東京農工大学・梅澤泰史(遺伝子細胞工学)・植物の環境応答の研究(キーワード:乾燥ストレス、塩ストレス、耐塩性、アブシシン酸、ABA、シグナル伝達、リン酸化、プロテオーム、リン酸化プロテオーム、システム生物学)
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植物ホルモンアブシジン酸のシグナル伝達機構

ABAアブシジン酸(ABA)は、植物ホルモンの一つで1960年代に発見されました。ABAは植物の中で様々な生理作用を発揮します(図1)。たとえば、ABAは種子の成熟に重要な役割を果たしており、正常な種子の形成に不可欠です。また、植物が乾燥などの環境ストレスを受けた際に、ABAが急速に合成され、植物の環境応答の要となります。このように、ABAは農業生産にとって重要な性質をカバーしていることから、その作用メカニズムを知ることは重要な研究課題となります。私たちは、植物の細胞内で起こっている反応(シグナル伝達)に着目し、ABAの作用メカニズムを分子レベルで明らかにすることを目指します。

図1 植物の生活環とABAの生理作用

◆ ABAのシグナル伝達系について (編集中)

植物におけるABAのシグナル伝達系の概要は、2009年に明らかとなりました。植物が乾燥ストレス等にさらされると、ABAが急速に合成され、下の図に示す3つの中枢因子が回するメカニズムによってそのシグナルが伝達され、ストレス耐性などの必要な応答を誘導します(図2)。

ABA signaling pathway

図2 植物におけるABAシグナル伝達の中枢経路

【参考】
プレスリリース(2009年9月22日)
「劣悪環境に応答する植物ホルモン「アブシジン酸」の応答経路を解明」

このABAシグナル伝達経路の中で、私たちは特にSnRK2と呼ばれるタンパク質について研究を行っています。SnRK2はタンパク質リン酸化酵素の一種で、他のタンパク質にリン酸基を付加することでシグナルを調節する働きを持っています。私たちは、このSnRK2について主に以下の事柄を明らかにすることを目的としています。

1. SnRK2の基質タンパク質の探索

2. SnRK2の活性化メカニズムの解明

3. 人為的なSnRK2の活性制御技術の開発


SnRK2の基質タンパク質の探索(リン酸化プロテオーム)

写真 上述のように、植物体内でABAが合成されたとき、その情報はSnRK2によるタンパク質のリン酸化という形で出力されます。リン酸化とは、翻訳後修飾と呼ばれるタンパク質の機能を調節するための仕組みの一つで、様々な生物でシグナル伝達に使われています。しかしながら、SnRK2が具体的にどのようなタンパク質をリン酸化しているのかはよくわかっていませんでした。SnRK2のリン酸化のターゲット(基質)を探すには、植物におけるリン酸化タンパク質をできるだけたくさん解析しなければなりません。そこで、私たちは植物のリン酸化タンパク質を大規模に解析するために、「リン酸化プロテオーム解析」に取り組んでいます。

 プロテオーム解析とは、生体内のタンパク質を一度に大量に解析することをいい、リン酸化プロテオーム解析ではその対象をリン酸化タンパク質に絞っています。私たちは、この技術を用いてシロイヌナズナの野生型とSnRK2欠損変異体を用いて、ABA処理時におけるリン酸化タンパク質量を比較し、変異体においてリン酸化レベルが減少するタンパク質を見出しました。これらのタンパク質は、SnRK2の基質候補であり、現在それぞれのタンパク質について機能解析を進めています。

【参考】
プレスリリース(2013年4月10日)
「植物ホルモン「アブシジン酸」の応答経路を大規模に解明」

SnRK2の活性化メカニズムの解明

写真 ABAのシグナル伝達系においてSnRK2がその機能を発揮するためには、リン酸化酵素としての活性が上昇する必要があります。逆に、ABAがないときは不要なシグナルが行かないように、活性が抑えられています。したがって、SnRK2の機能を理解しようと思えば、どうしてもその活性化メカニズムを明らかにしなければなりません。私たちは、SnRK2の翻訳後修飾の解析や、相互作用タンパク質の解析等から、SnRK2の活性化メカニズムに迫るべく研究を続けています。

人為的なSnRK2の活性制御技術の開発

SnRK2 disruptantABAの主な生理機能である種子発達の制御や、乾燥や塩ストレス耐性の制御は、いずれも重要な農業形質です。これらの形質は、SnRK2の活性によって支えられているといえます。したがって、SnRK2の活性を自在に調節することができれば、干ばつや塩害による農業生産のダメージコントロールを行ったり、作物の種子品質の安定化を図ることができるようになるかもしれません。そこで、私たちは人為的にSnRK2の活性を制御するための技術開発に取り組んでいます。



その他

編集中

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