イギリスの科学者アイザック・ニュートンはペストの流行を逃れて帰郷してい たときに,りんごの実の落ちるのをヒントに万有引力の法則を発見したと言わ れている.その信憑性はともかくとして,生家にあったりんごの木は300年以 上を経た今日も接ぎ木によって伝えられている.
接ぎ木は一種のクローンであり,果樹等の品種を保つために古くから行なわれている技術である.“ニュー トンのりんご”の原木もこうして生き続け,1964年2月にその苗が1本,当時の学士院長・柴田雄次氏のもとに送られてきた.しかし,これはウィルスを持っていたために隔離され,専門家の“治療”を経て小石川植物園に植えられたのは1980年のことであった.本学には1982年に農学部の志村勲教授のグループによって小石川から分譲された穂木が育成され,1991年12月に農学部本館裏庭に,また1999年4月に工学部4号館横に根付くことになった.
旧約聖書によれば,イブがりんごの実を食べたために人間は楽園を追われたことになっているが,その“りんご”がきっかけとなって自然科学が芽生え,われわれの生活を向上させてきた.しかし本当の楽園にもどれるのかどうかは今後の科学技術の行方にかかっているし,それをニュートンのりんごは静かに見守っていることだろう.