長谷川
では、研究チームを担う若手人材の育成については、どのように取り組まれていらっしゃいますか。
学長
私はベテランから若手まで、いかに良い人材を集めるかが重要であり、それが大学改革の主要な柱になると考えています。若手については、「テニュアトラック」という5年期限の雇用制度を使い、国や大学の垣根など全て取り除き、優秀な若手人材を集めています。採用した人材には、昔のような徒弟制度ではなく、独立した研究室・チームを持ってもらいます。そこで業績を上げていただき、テニュア(終身雇用)に移行する仕組みです。農工大は大変な人気で、国際公募の倍率は40倍程にもなっています。
テニュアトラック制度で在籍している先生は、全体の約400名の2割、80名ほどになっており※5、本学の30代から40代の中堅を担ってくれています。この先生方の活躍で、論文の発表数や科研費の採択数※6 が非常に高い水準になっており、学生の教育にも大きな効果があります。
能條
私は大学を卒業して入社してくる最近の若い人たちに、物足りなさを感じることがあります。工学系だと、ほとんどの人が修士を出られているのですが、どうも受け身の印象が強いのです。そういった切磋琢磨する環境の中で、ぜひアグレッシブな人材を育成していただけたらと思います。
学長
まさに、若手の先生方のような、「自分で考え、自分でテーマを見つけて、自分でやる」ということを学部教育でもどんどん進めたいと思っています。昔のような座学中心ではなく、自分で一から。理系の工学系と農学系というのは、自分のフィールドがあって実際に取り組めるわけですから。
戸所
まさにそういった経験が今の仕事にも活きています。私は農業経営の研究室でしたが、自分で疑問に思ったことを図書館で調べたり、他大学で学んだり、岩手県まで行って聞き取り調査をしながら、それらをまとめて論文を書きました。課題を見つけて、それを自分が納得するまで研究し尽くすことができる、まさに学生ならではの時間ですよね。
学長
そうです。ですから、能條さんに「修士よりも学部がいい」と言われているようでは我々もまだまだなのです。今は、学部でも修士でも、1年は就職活動に取られてしまいます。このため、私は自分の学生に「ドクターまで行きなさい。その間に海外でも学び、必要なものは全部自分で身に付けなさい」と言っています。
また、社会に出てからでも、必要に応じて大学に戻り、学び直す。そうやって人材を育てていかないと、これからの国際競争を生き抜いていくのは難しいと思います。
|※5| テニュアトラック制度で採用された教員数
|※6| 科研費(科学研究費補助金)受入件数