主な研究論文
(思い出を添えて。)     【論文一覧はこちら】

土壌の有害元素に関する研究(有害元素・不溶化・水田・イネ)

自然由来のヒ素が土壌に蓄積する仕組みを解明

本研究成果は、Environmental Science and Technology に掲載されました。
URL:https://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/acs.est.9b03864
 
日本には地質的な要因によって、地盤にヒ素などの重金属類を含む場所が点在しています。リニア新幹線などの大規模な公共事業によって大量に発生する建設残土には、しばしば自然由来のヒ素が含まれています。土壌汚染対策法では、このような地質に由来する重金属が基準値を超えて含まれている土を「自然由来汚染土」として、人為由来の汚染と区別して取り扱われます。これまでに自然由来のヒ素を含む土から、土壌溶出量基準を上回るヒ素が溶出する事例は多く報告されていましたが、その仕組みはよくわかっていませんでした。

自然由来汚染土に含まれるヒ素を、SPring-8の放射光を光源とするX線吸収分光法を用いて分析したところ、ラズベリー様の黄鉄鉱(フランボイダルパイライト)の表面にヒ素が蓄積していることが確認されました。このヒ素は、ヒ酸や硫砒鉄鉱など複数の化学形態を有していることもこの方法によって明らかになりました。フランボイダルパイライトは、水にはほとんど溶解しませんが、酸化剤である過酸化水素を加えると、その一部が溶解することが確認されました。この結果は、地下から掘削された自然由来汚染土が地上で大気に曝露されて酸化が進んだ場合に、ヒ素の溶出が起こりうることを示しています。
詳しくは「農工大プレスリリース」へ

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Furuya, M., Hashimoto, Y., Yamaguchi, N. 2016. Time-Course Changes in Speciation and Solubility of Cadmium in Reduced and Oxidized Paddy Soils. Soil Science Society of America Journal. 80:870-877.
水田の土壌を湛水から排水する一連の水分状態の変化の過程で,カドミウムの溶解性と化学形態の変化を追跡した研究です.土壌の酸化還元電位が徐々に上昇し,一定の値に達すると,カドミウムの溶解性が急激に上昇し,それが硫化カドミウムの酸化溶解に起因することが明らかになりました.実験の計画は学生の発案によるものです.これまでの研究論文の中でも新規性が高く,放射光分析を土壌の元素分析にうまく活用できた研究です.論文へのリンク
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Hashimoto, Y., Furuya, M., Yamaguchi, N., and Makino, T. 2016. Zerovalent iron with high sulfur content enhances the formaiton of cadmium sulfide in reduced paddy soils. Soil Science Society of America Journal. 80:55-63.
カドミウム汚染水田の対策技術として,鉄粉(ゼロ価鉄)を用いて土壌のカドミウムの溶解性を低下させるという研究です.実験はSPring-8のマイクロビームを用いて鉄粉表面のカドミウムの局所分布と化学形態を分析しました.論文へのリンク

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古屋光啓橋本洋平,山口紀子,牧野知之. 2015. 化学状態解析を基盤とする日本における水田土壌カドミウム研究の変遷(1970~2015年)日本土壌肥料学雑誌,86:139-146.
日本の水田土壌のカドミウムの研究の歴史を網羅した論文です.筆頭著者は修士学生です.印刷されてから間もなく,ある著名な研究者から「この重要な分野についての研究状況が非常に良く書けていて、大変参考になりました。」とのお褒めの言葉を頂きました.論文へのリンク

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Hashimoto, Y., and Yamaguchi, N. 2013. Chemical speciation of cadmium and sulfur K-edge XANES spectroscopy in flooded paddy soils amended with zerovalent iron. Soil Science Society of America Journal. 77:1189-1198.
カドミウム汚染水田の対策技術として,鉄粉(ゼロ価鉄)を用いて土壌のカドミウムの溶解性を低下させるという研究です.カドミウムの溶解性を低下させる硫化カドミウムの生成は,硫黄の化学状態にも関係することが分かりました(科研費基盤B分担の成果).論文へのリンク

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Hashimoto, Y., Takaoka, M., and Shiota, K. 2011. Enhanced transformation of lead speciation in rhizosphere soils using phosphorus amendments and phytostabilization: XAFS spectroscopy investigation. Journal of Environmental Quality. 40:696-703.

放射光X線分析によって,根圏土壌での鉛の化学形態がどのように変化して不溶化されるのかを明らかにしました.植物の種類によって,根圏土壌での鉛の溶解性と化学形態が著しく異なることに驚きました.論文へのリンク

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Hashimoto, Y., Matsufuru, H., Takaoka, M., Tanida, H., and Sato, T. 2009. Impacts of chemical amendment and plant growth on Pb speciation and enzyme activities in a shooting range soil: an X-ray absorption fine structure (XAFS) investigation. Journal of Environmental Quality. 38:1420-1428.

