Laboratory of terahertz science and devices
東京農工大学 知能情報システム工学科 張研究室
テラヘルツ周波数帯の半導体マイクロ/ナノ構造の基礎と応用

2.     MEMS共振器における非線形効果の解明・新振動解析装置の開発

我々は、MEMS共振器に内在する機械的非線形性に注目し、独創的発見を得ている。

(1) 非線形性により生じる振動モード間の結合による巨大な熱感度増大効果  

従来のMEMSボロメータは、梁の機械的振動や熱膨張という古典的な力学効果を用いているため、期待される感度等も簡単な表式で記述できる。さらに作製した素子が持つ感度もほぼ理論値に近い値が得られる系である。このことは、さらなる高感度化の余地があまりないことを意味しており、MEMSボロメータのさらなる高感度化のためには、全く新しい動作原理を導入する必要がある。

 我々は、MEMS梁に内在する力学的な非線形性により生じる梁の振動モード間の相互作用が、非常に大きな熱感度増大をもたらすことを発見した(感度:responsivityと呼ばれ、入力信号に対する出力信号の大きさを表す)。MEMS両持ち梁には様々な振動モードが存在するが、系に非線形性が存在するとモード間の結合が生じ、入力する熱を特別な周波数で変調すると、数十倍も大きな熱感度が得られることを確認できた。このことは、テラヘルツ検出への応用に限らず、他のセンシング用途や、フォノンによる量子情報転送などの幅広い分野にも可能性を秘めるため、応用的に重要であるのみならず、学術的にも重要な知見をもたらすものである。 

(2) MEMS共振器の非線形制御効果

一般的なMEMS両持ち梁構造は、振動振幅が増大するにつれ、梁がより伸張され、材料が堅くなる性質がある(hardening)。従って、振動振幅の増大とともに共振周波数は上昇し、hardening非線形性を示す。そのため、線形振動領域を保つためには、振動振幅は数十ナノメートル程度の非常に小さい値にする必要があった。我々は、MEMS梁に薄膜抵抗を作製し、それを利用してMEMS梁を電気的に加熱することによって、MEMS梁の非線形性を強く低減できることを発見した。非線形を制御されたMEMS素子においては、線形領域の振動振幅が、非線形性を制御していないMEMS素子のそれに比べて、10倍以上に増大できることを確認した。当該成果を用いて、MEMS素子の非線形性を強く抑制し、MEMS素子の信号対雑音比を大幅に向上させることができるため、超高感度センシングへの応用展開が期待できる。

(3) 非線形振動を可視化するMEMS振動解析装置

特に振動解析装置について、従来、広く使われているレーザドップラー振動計はレーザが当たっている位置の振動のみを測定できるため、素子全体的振動の解析が難しい。マイケルソン干渉計を用いた振動解析装置は素子全体的振動ができるが、測定可能の変位範囲が小さいという問題点がある。それに対して、候補者が発明したMEMS振動解析装置は、微分干渉顕微鏡を用いてMEMSの振動を高感度でイメージングすることができ、且つ測定可能の最大変位は従来の技術より10倍以上大きいため、MEMSの非線形振動の研究に広く応用されることが期待できる。

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