世界が直面している「食料」・「環境」・「エネルギー」の問題を解決し、いわゆる持続発展可能な社会の実現を目指す東京農工大学。その中で今回は、グローバル人材育成の展開、女性活躍推進や若手人材の活用、そして今後の東京農工大学に期待することなどを(株)ジャパンディスプレイ代表取締役社長COOの有賀修二氏(1983年、大学院工学研究科修士課程修了)、参議院議員の吉川ゆうみ氏(2000年、大学院農学研究科修士課程修了)にお伺いしました。
◆司会進行 日刊工業新聞社 論説委員 山本佳世子氏(2011年・大学院工学府博士後期課程修了)
松永学長
本日はお忙しい中、お集まりいただきありがとうございます。 東京農工大学は理系の国立大学として世界が直面している、特に「食料」・「環境」・「エネルギー」の問題、これを解決して、いわゆる持続発展可能な社会の実現を目指しております。 平成28年4月から始まる第3期中期目標ではグローバル化により世界が認知するような研究大学にしようという目標を掲げています。その中でグローバル人材育成の展開、女性活躍推進や若手人材の活用などのテーマについて、 皆様のご意見をいただければと思います。
山本記者
よろしくお願いいたします。まず、最初にグローバルイノベーション研究院のお話。それからリーディング大学院、これに相当するような人材育成のお話をお伺いできますか。
松永学長
東京農工大学では、大学改革の一つの目玉ということで、グローバルイノベーション研究院を、平成28年4月の設置に向けて準備しています。 現在、東京農工大学のほとんどの教員というのは、農学研究院、工学研究院に属していますが、この研究院はそういった垣根を越えて加わっていただきます。 そして、外国人の著名な教授にクロスアポイントメント制度を利用してスーパー教授として加わっていただくことによって、世界と競える先端研究力の強化を狙っております。 また、グリーンクリーン食料生産を実践するリーディング大学院として、食料エネルギーシステム科学専攻を平成27年から設置しました。 こちらは生命の源である「食」に関する地球規模での究極的な課題に挑戦し、食の生産性やエネルギー依存形態を変革する構想力と実践力を備えたイノベーションリーダーの育成を目指しています。
吉川議員
私は平成12年に東京農工大学の大学院農学研究科(現:農学府)を修了しましたが、大学院では試験管を振るというよりは、 政策であったり、農業経済、経営、マーケットのところをどう見ていくかというような勉強をさせていただきました。こういった視点からグローバル人材ということでいうと、 例えば、りんごの輸出についてのエピソードがあるのです。よく聞かれる話かもしれないですけど、昨日、日本人が来て長野県のりんごの宣伝をしていた。 翌日、また別の日本人が来て次は青森県のりんごの売り込みをしてきた。向こうからしてみたら、どちらもメイドインジャパンのりんごなのに入れ替わり営業に来るので混乱します。
そこが日本の輸出をするときの問題で、日本酒も、最初はジャパニーズ“SAKE”で、だんだんそれが海外に知られていって浸透してから、銘柄ごとに分かれてくるのです。 逆にワインの輸入だってそうでした。だから、まずは“日本のりんご”として売っていかないといけないと思うのです。 そうじゃないと、ロットも集められないですし、これが長野産りんごですよとか、青森産りんごですよと言っても、他国からすると最初は違いが分からない。 日本の農産物輸出を増やし、価値を高めていくには、国内での地域横断的な視点をもって、海外に受け入れてもらい、 他国の農産物に優先して日本の農産物が選ばれるための戦略が必要となってくると思います。その辺りの他国の動向を含めた海外マーケットの調査であったり、 効果的な売り込みやブランディングの確立、そして国内の生産体制とつなぐことができるグローバル人材というのも必要とされていると思います。
有賀社長
私は東京農工大学の大学院工学研究科(現:工学府)を昭和58年に修了したのですが、そこからずっと私は液晶の仕事をしてきております。 その間、非常に厳しい国際競争にさらされて、当時はいろいろな会社がやっていたのですけど、複数社で一緒になって今の会社になりました。 現在、我々の主力事業で世界のスマートフォンにおいて大体3台に1台が我々の液晶なのです。 今はいいですが、いずれそれは成熟するといったときに次に何をやるかというと、将来的には、完全な反射で映るディスプレイを、 サイネージ(電子看板)だとか、交通案内版に持ってくるということをやりたいと考えています。 しかし、いい技術があっても国際的なビジネスに負けるという失敗もあるので、そういった海外と渡り合える人材がとても必要ですよね。
松永学長
リーディング大学院では、国内外の大学や産業界とも連携して実社会における現実の課題等をテーマとしたワークショップ形式により教育を行っています。 海外と渡り合える実践的なスキルを習得した人材の輩出を目指していきたいと思いますね。
有賀社長
また、東京農工大学のグローバルイノベーション研究院の取組については、農工の垣根を取り払って、フォーカスするエリアをしっかり決めるというのは、 とてもいいことだと思います。LEDの関係で昨年、中村修二先生を含む3名がノーベル賞をいただきましたよね。あれなんかは産学でうまくやった一番いい例で、 基の学術的なところはノーベル賞をもらい、それを生産している日本のLEDメーカーが世界ナンバーワンという。 やっぱり何かフォーカスすると、そういうこともできるようになりますよね。
松永学長
そうですよね。やはり大学として、ある程度、外に見えやすくするためには、大学としてこういう方向に向かっているということを打ち出していかないといけないと思っています。
山本記者
私も普段から新聞記者として取材をしていて、グローバルイノベーション人材を育成するということを、こんなにはっきり出されている大学は少ないと思うのです。 皆さんイノベーションといいますと、研究を対象に考えていて、画期的な技術を開発するという点だけになってしまいがちですよね。
松永学長
もちろんそれが核になるのですけれども、やはり本当のビジネスとして社会において新しい形を打ち出せたり、 それこそ農工融合で技術を組み合わせて、システム的な形というのを設計していったりのイノベーションも大切ですよね。