Laboratory of terahertz science and devices
東京農工大学 知能情報システム工学科 張研究室
テラヘルツ周波数帯の半導体マイクロ/ナノ構造の基礎と応用

3. テラヘルツ波を利用して単一ナノ量子構造における電子ダイナミックスの評価

 波長約100ミクロン程度のテラヘルツ(THz)電磁波の光子エネルギーや時間スケールは、半導体中の典型的なそれと整合するため、半導体中の電子状態やダイナミクスに関する貴重な情報を与えてくれる。しかし、THz電磁波の波長は約100μm程度であり、一方、量子ドットと呼ばれる量子ナノ構造のサイズは数十nmと何桁もサイズが異なるため、多数の量子ドットの平均的な情報を計測することしかできなかった。一般に自己組織化量子ドットのサイズには揺らぎがあるため、信号は非常にブロードとなり、量子ドット中の量子遷移の物理をTHz分光で精密に議論することは不可能であった。

 本研究は、ナノギャップ金属電極を用いてTHz電磁波をナノメートル領域に集光し、単一自己組織化量子ドット中のサブレベル間遷移スペクトルの精密な測定に世界で初めて成功するとともに、量子ドットの異方性や遷移選択則、電子間相互作用、軌道の電子配位などがスペクトルに与える影響を明らかにしたものであり、THz電磁波でナノメートル領域の物性を解明するという新しいナノ科学・ナノエレクトロニクスの分野の開拓に大きく貢献するものである。