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感温性ゲル

poly(NIPA) poly(NIPA) 刺激応答性ゲルとは、温度、pH、電場、光などの外部環境のわずかな変化に応答して、親・疎水性などの物理化学的特性が劇的に変化し体積相転移を引き起こす(体積が不連続に大きく変化する)ゲルであり、この種のゲルを用いた薬物徐放材料、分離材、センサ、アクチュエータなどの開発が期待されています。

温度変化に応答する感温性ゲルの代表的なものとしてN−イソプロピルアクリルアミド(NIPA)があります。NIPAポリマーは、約33℃の転移温度以下では親水性であり水に溶解する一方(水溶液は透明)、転移温度以上では疎水性となり不溶化します(水溶液は白濁)。そのため、NIPAポリマーを架橋結合したゲルは、転移温度以下では吸水して膨潤し、転移温度以上では脱水して収縮する体積相転移を発現します。

gold NIPAゲルの溶液中の重金属イオンの吸着特性を調査したところ、NIPAゲルは銅や亜鉛などほとんどの金属に対して不活性(吸着しない)ですが、金イオンを特異的に吸着することを発見しました[14]。しかも、転移温度を境にして、低温ではほとんど吸着せず、高温で多く吸着しました(写真)。これにより、温度変化を与えるのみで吸・脱着操作を行え、さらに金イオン溶液を濃縮できることを実証しました。金以外の重金属イオンの吸着は、NIPAゲルに相互作用基を導入することで達成できます[16]。



重金属の新規な分離材”分子インプリント感温性ゲル”の開発

感温性ゲルの分離媒体への応用例として、温度スイングによって選択的に標的重金属を吸・脱着する分子インプリント感温性ゲル吸着材を開発しました[18,19]。NIPAとキレートモノマーを架橋剤とともに重合させて高分子化する際に、予めキレートモノマーと銅(重金属のモデル)との錯体を形成させておく分子インプリント法を適用すると、銅が高分子内で配位結合した状態のゲルが合成できます。この状態から、酸で銅を化学的に取り出すと、ゲル内には鋳型分子の銅の配位形態を記憶する分子認識部位(吸着サイト)が構築できます。ある温度において、ゲルネットワークが合成時のインプリントした状態となった時には、ゲル合成時に構築されたキレート二分子から成る吸着サイトが再形成され、このゲルは選択吸着性能を発現します。この状態から温度を低下させゲルネットワークを膨潤させると、キレート二分子が拡がることから重金属は多点吸着できなくなり脱着します。

感温性高分子を用いた重金属の温度スイング固相抽出法の開発

spe 上記の例のような感温性ゲル吸着材では、感温性を発現させるために相互作用基の導入量が制限されるので十分な吸着量が得られません。また、新規なゲル吸着材の開発には手間がかかります。そこで、感温性ゲルと抽出剤を用いた新規な温度スイング固相抽出法を提案・開発しました[11]。この方法では、まず水溶液中の金属イオンと抽出剤の錯体を形成させます。抽出剤に、特定の重金属イオンと相互作用するキレート試薬や錯化剤を用いることで選択的な錯体形成が可能となります。そして、疎水基を持つ抽出剤を用いることにより、その金属錯体を転移温度以上の感温性ゲルとの疎水性相互作用により固相抽出させます。その後、転移温度以下で感温性ゲルを親水性にすることによりゲルから金属錯体を脱着させ回収します。また、感温性ポリマーを用いた温度スイングによるインジウム(液晶パネルに使われている希少金属)の凝集沈殿分離[5]、感温性グラフトポリマーを用いたクロム−フミン酸錯体の吸着分離[3]に成功しました。

新規な感温性多孔質ゲルおよびエマルションゲルの開発と応用

emulsion-gelation ゲルの新規な構造制御技術として、エマルションゲル化法を開発しました[12]。具体的には、モノマーを含む水相に油滴を分散させた状態でゲル化(重合)させる方法で、油滴を内包したエマルションゲルおよび油滴を除去した多孔質ゲルが得られます。この手法では、均質ゲルの高分子の組成や網目構造を変えることなく、数〜数十μmの孔を有する多孔質ゲルが得られます。この感温性多孔質ゲルは、従来の均質ゲルと比べて温度変化に応答する膨潤・収縮の変化の速度が著しく増大しました。また、水相と油相の体積比や、界面活性剤の種類および添加量により、孔径と多孔度を制御できることを見出しました[6]。

porous エマルションゲル化法で作製されるエマルションゲルおよび多孔質ゲルは、油滴および孔を分離・反応・貯蔵の場に用いる材料としての応用展開が期待されます。我々は、感温性エマルションゲルのドラッグデリバリーシステムの媒体(薬物徐放材料)への応用について検討しました[8]。この種のゲルを合成する際、油相に薬物をあらかじめ溶解させておけば、ゲルの合成と脂溶性薬物の充填が同時に行えます。温度スイングによる薬物放出のon/off制御が可能な事を明らかとしました。



感温性高分子オルガノゲルの開発とDDSへの応用

organogel 研究開発されている感温性高分子ゲルの大部分は水で膨潤したハイドロゲルであり、その用途は基本的には水中に限られます。これに対し我々は、ハイドゲルとは異なる環境で使用可能であり、またそれとは異なる機能を発現しうる、新規な感温性高分子オルガノゲル(油で膨潤したゲル)を開発しました[4]。具体的にはoleyl alcohol(油)で膨潤したpoly(stearyl acrylate)ゲルであり、約38℃でステアリル側鎖の結晶アモルファス転移を発現します。ゲルは、低温では不透明で硬く蝋燭に似た性状ですが、加熱して約39℃にすると透明となり軟化します。さらに、温度応答性のドラッグデリバリーシステム(DDS)への適用について検討し、このゲルは脂溶性薬物の充填に適していること、および温度スイングにより薬物放出のオンオフ制御(36℃程度では放出せずに40℃以上で放出する)が可能なことを明らかとしています。

溶液中の金属イオンの新規な分離材の抽出剤内包エマルションゲルの開発

作成中

新規な生体触媒固定化高分子ゲルの開発と応用

酵素、細菌、酵母などの生体触媒を高分子ゲルに固定化する手法の開発、および生体触媒固定化高分子ゲルの触媒としての応用を行っています。酵素lipaseを固定化したゲルは、エステルの加水分解反応、エステル化反応、エステル交換反応などを触媒します。油脂からのバイオディーゼル燃料の生産に利用できます。アンモニア酸化細菌を固定化したゲルは、排水中のアンモニアを亜硝酸に変換できるため、下水などの排水処理に利用できます。

sub-mm〜mmオーダーの高分子ゲル粒子の作製技術の開発

沈降重合法と液滴微粒化法(静電微粒化法または二流体微粒化法)を組み合わせた手法を開発しました。

溶液中の金属イオンを検出するQCMセンサの開発

作成中

Pdナノ粒子複合高分子ゲルの開発と鈴木・宮浦カップリング反応への応用

作成中

不均質構造のゲル中の溶質の拡散係数

ゲル中の溶質の拡散係数の推算式は、2000年以前より様々なものが提案されており、ゲル中のポリマーの体積分率(言い換えると含水率)などがパラメータとなっています。本研究では、前例のない、架橋密度(圧縮試験から実測される値)をパラメータに採用し、その有効性を明らかとしました。特に、様々な種類の不均質構造や多孔質構造のゲルに対して統一的に利用できます。つまり、ゲルの圧縮試験(ゲルにおもりをのせるという単純な実験でも可)を行えば、当該ゲル中の溶質の拡散係数が見積もれます。

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