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・リグニンにおけるH核の新しい役割
・リグニンは酵素と非接触でも伸長する
・選択的重水素標識リグニンのモデル化合物の合成
・反応性の高いスピロジエノン構造の定量
・コニフェリンのグルコース部分はどこへ?
・リグニンの高分子化は複雑怪奇
・新たな結合の発見
・β-1構造は“G核”がお好き?
・リグニンは多糖を結合した後、さらに伸長する?
・細胞壁の中でもリグニンの構造は一様ではない−セルコーナー・複合中間層リグニンと二次壁リグニンの違い−
リグニンにおけるH核の新しい役割
リグニンの芳香核はメトキシ基(-OCH3)の数により、H核、G核、S核に分類されます。H核は針葉樹の圧縮あて材(曲がった樹体の下側にできる異常材)やイネ科植物に含まれますが、その高分子化の過程についてはよくわかっていません。
H核の反応性を調べるために、H核モノマーとG核モノマーを酵素的脱水素重合したところ、H核モノマーはラジカルをG核モノマーに受け渡すことで、G核モノマーの二量体化を促進することがわかりました。さらに、H核は分子の末端に存在すると、反応性が著しく低下することもわかりました。

・T. Nishimoto, Y. Matsushita. Reactivity of p-hydroxyphenyl units in enzymatic co-oxidative coupling of p-coumaryl and coniferyl alcohols. Journal of Agricultural and Food Chemistry, (2025) DOI: 10.1021/acs.jafc.5c06517
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リグニンは酵素と非接触でも伸長する
リグニン分子が伸長するためにはフェノール性ヒドロキシ基が酵素によって酸化される必要がありますが、セルロースやヘミセルロースが存在する環境で、リグニンと酵素が直接接触できるのかは不明です。そこで、酵素と高分子リグニンを透析膜で隔てた状態でコニフェリルアルコール(リグニンの原料)を加え、酵素的脱水素重合反応を行いました。反応後に高分子リグニンの構造を解析すると、酵素と直接接触していないにもかかわらず、分子が伸長していたことが分かりました。このことから、コニフェリルアルコールやコニフェリルアルコール同士が結合した二量体は、酵素からリグニンまでラジカルを運搬すること(redox shuttle mediation)ができるものと思われます。

・T. Nishimoto, K. Takagi, D. Aoki, K. Fukushima, Y. Matsushita. Bonding of Lignin and Coniferyl Alcohol by a Redox Shuttle of Low-Molecular-Weight Lignols in Enzymatic Oxidative Dehydrogenative Polymerization. Biomacromolecules, (2024) DOI: 10.1021/acs.biomac.4c00230
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選択的重水素標識リグニンのモデル化合物の合成
リグニンの反応性を研究する際には、リグニンの構造を模倣したモデル化合物が用いられます。リグニン構造の中でも分子末端のフェノール性ヒドロキシ基は比較的反応性が高く、蒸解などの分解反応や木化に関わることが知られています。
そこで、フェノール性ヒドロキシ基が存在する芳香環のメトキシ基を同位体標識したモデル化合物を合成しました。リグニンのフェノール性ヒドロキシ基が関わる反応に新たな知見をもたらすことが期待されます。

・T. Nishimoto, K. Takagi, D. Aoki, K. Fukushima, Y. Matsushita. Synthesis of β-O-4 linked model oligolignol with a selectively deuterium-labelled methoxy group at the phenolic terminal unit. Holzforschung, (2024) DOI: 10.1515/hf-2023-0095
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反応性の高いスピロジエノン構造の定量
リグニン中には、反応性の高いスピロジエノン構造とよばれるものが含まれています。しかしながら、その存在量は非常に微量でこれまで定量するのが困難でした。我々は芳香環1位を13C標識したコニフェリン(リグニンの原料)を合成し、イチョウに投与することで、芳香環1位13C標識リグニンを作成いたしました。この標識リグニンを固体13C NMR及び液体13C NMRにて測定し、その存在量を定量することに成功いたしました。

・S. Imamura, M. Hosokawa, Y. Matsushita, D. Aoki, K. Fukushima, M. Katahira. Quantitative analysis of the β-1 structure in lignin by administration of [ring-1-13C]coniferin. Holzforschung (2024) DOI: 10.1515/hf-2023-0100
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コニフェリンのグルコース部分はどこへ?
リグニンの原料となるコニフェリルアルコールは、フェノール性OHの毒性が強いため配糖体の形で生合成された後、細胞壁へと運ばれると考えられています。細胞壁にてグルコース部分が外され、アグリコンであるコニフェリルアルコールはリグニンへと重合されますが、外されたグルコースはどのような運命をたどるのかよく分かっていませんでした。
グルコース部分を13C標識したコニフェリンをイチョウに投与し、グルコース部分の挙動を追跡したところ、多くは細胞内に戻り、ヘミセルロースなどに変換されていることがわかりました。

