機能性ポリマーブレンド: 電気化学分野・バイオ分野への応用

ポリカーボネートを用いた新しい生分解性ポリマーブレンド


 
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組織工学材料を指向したシルクフィブロインポリマーブレンド


 
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SPE/エラストマーブレンドの帯電防止材料への応用


 
 

 プラスチックやゴム製品は絶縁体であるため、帯電することで様々な静電気障害が発生してしまいます。それを防ぐため、材料に対して使用目的に応じたレベルの導電性を付与することで使用用途の拡大につながります。そのため、近年エレクトロニクス関連分野を中心に、帯電防止技術は非常に重要な位置づけとなっています。一般的に用いられている帯電防止技術は、左図に示すように、高分子材料に対してカーボンブラック(CB)のような導電性フィラーを混練して導電性を付与する方法です。しかし、これらの技術では導電性の精密制御が困難であることや耐久性が低いことなどが課題として挙げられます。そこで富永研では、イオン伝導性SPEの利用に着目しました。SPEの利用により、特に工業的ニーズの大きな帯電防止材料としての導電性の精密制御や均一性が実現する可能性があります。ところが、一般的にSPEは吸湿性が高く、使用環境に制限が生じてしまいます。そこで、基材となる高分子中でSPEを「その場」重合する方法で双方をブレンドすることで、優れたイオン伝導度の発現と湿度依存性の低減を両立できる新しい帯電防止材料の開発を目指しました [1-5]。

 本研究で作製した溶媒キャスト法によるイオン伝導性エラストマーブレンドの作製方法を上図に示します [2]。ブレンド試料作製前に、M(EO/PO)と各種金属塩を室温で24時間真空乾燥させました。所定量のアクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、M(EO/PO)、金属塩およびAIBN(モノマーに対して1 mol%)をTHF中で24時間撹拌しました。得られた混合THF溶液をテフロンシャーレにキャスト後、室温で6時間の減圧乾燥と24時間の真空乾燥をしました。その後、乾燥N2ガス雰囲気下で100℃・24時間加熱することでモノマーをラジカル重合させ、目的の各種ブレンド体(膜厚 400~500 μm)を得ました。金属塩の充填量は試料の全量に対し5 wt%としました。

 
 左図左には、各ブレンド体の30℃におけるlog(σdry)、log(σwet)、|log(σwet/σdry)|の値をまとめました [2]。全てのブレンド体において、イオン伝導度が10-8 S/cmオーダー以上、|log(σwet/σdry)|が0.5以下であり、帯電防止材料として優れたイオン伝導挙動を示しました。また、中~高ニトリルであるNBR30、NBR43、NBR50の各ブレンド体は、低ニトリルであるNBR18のブレンド体と比較して高い導電性を示しました。この要因として、NBRのニトリル部のシアノ基(-C≡N)がイオン伝導性の向上に寄与していることが考えられます。高分子電解質中におけるポリマーのシアノ基は、エーテル酸素と同様に解離したカチオン(Li+)と相互作用するため、C≡N基を有するポリマーを用いたイオン伝導体が多数報告されています。代表的な研究例としては、主鎖にシアノ基を有するポリアクリロニトリル(PVA)電解質において、強い電子吸引性を有するシアノ基の効果によってTg以下においてもイオン伝導性を発現することから、セグメント運動とは切り離されたイオン輸送機構も予想されています。また、近年ではシアノ基をポリマー側鎖に導入した電解質の研究も進められており、シアノ基が金属塩の解離を促進することで高いイオン伝導性を発現することが分かります。本研究では、ブレンド試料中のNBRのシアノ基(-C≡N)が解離したK+と相互作用することで、イオン伝導度の向上に寄与していると考えられます。これらの関係性については、FT-IR測定によってCN基とK+の相互作用からも裏付けられています。

 左図には、NBR18およびNBR50のブレンド体のHAADF-STEM像およびTEM-EDSマッピング像を示します [2]。HAADF-STEM像からは、どちらのブレンド体も10-20 nmのポリエーテル島相を形成していることが確認されました。KSCN金属塩に由来するS(硫黄)元素とK(カリウム)元素をそれぞれ赤と緑でマッピングしました。NBR18のブレンド体では、どちらの元素もポリエーテル島相に局在化していることが観察されました。また、K元素はS元素と比較してNBR海相にも点在している様子が見られます。これは、NBRのシアノ基とK+が相互作用することによって、NBR相にもK元素が確認されたのではないかと考察することができます。一方、NBR50のブレンド体では、どちらの元素もNBR海相・ポリエーテル島相に均一に分散している様子が観察されました。これは、AN含有量がより高いNBR50のブレンド体において、シアノ基とK+の相互作用が増加したことに影響を受けていると考えられます。TEM-EDS観察によって、NBRのシアノ基とK+が相互作用していることを視覚的に確認することができました。これらの結果から、低ニトリルNBRを用いたブレンド体では、K+はポリエーテルのエーテル酸素と優先的に相互作用しており、AN含有量の増加に伴いシアノ基と相互作用するK+が増えることでNBR相中のK元素が増加していることが明らかになりました。

[関連論文]

    1. 久保田有紀, 富永洋一*, 日本ゴム協会誌, 90 (2), 23-29 (2017).
    2. Y. Kubota, Y. Tominaga*, Materials Today Communications, 4, 124-129 (2015).
    3. Y. Kubota, Y. Tominaga*, e-Journal of Soft Materials, 9, 9-13 (2013).
    4. 富永洋一, 日本ゴム協会誌 (総説), 85 (3), 93-100 (2012).
    5. 富永洋一*, 浅井茂雄, 住田雅夫, 日本ゴム協会誌, 82 (12), 499-506 (2009).