RESEARCH
研究紹介(製造プロセス)

概要

私の研究を含め,プロセスシステム工学の研究は以下のように大別できる.

【モデリング】対象プロセスの挙動を数式で表現すること.
【状態監視】モデルに基づいてプロセスの現状を把握すること.
【シミュレーション】モデルに基づいてプロセスの将来を予測すること.
【制御・最適化】将来の状況を望ましい状態にするために手を打つこと.

以下に,私の研究例を示す.

1.プロセスデータの統計的データ解析によるソフトセンサ設計

プロセス産業においては,当然,品質要求を満たす製品を生産することが求められる.しかし,肝心の品質をリアルタイムに測定することは必ずしも容易ではない. これは主に,測定機器が高価であることや測定自体に時間がかかるということによる. また,測定頻度が十分でない場合もある.このように測定が困難な変数を, リアルタイムに測定できる変数から推定するためにソフトセンサが利用される.ソフトセンサという呼称はハードウェアによって直接測定しているセンサーとの対比からくる. ただし,ソフトセンサとハードセンサを厳密に区別するのは難しい.ここではプロセスデータに基づく回帰モデル のことを指すこととする.典型的なソフトセンサの適用先は 蒸留塔であり,温度,流量,圧力などから製品組成を推定するために用いられる.その他にも,製薬,鉄鋼,半導体など幅広い産業で利用されてきた.本研究では,高精度な ソフトセンサを設計するための手法の開発と応用を行っている.

2.プロセスデータの統計的データ解析による品質変動原因の特定

製造プロセスにおいては大量のデータが測定されているが,どの変数がどの程度品質に影響するのかを把握することは困難である.特に固体を製造しているバッチプロセスなど,分布定数系や時変プロセスの挙動を把握することは難しい.本研究では,このような系を主な対象として,操業データから品質を変動させる要因の特定をするための方法論を開発している.
研究成果は近日公開予定である.

3.Czochralskiプロセスのモデリングと制御

Czochralski(CZ)プロセスは単結晶シリコン(Si)インゴットを製造するためのプロセスであり.95%以上の単結晶SiインゴットがCZプロセスで製造されている. 単結晶Siインゴットは半導体の原料であるから,AI,IoT,BigData,Society 5.0などには必須であり,今後も単結晶Siインゴットへの需要が高まっていくだろう. また,単結晶Siインゴットの60%以上は日本企業によって製造されており,需要の高まりと合わせて考えると,CZプロセスの生産性向上は日本にとって非常に重要であると言える.CZプロセスでは,るつぼに充填した多結晶シリコンをヒーターで加熱して融解させた後,融液表面に付けた種結晶とるつぼを回転させながら引き上げることで,単結晶シリコンインゴットを製造する.操作変数はヒーターの消費電力P,結晶引き上げ速度vp,るつぼ上昇速度vcである.制御変数は固液界面における結晶半径rcry,結晶成長速度vgであり,高品質な製品を得るためにはrcryとvgを一定に保つ必要がある.本研究では,複雑な挙動を示すCZプロセスの正確なモデルを構築し,モデルに基づいた制御を実現することを目指している.

4.分光分析を利用したマイクロ化学プロセスの状態監視

マイクロ化学プロセスは直径がμmオーダーの流路を有する化学プロセスである.流路が細いことにより,従来の化学プロセスに比べて混合性能や伝熱性能が向上し,収率や選択率の 改善,運転コスト削減,プロセスの安全性向上などに寄与しうる.ただし,流路が細いことで計測機器や制御機器が設置しづらくなるという問題もある.また,生産量を増加させるためには 流路を並列化させなければならないことが多いことも,マイクロ化学プロセスの計測と制御を困難にする.これを解決するために,本研究では分光分析を利用したマイクロ化学プロセスの状 態監視手法を開発している.分光分析を利用することで,多様な特性が測定可能になることが期待される.また,装置構造に工夫を施すことにより,並列化された全ての流路内の状態を監視することができる.

5.医薬品連続生産プロセスの状態監視

医薬品業界では,バッチプロセスを利用しての製造が主流であった.近年では,医薬品製造のコスト削減のため連続プロセスを利用しての製造が注目を集めている. 医薬品製造には公的機関からの認証が必要であり,連続プロセスによる製造を実現するには連続的なプロセスの状態監視が必要となる.本研究では多変量統計的プロセス監視(MSPC)によるプロセス監視 手法の開発を行っている.乾燥工程を対象としたケーススタディでは,給気風量,給気温度,湿度の異常を特定できた.