ファイトレメディエーションを適用した汚染土壌中で,鉛の化学形態がどのように変化するのかを放射光X線で分析しました.土壌生態系の修復も評価するために,土壌酵素も分析しました.研究成果は,いくつかの海外の学会HPで紹介されていたことを後になって知りました.
論文へのリンク

>> 米国土壌学会のサイト
>> SpectroscopyNOW.com


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土壌や堆肥のリンに関する研究


アロフェンがフェリハイドライトよりもリン酸を優先的に吸着する仕組みを解明


Uchida, S., Hashimoto, Y., Takamoto, A., Noguchi, K., Klysubun, W. and Wang, S.-L. Phosphate binding to allophane and ferrihydrite with implications for volcanic ash soils. Soil Science Society of America Journal

黒ボク土はリン酸の吸着(収着)量に富む土壌であることが知られています。その理由としては、黒ボク土に含まれるアロフェンが重要であるといわれていました。黒ボク土には、フェリハイドライトと呼ばれる酸化鉄も多く含まれており、リン酸を吸着する性質を有しています。フェリハイドライトよりもアロフェンにリン酸が選択的に吸着することは、土壌の抽出法などから推定されていましたが、なぜこのような優先現象が起こるのか、ならびに根が分泌する有機酸が存在する環境でも、同様の現象が起こるのかについては、はっきりとした証拠がありませんでした。本研究で用いたX線分光分析の結果は、フェリハイドライトよりもアロフェンにリン酸が優先的に吸着するという、既往の研究結果を裏付ける証拠を提示し、リン酸アルミニウムの沈殿形成が関与していることが分かりました。有機酸の存在下では、アロフェンへのリン酸の選択吸着が抑制され、フェリハイドライトに吸着することが分かりました。
論文はこちら(Open Accessなので無料で閲覧できます)
学会発表のポスター






Yamamoto, K
, and Hashimoto, Y. 2017. Chemical Species of Phosphorus and Zinc in Water-Dispersible Colloids from Swine Manure Compost. Journal of Environmental Quality 46, 461-465.

豚の飼料には生育の向上等を目的としてリンや亜鉛が添加されます.そのため,豚ぷんやその堆肥には,リンや亜鉛が蓄積しています.これらの元素は,豚ぷんに含まれている水分散性のコロイド粒子に吸着して,土壌や水系環境を移動するといわれています.私たちはこの水分散性コロイドに着目して,リンと亜鉛がどれくらい濃集しているのかや,これらがどのような化学状態で存在しているのかについて,放射光を用いたX線分析やNMR法によって明らかにしました.室員の山本が修士課程在籍中に執筆して受理されました.論文はこちら(Open Accessなので無料で閲覧できます)

Hashimoto, Y., Takamoto, A., Kikkawa, R., Murakami, K., and Yamaguchi, N. 2014. Formations of hydroxyapatite and inositol hexakisphosphate in poultry litter during the composting period: Sequential fractionation, P K-edge XANES and solution 31P-NMR investigations. Environmental Science and Technology. 48:5486-5492.
逐次抽出法・NMR法・XANES法を用いて,発酵過程の堆肥中のリンの化学状態の変化を詳細に分析したところ堆肥化の過程でリンが難溶化することが明らかになりました.ES&Tの査読は大変でした(^_^;).論文へのリンク


鶏ふんの堆肥化過程における
リン難溶化のメカニズム
Hashimoto, Y., and Watanabe, Y. 2014. Combined applications of chemical fractionation, solution 31P-NMR and P K-edge XANES to determine phosphorus speciation in soils formed on serpentine landscapes. Geoderma. 230: 143-150.
伊勢志摩国立公園の朝熊山に分布する暗赤色土(蛇紋岩質土壌)のリンについての研究です.暗赤色土は日本で1%しか存在しない珍しい土壌です.蛇紋岩土壌地帯におけるリンのサイクルは,酸化鉄鉱物との吸着態やフィチン態といった生物可給性の低い形態に依存していることが示唆されました.論文へのリンク

三重県朝熊山の蛇紋岩地帯に生成する暗赤色土の調査このあと,土壌のモノリスも作成↓


Takamoto, A., and Hashimoto, Y. 2014. Assessment of Hedley's Sequential Extraction Method for Phosphorus Forms in Biosolids Using P K-edge X-ray Absorption Near-edge Structure Spectroscopy. Chemistry Letters. 43:1696-1697.
土壌や堆肥に存在しているリンの溶解性や化学種は,Hedleyによって提案された選択溶解法が一般に用いられています.この研究では,Hedley法によって区分される汚泥中のリンの化学種についてXRDとXANES法を用いて検証しました.筆頭著者は修士学生です.論文へのリンク

Hashimoto, Y.
, Kang, J., Matsuyama, N., and Saigusa, M. 2012. Path analysis of phosphorus retention capacity in allophanic and non-allophanic Andisols. Soil Science Society of America Journal. 76:441-448

リンに関する初めての論文で,共著者の松山氏(弘前大)の博士論文のデータを新たに解析することによってまとめあげました.Path Analysisという統計解析を用いて,日本671地点の黒ぼく土のリン吸着が,土壌のどの因子に最も影響を受けているかを明らかにした.共著者のKangは,私の博士課程時の友人です.論文へのリンク


