音響誘起電磁法(ASEM法)
弾性波である音波は,電磁波のように直接的に電気・磁気特性と結合しません.しかしながら,弾性変調は,固体の格子歪みや液体の密度変化を通してしばしば対象物の電荷分布に時間変調を与えることができます.このことは,超音波照射すると,超音波と同一周波数の電磁信号が発生し得ることを意味します(図1).私たちは,超音波で誘起される電磁信号の計測方法を音響誘起電磁法(ASEM法:Acoustically Stimulated ElectroMagnetic method)と呼んでいます.生体組織における骨やコラーゲン線維は圧電効果を示すことが知られていますので,ASEM信号が観測されます.また,より興味深い応用として,脳を代表とする神経組織および筋組織の活動状態の非侵襲検知が考えられます.神経組織は細胞内外のイオン濃度制御により活動電位を伝播させ,情報伝達・処理を行っています.音波収束ビームは,その局所的なイオン濃度(あるいはそれに伴う媒体の電束密度勾配)に時間・空間変調を与え,電磁放射を誘発するかもしれません.つまり,ASEM法は,対象物の電荷や磁化に超音波を通して時間変調を加え,電磁放射の形でこれらの情報を外部発信させる手法と見なすことができます.音波は電波よりも同一周波数で波長がを5桁も短いため(電波の波長:30m,水中音波の波長:150μm @10 MHz),電波計測に比べて超音波計測は高い空間分解能の画像化が可能です.以上が,私たちが提案した計測原理です.
長い音波計測の歴史の中で,音波により誘起される電磁波に関する学術論文や特許は極めて少数です.関連するものとして,鋼材検査に用いられる電磁超音波,音響デバイスのワイヤレス動作に関するもの,地球物理学における岩石破壊によって生じる電磁波などが挙げられますが,測定対象物からの微弱な信号を検出してイメージング計測へ応用するといった研究は私たちの調べた限り皆無です.よって,ASEM法は全くの新技術構想であり,私たちは測定方式の具体的検討と基礎データの収集から生体医用への研究を進めています.
図1 ASEM応答の概念図
