About Nakaba −研究紹介−
プロフィール/ 研究紹介/ 研究業績(論文・総説・著書・外部資金/学会発表等)
研究紹介
現在、地球温暖化や資源、エネルギー問題が地球規模の問題になっており、それらの課題の解決策を模索する中で、再生産可能な資源としての木質バイオマスへの関心が高まっています。木質バイオマスは、樹木が光合成により大気中の炭素を固定した結果として生み出されます。生物由来の資源であるため、その特性は生命活動により制御されており、遺伝的要因や気象要因などにより量(樹木の成長量)や質(組織構造および材料特性)が変動します。このような特徴は、木質バイオマスの量や質が制御可能であることを示しています。したがって、どのようなメカニズムにより木質バイオマスが形成されるのかを理解することは、利用上の特性に関する基本的情報の提供やオーダーメイド木質バイオマスの創出を含めた高度利用につながります。
では、木質バイオマスの形成機構を理解するためには、どのような研究を行う必要があるのでしょうか。木質バイオマスは、樹木が生産する細胞の集合体であることから、構成要素である細胞の性質が木質バイオマス全体の性質を決定しているといえます。したがって、木質バイオマスの形成機構を知ることは、木質バイオマスを構成する細胞が、どのように生み出され(細胞分裂)、どのような過程を経て機能を発揮するのか(細胞分化)を理解することであると言い換えることができます。そこで私は、「樹木における細胞分化制御機構」に着目し、主に顕微鏡を用いたイメージング解析手法を駆使して、樹木がどのような機構で多様な組織構造および材料特性をもつ木質バイオマスを生み出すのかを明らかにすることを目指し研究を行っています。
具体的な研究テーマ
1.木質バイオマス形成に関わる細胞分化制御機構の解明木質バイオマスの構成要素である樹木細胞は、分化により特有の機能を発揮する。その分化過程で獲得する物理的あるいは化学的性質が、木質バイオマス全体の性質を制御する。したがって、木質バイオマスを木材および紙・パルプを含め高度利用する上で、樹木細胞の分化制御機構の解明は重要である。樹木細胞の機能発現を制御する上で重要な分化過程、例えば形態形成や細胞死に着目して細胞生物学的研究を行う。特に、樹木特有の長命細胞である放射柔細胞の分化、細胞死制御機構や生理機能を詳細に理解するための研究を中心に進めている。
2.イメージング技術を用いた木質バイオマスの特性評価手法の開発
木質バイオマスには、様々な抽出成分が含まれており、耐久性に関わる反面、パルプ化を阻害する。さらに、抽出成分の量や局在は、抽出成分の除去のしやすさに関わるため重要である。抽出成分の局在解析には、イメージングシステムと化学分析を組み合わせた手法が有効である。樹種間や個体間差を知ることは、造林木の育種や植林する樹種を選定する上でも重要な情報を与える。本研究を進めることで、木質バイオマスの組織構造および材料特性の発現に重要な細胞分化制御機構の解明を目指す。
3.生育環境が木質バイオマスの形成に与える影響メカニズムの解明
樹木は様々な生育環境の影響を受けて、木質バイオマスを形成する。生育環境の中では、気温や降水量などの気象因子の変動や大気汚染などの影響について考える必要がある。本研究では、樹木を取り巻く様々な環境が樹木細胞の分化制御に与える影響を評価する。
現在進行中の研究の多くは、『放射柔細胞』をキーワードとしたものです。二次木部を構成する仮道管、道管要素、木部繊維など多くの細胞が当年で細胞死を迎えるのに対して、放射柔細胞は数年から数十年の間生存します。これら柔細胞が生存している領域を辺材、すべての細胞が死滅した組織を心材とよびます。放射柔細胞は長年生存する間に、デンプンや脂質などの養分の貯蔵、放射方向への物質輸送など樹幹の生理機能を担っています。さらに、細胞死に先駆けて、心材特有の抽出成分である心材成分の生合成を行います。また、傷害を受けた際には、防御物質の生合成を行います。このように放射柔細胞は、超多年生の樹木特有の生命現象や木質バイオマスの腐朽耐性を制御する心材形成に関与しており、樹木の成長機構において重要な役割を果たしているといえます。しかしながら、二次木部全体において放射柔細胞の占める割合が低いこともあり、仮道管、道管要素、木部繊維などと比べて研究例が少なく、放射柔細胞の生理機能については未解明の点が多く残されています。私の研究室では、放射柔細胞がどのような過程を経て分化するのか、長年生存する間にどのような役割を果たしているのか、老化や細胞死がどのように制御されているのかを詳細に理解することを通じて、木質バイオマス形成機構の解明に貢献することを目指しており、このような点が研究室の特色であると考えています。
また、東京農工大学グローバルイノベーション研究院の研究チームとして、国際共同研究を進行中です。
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