獲得した競争的研究費(感謝してここに記します)


文科省・環境省・農水省の研究費
  • 環境省 環境研究総合推進費・機器分析と溶出特性化試験を組合せた自然・人為由来汚染土壌の判定法の開発(2016-2018年,代表)
  • 基盤研究(B)富栄養化精密予測に向けた土壌コロイド粒子に存在するリンの化学形態と生物利用の連関(2015-2018年,代表)
  • 基盤研究(C)有機栽培土壌における銅・亜鉛の過剰蓄積と抗生物質耐性菌の食料・環境影響(2015-2017年,代表)
  • 挑戦的萌芽研究 原子レベルの化学状態解析に基づく(ナノ)タングステンの土壌中での挙動・毒性解明(2014-2016年,代表)
  • 基盤研究(B)土壌圏の有機物分解による窒素・炭素循環と水分・溶質・ガス移動の予測 (2014-2016,分担)
  • 挑戦的萌芽研究 土壌リンの存在形態の再考:土壌生成因子,団粒構造,炭素動態との連関(2014-2015年,分担)
  • 若手研究(A)不溶化処理の普及を目指した廃棄物資材の重金属不溶化機構の解明と生物影響評価 (2011-2013年,代表)
  • 挑戦的萌芽研究 ナノ銀粒子の原子レベルの局所構造解析に基づく植物・小動物への移行特性の本質的理解(2012-2013年,代表)
  • 環境省循環型社会形成推進科学研究費補助金・微生物酵素活性の利用による有機性廃棄物からのリン再資源化に関する研究(2011-2012年,代表)
  • 基盤研究(C)土壌中でエステル硫酸はアルミニウム腐植複合体に取り込まれるのか? (2012-2014年,分担)
  • 基盤研究(B)水田土壌の微視的な酸化還元スポットの分布とカドミウム形態との関係(2010-2014年,分担)
  • 基盤研究(B)土壌圏における水分・窒素・炭素統合循環モデルの構築(2011-2013年,分担)
  • 若手研究(B)植物根圏の重金属析出機構の解明による植生修復が可能な不溶化技術の開発(2009-2010年,代表)
  • 基盤研究(C)土壌有機物の分子構造解析を導入した保全耕うん圃場の炭素隔離機能の解明(2009-2011年,分担)
  • 若手研究(B)植物根の生理作用に着目した鉛不溶化反応の促進と微生物生態系の修復(2007-2008年,代表)
  • 基盤研究(B)植物根の生理特性を考慮した土壌重金属の移流分散モデルの構築(2007-2009年,分担)

財団の研究費
  • 公益財団法人鉄鋼環境基金,鉄鋼スラグを利用した水田土壌のカドミウムとヒ素の同時不溶化(2014,代表)
  • 財団法人日本生命財団 環境問題研究助成,堆肥連用土壌におけるリンの蓄積と生物利用性の解明-リン資源の保全に向けて(2014,代表)
  • 財団法人河川環境管理財団 水田土壌リンの化学形態分析による流域の富栄養化機構の解明(2011年,代表)
  • 財団法人東海産業技術振興財団 助成研究 東海地域の産業廃棄物の再資源化による緑化基盤材の開発と重金属汚染土壌の改良材としての実用化(2007-2008年,代表)
  • 財団法人日本生命財団 環境問題研究助成 水産資源の保護を目的としたダム群と生元素動態の関係解明(2008年,代表)
  • 財団法人前田記念工学振興財団 産業廃棄物の再資源化による水酸アパタイトの合成と重金属汚染土壌の緑化基盤剤への応用(2007年,代表)
  • 財団法人ダム水源地環境整備センターWEC応用生態研究助成金 湛水・運用開始期にある徳山ダムの微細有機物による河川生態影響評価(2007-2009年,分担)


その他の研究・学会活動

以下の論文誌の査読をしたことがあります(毎年15-20件程度)
Soil Science Society of America Journal, Journal of Environmental Quality, Geoderma, Chemosphere, Science of the Total Environment, Soil Science and Plant Nutrition, Environmental Science and Technology, 土壌肥料学雑誌,環境化学,土の物理性など


学会や環境省の委員
環境省自然由来等基準不適合土壌の現場管理・活用の推進に関する検討会 委員(2016-2017)
日本学術振興会第111委員会学界 委員(2016-2020)
環境省自然由来汚染土壌等の活用に関する検討会 委員(2015-2016)
環境省土壌測定技術等に関する検討会 委員(2015-2016)
環境省農用地未規制物質対策調査業務検討会 委員(2015-2018)
日本土壌肥料学会第二部門 副部門長(2014-2017)
Soil Sciencen and Plant Nutrition 編集委員(2015-2019)
日本土壌物理学会 編集委員(2013-2016、2019-)
日本土壌肥料学雑誌 編集委員(2013-14)