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◆環境哲学とは?

環境問題を哲学し、地域に学び、未来社会をデザインする


みなさんは、環境破壊という言葉を聞くと、どんな問題をイメージされますか?

地球温暖化による異常気象、異常気象による砂漠化の進行や海水面の上昇、水不足。世界中でつづく森林面積の減少。海水温の上昇による、海洋資源の涸渇。有害物質の蔓延による良好な環境の破壊・・・などなど、いろいろと頭に浮かんできますよね。

しかし、当然なのですけれども、これらの自然環境破壊は、自然環境自身が、自分で勝手に引き起こしているわけではありません。私たち人類の経済活動による温室効果ガスや有害物質の排出、農薬や化学肥料などの過度な散布、汚水や温排水の排出といった行為こそが、自然環境破壊の要因です。だから環境問題は、実は、自然環境破壊の要因を生み出している社会的・経済的なしくみ、すなわち人間の文明のありかたについての再考を迫られる問題なのです。

以上の問題意識から、環境哲学研究室では、環境問題を、自然環境破壊だけに矮小化するのではなく、自然環境の破壊と生活環境の破壊・社会環境の破壊とが密接に関係するものと捉えています。また、この、表裏一体である、自然環境の破壊と生活・社会環境の破壊とが進めば進むほど――大規模農場で散布される農薬に体を蝕まれたり、自然を切り開いてできた鉱山で半強制的に労働させられたりする「途上国」の人びとのように――人間の〈いのち〉もまた破壊されるという意味で、環境破壊を4つの位相(自然・生活・社会・いのちの破壊)から捉えて研究を進めています。

でも、だからといって、なぜ、環境問題を哲学する必要があるのでしょう?
それは、この、自然環境破壊的な近代文明の誕生は、その発展をあとおしする哲学的な概念の登場がなければ難しかったからです。たとえば、自然観を転換させる思想(機械論的自然観)、自然の操作を可能にする思想(二元論)、私的所有権を認める思想(自然権思想)といった哲学がそれです。

一方、哲学は、自然環境だけでなく、生活環境・社会環境の保全に寄与しうる、私たちの人権や環境権といった価値を生み出してきた側面をも併せもっています。だから哲学は、環境破壊的な思想を生み出すと同時に、私たちの環境を保全する思想を生み出してもきたのです。

これらの点は、強調してもしすぎることはない、近代哲学のあわせもつ二面性です(詳細はコラム「①近代哲学の功と罪」をご覧ください)。

環境哲学研究室では、環境破壊につながってきた、これら哲学の功と罪の内実について学び、環境破壊の要因と背景に迫る研究をしています。

しかし、要因が分かっただけでは、環境破壊を解決するための方途は探れません。
そこで、「持続可能な社会につながる最先端の知見や思想は、現場の取り組みのなかにこそ潜んでいる」という言葉をモットーに考察を進めています。地域のなかで、SDGsにつながる取り組み、まちづくりや地域おこしの活動、第一次産業の現場などにお邪魔し、見学したり、お話を伺ったりしながら、地域での具体的な実践やその背景にある考え方・思想をご教示頂き、いつも驚きと発見を与えて頂いています(地域調査)。

こうして地域調査で得られた知見と、これからの社会を見据える哲学・思想(公共哲学・合意形成論・民主主義論・地域研究・環境思想など)の文献研究から見えてきた視座とをつきあわせ、持続可能な社会にとって必要になってくると思われる社会のありかたや思想を探り、つむぎ、提起する研究を行っています。
これらが、私たちの大事にしている環境哲学研究です。

みなさんも、ぜひご一緒に、環境問題を哲学し、地域における最先端の取り組みに学び、未来社会をデザインしてみませんか?

(2024年3月15日改訂)