ものづくり につながる医工学研究
当研究室の研究の原動力は,「今までにない役立つものをつくりたい!」「斬新で面白いものをつくりたい!」という田川教授の子供の頃からの純粋で熱い情熱です.ものづくりにおいては,その仕組みを深く理解するほど的確な工夫ができるものです.その根幹に,自然現象の仕組みを理解する学術研究(医工学)があると考えています.
研究の醍醐味は,何かを明らかにできた時に「なるほど!」「そうなっていたのか!」と知的な興奮・感動を味わえることです.この喜びを自分達だけにとどめず,新しいものづくりへと結実させ,社会へ貢献します*2.流体力学をまったく知らない人にも,新しくて役立つもの・面白いものを通して,幸せを感じてもらうことが私たちの願いです.
創造的実験技術と一流の設備
招聘研究を軸とした国際ネットワーク
私たちは新しい国際研究拠点を形成し,世界的なスケールで研究者の「ターミナル*5」の役割を果たすことを目指しています.当研究室では,学生の海外派遣,交換留学,教員の長期海外共同研究,海外から研究者を招いた招聘研究を活発に行なっています.しかし一対一の関係を軸とする派遣・招聘を個別に繰り返すだけでは波及効果は生まれません.招聘研究を強化して当研究室を研究者の交流の場とし,シナジー効果を生みだすことを目指します.世界から当研究室へ,そして当研究室から世界へと橋渡しをし,ダイナミックな研究展開を喚起します.
マイクロジェットの流体力学的解明
当研究室では従来と異なる液体駆動力として衝撃力に着目し,慣性力が粘性力の1,000倍以上大きい超音速マイクロジェット(高Re数流れ)の生成手法を世界で初めて*6開発しました.さらに,医療応用展開(無針注射器開発(図1)),工学応用展開(高粘度液体吐出装置開発(図2))に取り組み,様々な成果を得ています.国内外特許を取得した本研究は日経産業新聞に特集記事が掲載されるなど国内外で注目されています.現在,機能性材料(粘着剤,細胞培養液ほか)の吐出による新技術へ展開しています.学術的未解明現象の研究に取り組み,新しいマイクロ流体分野の開拓を目指します*7.
図1 生体組織への無針注射実験(田川・田中) 図2 高粘度材料吐出手法と塗布過程(田川)
(Kiyama, Tagawa, Tanaka et al., Proc. APS/DFD, 2016)
段階的な,研究力の向上
加点式の評価方法
当研究室の評価方針は「加点式*11」です.研究活動とは,人類史上,未解明・未発明・不可能なことがらに果敢にチャレンジするクリエイティブな活動であり,独自のアイデアをいくつも提案し,何度失敗しても,可能性がある限り諦めず挑戦を続けることが理に適った戦略です.つまり加点式の方針で「失敗を恐れず,他者と別の道を進むこと」が最良です.学生には加点式の姿勢で研究に取り組んでもらい,既存の枠組みを飛び超えた知的な冒険に思い切って挑戦できる環境を整えています.
なお,学生の研究活動評価をできるだけ公正に行うため,評価観点を学生全員に事前に明示し,学生の意見を取り入れる機会を定期的に設けています.また,年に4回以上の定例面談で評価を伝え,その根拠を説明します.学生は,半年間の研究活動の何が良く,何を改善すべきかを知ることで次の半年に活かすことができます.
- ー 当研究室の5つの評価観点 ー
- 1. 研究への普段の取り組み
- 2. 専門的な知識の習得度
- 3. 論文の学術的,技術的価値
- 4. プレゼンテーション技術
- 5. 論文執筆の完備性,完成度
良質な問いと議論
研究では,「問い(問題設定)」の質が極めて重要になります.なぜなら,研究は常に「なぜ」という問いから始まり,答えから始まることはないからです.学生には問いの質を向上させるためのトレーニングが必要です.また問いの答えの全貌は,全知全能の人でない限り,すぐに得られるものではありません.けれども,私たちはそれぞれ少しの真実の「カケラ」を掴んでいるものです*12.カケラを持ち寄り,見せ合い,交換すること,つまり議論の繰り返しが真実に近づく道です.良い議論には,違いを認め尊重しあい,多様な視点から真実を求める姿勢が不可欠です.問いを発することは不安を伴い,議論は一定のストレスがつきものです.そこで田川教授は,安心して問いを発し,伸び伸び議論できる機会を保証することを自身の役割と考えています.教員・先輩・後輩といった垣根を超えて,対等もしくはそれ以上に議論を交わせる力を付けた卒業生が,自分の信じる道を進み,社会で活躍してほしいと強く願っています.
面談重視
終わりに・・・田川教授の教育に対する姿勢とは?
学生と接していて痛感するのは,「教員」という立場から学生に働きかけるだけでは学生は真剣に耳を傾けてくれないということです.元海軍連合艦隊司令長官の山本五十六氏の言葉に「やってみせ 言って聞かせて させてみて ほめてやらねば 人は動かじ」*15というものがありますが,特に「やってみせ」を教員がサボると学生にメッセージが殆ど伝わりません.まず教員が研究に夢中になり,自身の成長のための努力を惜しまず,困難にも前向きに取り組むこと,が研究教育の大前提だと考えています.
また,音楽家の齋藤秀雄氏*16は「教育は植物を育てるのと同じである.植物に肥料を十やったからといって,植物が全部吸い上げるわけではなく,何分の一かを吸い上げるに過ぎない.だから教えるときは無駄になるとかならないとかを考えてはいけない.百やって十吸い上げてくれれば,教育者としては満足して,喜ばなければならない」という内容のことを語っています*17.確かに,植物が吸う水の量は,植物にやった水の何割かに過ぎないでしょう.
しかし,どうせ吸収せず無駄になるから,と最初から何割かしか水をやらないと,植物は枯れてしまいます.私は,これまでの教育活動における数多くの失敗から,学生に伝える内容の適量とは,吸収されずに一見無駄になる量も含むことを学びました.学生それぞれの“適量”を探りながら学生と向き合うよう心がけています.
種から芽が出て,葉が増え,最後に美しい花が咲いたときの喜びは何にも代え難いものです.