フェノール性OHを保護していたグルコースも無駄なく回収利用!
・N. Terashima, Y. Matsushita, S. Yagami, H. Nishimura, M. Yoshida, K. Fukushima. Role of monolignol glucosides in supramolecular assembly of cell wall components in ginkgo xylem. Holzforschung, 77(7) 485-499 (2023). https://doi.org/10.1515/hf-2022-0163 (2023)
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リグニンの高分子化は複雑怪奇
リグニンはモノリグノールというモノマーがラジカルカップリングを繰り返して高分子化していくとされています。
しかしながらこの高分子化の過程はよくわかっていません。
そこで、二量体の反応性を調べるために、3種の二量体を酵素的脱水素重合させてみました。
すると、β-O-4結合を持つ二量体の反応性が著しく低いことが分かりました。
さらに、このβ-O-4結合二量体に他の二量体を混合させてやると、β-O-4結合二量体の反応性が著しく向上することが分かりました。
このことから、二量体同士でラジカルの受け渡し(radical transfer)が行われているものと思われます。

リグニンの高分子化は非常に複雑です!
・Difference in enzymatic dehydrogenative polymerization of dilignols using horseradish peroxidase and crude enzyme obtained from Japanese cypress (Chamaecyparis obtusa). Journal of Wood Science, 65, 29 (2019) DOI: 10.1186/s10086-019-1809-1.
・Radical transfer system in the enzymatic dehydrogenative polymerisation (DHP formation) of coniferyl alcohol (CA) and three dilignols. Holzforschung, 73(2), 189-195 (2019). DOI: 10.1515/hf-2018-0044.
・Enzymatic dehydrogenative polymerization of monolignol dimers. Journal of Wood Science, 61(6),608-619 (2015) DOI:10.1007/s10086-015-1513-8.
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新たな結合の発見
リグニンの結合様式のなかでβ-5結合というのがあります。この二量体が高分子化する場合、今までは4-O位と5位が反応部位として考えられていましたが、
13C標識法により、今まで見逃されていたβ’位の反応を検出することができました。

13C標識法は強力な解析ツール!
・Unexpected polymerization mechanism of dilignol in the lignin growing. Royal Society Open Science, 6(7), 190445 (2019) DOI: 10.1098/rsos.190445.
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β-1構造は“G核”がお好き?
リグニンの主要な部分構造としてβ-O-4構造やβ-5構造がありますが、マイナーな構造としてβ-1構造も存在します。
β-1構造は主にスピロジエノン構造として存在していることが知られており、マイナーであるにもかかわらず反応性が高いことから、
重要な部分構造であるといえます。
リグニンの芳香核はメトキシ基(-OCH3)の数によりH核、G核、S核に分類されます。
β-1構造を形成している芳香核の種類をチオアシドリシスという方法を用いて分析したところ、予想値よりもG核が多いということが分かりました。


予想よりもG核が多い!
・Combinations of the aromatic rings in β-1 structure formation of lignin based on quantitative analysis by thioacidolysis. Journal of Agriculture and Food Chemistry, 68(34), 9245-9251 (2020) DOI: 10.1021/acs.jafc.0c03206.
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リグニンは多糖を結合した後、さらに伸長する?
リグニンは伸長する過程で多糖と結合する場合があります。この結合(LC結合)を形成すると、多糖とリグニンの伸長起点(フェノール性末端)
が近くなりますので、これ以上リグニンが高分子化するのが難しくなることが考えられます。
そこで、モデル化合物を用いて、LC結合形成後のリグニン伸長反応について検討を行った結果、β-O-4結合を介してモノリグノールと
反応するが、β-5結合のような縮合型で伸長することは難しいことが分かりました。
環状構造のβ-5結合などは立体障害を受けやすいこと要因だと考えられます。

LC結合を形成した後はモノリグノールと縮合型を形成しにくい
・Reactivity of a benzylic lignin-carbohydrate model compound during enzymatic dehydrogenative polymerisation of coniferyl alcohol. Holzforschung, 75(8), 773-777 (2021). DOI: 10.1515/hf-2020-0216.
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細胞壁の中でもリグニンの構造は一様ではない
−セルコーナー・複合中間層リグニンと二次壁リグニンの違い−
リグニンは生体高分子であるので、部位によって構造が異なると考えられています。
Wet-beatingという方法を用いて、セルコーナー・複合中間層リグニンを多く含む画分と取り出し分析したところ、セルコーナー・複合中間層リグニンは
縮合型構造が多く含み、一方、二次壁リグニンはβ-O-4結合を多く含むことが分かりました。

リグニンは工業材料のように一様ではありません!
・Characterisation of compound middle lamella isolated by a combination of wet-beating, sedimentation, and methanol dialysis. Holzforschung, 75(9), 798-805 (2021). DOI: 10.1515/hf-2020-0208.
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