研究内容

研究ミッション

本研究室は,パターン認識,機械学習,人工知能,ビッグデータ解析などの最新の技術を用いた医用画像解析に関する研究と,それらの成果を用いた診断支援システムの開発を目指します.

背景

画像撮影装置の進歩により,人体内部を1mm以下の解像度で3次元的に画像化できるようになりました.その結果,極めて早期のがんなども発見できるようになりました.しかし,数百枚から,多いときには千枚を超える画像を肉眼のみで検査することは,医師に大きな負担を強いています.そこで,コンピュータを使って画像を自動で解析して,臓器やその内部の異常を認識し,医師を支援する画像処理プログラムの開発が求められています.以下では,本研究室で行われている研究について,その概要と合わせて紹介します.

研究例

1. 骨シンチグラム

骨シンチグラムは,腫瘍性疾患の全身骨転移診断に非常に有効で,広く臨床で用いられている核医学検査の1つです.この検査では,患者1人につき人体を前面と後面から撮影した2枚の2次元画像が得られます.全身を見渡すことができ,かつ病変の検出に非常に感度の高いという特徴を持つ骨シンチグラムは,骨転移診断において中心的な役割を担っています.また,骨シンチグラムの画像診断において,骨転移の拡がりを定量的に評価する手法として用いられるBone Scan Index(BSI)は骨転移である陽性高集積の正確な検出が重要です.これまで,U-Netという深層学習ベースのネットワークを用いた陽性高集積検出処理が提案されましたが,前面と後面の画像を独立に処理していたため,前面と後面の検出結果の間に整合性がない場合がありました.本研究では,Btrfly-Netを用いて前面と後面の骨シンチグラムの情報を同時に処理することで,両方の画像の出力に整合性のある結果を得る方法を提案します.


2. 超解像

近年,CT像やMR像などの様々な医用画像を用いた画像診断が行われ,診断や治療において重要な役割を果たしています.画像診断では,CT像やMR像などから体内の異常の有無を診断し,その後の治療方針を決定します.しかし,正確な診断のためにこれらの医用画像では解像度が高いことが望まれますが,撮影条件(被曝量,撮影時間)の制限によって,画像の解像度が制限されてしまいます.そこで,低解像度 (Low Resolution: LR) 画像から高解像度 (High Resolution: HR) 画像を復元する超解像技術が注目されています.LR画像からHR画像を復元することで,病気の早期発見や病巣の正確な位置の把握が期待されます.本研究では超解像技術に焦点を当て,Generative Adversarial Networks(GAN)を用いることで従来の手法に比べ,高精細なHR画像の復元を可能にしました.


3. 統計モデル

統計モデルとは臓器の形や濃度分布を少数のパラメータで表現したものであり,医用画像処理では重要な事前情報として利用されています.例えば,臓器セグメンテーションにおいて,統計モデルは臓器形状の制約条件となり,明らかに臓器の形状とは異なる形状を取り除き,セグメンテーションの改善を図ることが期待されています.


3.1. ヒト胚子の統計的形状モデル


ヒトの発生の過程において,妊娠3~9週は胚子期と呼ばれ,器官を形成するための重要な時期であり,さまざまな異常が発生する危険性のある時期でもあります.また,新生児の死亡原因の25%が先天異常であると言われており,出生前の診断が非常に重要です.そのため,ヒト胚子の成長予測や出生前の画像診断のための計算機支援診断システムの開発が求められています.胚子期の器官は成長に従って形状が大きく変化するため,従来の統計的形状モデルでは,このような時間変化による解剖構造の形態の大きな変化をうまく扱うことができませんでした.本研究では,時間変化に対応した時空間統計的形状モデルを構築し,先天的な異常形状に対する診断支援に利用することを研究しています.



3.2. 血管の統計的濃度モデル


血流の異常によって発生する病気は死と直結しており,非常に深刻なものであることが多いです.例えば,動脈硬化によって血管内の血流が滞り,血管にできるこぶが原因として引き起こされる心筋梗塞や狭心症などがあります.したがって,血管上の異常を早期発見することが不可欠です.血管のセグメンテーションは異常の検出に重要な役割を果たし,統計モデルの適用によって精度の向上を期待できます.一方で,血管等の線状構造を対象とするモデル構築は,その濃度分布の複雑さからモデル化が難しく,ほとんど検討されていません.本研究では,肺の血管や気管支といった線状構造を対象に,統計的濃度モデルを"VAE"という深層生成学習によって構築するという研究を行っています.


4. 認知症診断支援

近年の医療技術の進歩に伴い,我々の生活はより豊かなものになった一方で,少子高齢化という社会問題は深刻化しています.高齢化社会の問題点の一つに高齢者の認知症が挙げられ,認知症は「老化によるもの忘れ」とは異なり,何かの病気によって脳の神経細胞が壊れるために起こる症状や状態を指します.認知症はその原因によって複数のタイプに分類されます.最も多いのはアルツハイマー型認知症(AD)であり,脳血管性認知症(VD),レビー小体型認知症(DLB),前頭側頭型認知症(FTD)と合わせて認知症4大原因と呼ばれています.VD以外の認知症3大原因は,SPECT検査で早期に識別できる場合が多くあります.SPECT検査は,脳の血流状態を画像にして見ることができる一方で,人が画像を見て血流の低下部位を特定し,認知症を診断するのは難しく,時間もかかるため,コンピュータを用いた支援が求められています.本研究では,SPECT画像から認知症を認識する深層学習に基づくシステムの開発を行っています.


5. 臓器セグメンテーション

小児画像は,個人やその年齢によって臓器の濃度,形状,位置,大きさのばらつきが大きく,また,小児CT像では低線量撮影をするため,低解像度かつ低SN比(信号対雑音比)の画像となってしまいます.これらの問題点から成人対象の画像診断支援システムとは別に,小児独自のシステムが必要になります.近年のセグメンテーション手法では深層学習をベースとしたものが多く提案され,高精度の結果が報告されている一方で,臓器形状の事前知識を学習しないため,不自然な形状の予測結果が存在するという課題があります.本研究では3次元CT画像に対応した"3D-Unet"に小児肝臓の時空間統計的形状モデルを適用することで,小児CT像の肝臓セグメンテーション性能の向上を図ります.


6. 皮膚疾患画像分類

皮膚は体表を覆う組織であり,成人では体重の約16%を占める人体最大の臓器です.皮膚は体外と直接接触し,水分の維持・体温の調整・刺激からの保護・感覚器官の役割など,人間が生きていくうえで不可欠な複数の働きを有しています.しかし体表に位置する皮膚は,水分の蒸発や異物の侵入,紫外線の照射など,多くの外的刺激に曝され続ける器官でもある.こうした刺激によって皮膚は様々な疾患を発症します.特に皮膚がんは他の器官に発生する癌と比較して進行が遅く,早期発見と治療により処置が容易となり,患者と医師の負担を軽減で きます.そのため皮膚の異常に対し,迅速な医師の診断と治療を行うことが求められています.本研究では,撮影機器・角度・スケール・背景などが多様な画像から構成される実験試料を対象に,複数枚の画像を用いて識別能力を向上させる手法について提案します.