、干渉縞を表示するディスプレイを空間光変調器 (SLM) と言います。上述のように、SLMには光の波長程度のピクセルピッチが必要になります。一般には、1ミクロンのピクセルピッチが必要であると言われています。現在のハイビジョンテレビのピクセルピッチは300〜500ミクロン程度ですから、1ミクロンというピクセルピッチが如何に小さいかわかると思います。ホログラム表示を行うためには、数百倍も小さいピクセルピッチが必要になります。また、単純にピクセルピッチを小さくすると、画面が小さくなってしまいます。同じ画面サイズを実現するためには、数十万倍のピクセル数が必要になります。現状では、ピクセルピッチが5ミクロン程度でピクセル数が7,680×4,320が実現できるSLMが限界です。この場合の画面サイズは1.7インチで視域角は5.6°とかなり小さくなります。
【本研究室の取り組み】
写真技術としてのホログラフィーを単純に模倣するのでは、電子ホログラフィーの実現が難しいことわかったと思います。そのため、新しい電子ホログラフィーの実現方法が世界中で研究されています。例えば、MITの音響光学素子を用いた方法などが有名です。ここでは、本研究室で研究している電子ホログラフィーの新しい実現方法を紹介します。
水平走査型ホログラフィー
高フレームレートSLMで高速表示した画像を水平方向に縮小し垂直方向に拡大したものを要素ホログラムとして、これをガルバノスキャナで水平方向に走査します。時間多重技術で、小さなピクセルピッチと多くのピクセル数を実現します。
高フレームレートSLMとして、毎秒約1万枚の画像表示が可能なMEMS型SLMを用いて、ホログラム表示を実現しています。ちなみに、現在のテレビは毎秒60枚の画像表示を行っています。
解像度変換を利用したホログラム表示モジュール
解像度変換技術という独自の光学技術を用いて、SLMの水平解像度を数倍に増やし水平ピクセルピッチを小さくすると同時に、画面サイズを拡大します。この技術を用いて、下図に示す枠なし表示画面をもつホログラム表示モジュールを実現します。このモジュールを縦横に2次元的に組み合わせることで、さらに画面サイズを拡大できます。
解像度4k2kの反射型SLMを用いて試作したホログラム表示モジュールの写真を下に示します。これは、NICT委託研究で開発したもので、JVCケンウッドホールディングとATRと共同で研究を行いました。