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式辞・告辞

平成24年度 入学式


平成24年度入学式の式辞です。


平成24年4月6日
東京農工大学長 松永 是

 東京農工大学に入学された皆さん、おめでとうございます。教職員を代表して、お祝い申し上げます。また、今まで支えてこられたご家族はじめ関係各位の方々にも、心よりお慶び申し上げます。今後も、本学の学生として様々な経験をし、成長していく彼らを、温かく見守ってくださるようお願いいたします。

 本年度の新入生は、学部では、農学部が320名、工学部が620名で合計940名です。大学院は、工学府・農学府・生物システム応用科学府・連合農学研究科及び技術経営研究科の五つで構成されており、生物システム応用科学府内に設置されている早稲田大学との連携による共同先進健康科学専攻も全てあわせますと、博士前期課程・修士課程673名、博士後期課程116名となります。学部・大学院全体を併せた新入生の総計は1729名で、この中には、アジア、アフリカ、アメリカ、ヨーロッパ各地からの留学生87名が含まれております。この1729名の皆さんが、東京農工大学の新しい芽として、葉を広げ、花を咲かせ、そして種となってまた自分自身の根を張り、成長していくことになります。これから本学で過ごす日々が、皆さんの将来に、皆さん自身がどのような木になるかに、大きく係わってきます。のびのびとご活躍いただきたいと、教職員一同心より願っております。

 ご存知の通り、現代社会は科学技術の進歩とともに、環境、エネルギー、食糧、健康、安全・安心、災害等の問題をはじめ人類の存続に係わる地球規模の危機的問題を多く抱えるようになりました。その上昨年の震災と原発事故以降、脱原発を望む声が高まっており、今後科学技術の社会における役割の重要性は高くなってきています。そのような状況下で皆さんが過ごす東京農工大学はどのような大学なのか。本学の基本理念は、『世界の平和と社会や自然環境と調和した科学技術の進展に貢献するとともに、課題解決とその実現を担う人材の育成と知の創造に邁進する』ことであり、我々の大学の基礎ができた1874年以来、日本の近代化・国際化に様々な面で貢献する科学者を輩出すべく、進化し続けてまいりました。そして現在も、『持続発展可能な社会の実現』、『循環型社会の構築』を目標とした研究や人材育成に全力で取り組んでおります。皆さんが人類のより良い未来への牽引力となる手助けをする、それが本学の役割です。そこで、今後皆さんにどのような心構えを持っていただきたいか、少しお話ししておきたいと思います。
 
 学部に入学された皆さん、皆さんにはまず、大学での教育は高等学校までの教育と大きく異なることを認識していただきたいと思います。高等学校までは教員が教えてくれる知識、つまり先人たちの知を学生が吸収し理解できればよいという一方向の教育でしたが、大学では、学生が主体となり、自主的に考え、知を積み重ね、応用し、更に新たな知を生み出すことが求められます。教科書や参考書で学び覚えるという今まで皆さんが慣れ親しんできた勉強の仕方から、物事をすべて鵜呑みにするのではなく、批判・俯瞰する目を持ち、自分自身の目や手や足や頭を使って真偽を追求するという姿勢を培う必要があるのです。
『盡く書を信ずれば、則ち書無きに如かず』
(盡書信、則不如無書)
とは孟子の有名な言葉ですが、この姿勢こそ、科学者として何よりも大切なものであると言えます。学部ではそれをしっかりと身に付けていただきたいと思います。また、この姿勢は社会に出ても役立ちます。自分が何をするべきなのか、何ができるのか、どのような時でも自分自身で見極めて、前へ進む道を見つけることができれば、それは何よりも強い人生の味方となります。社会の一員として羽ばたいていくための人間力を付けるのもこの四年間です。いつか、すべての経験が人生において意味を持つ日が来ます。ぜひ何事も敬遠せず、自主的に、積極的に、学生生活を過ごしてください。

 大学院へ入学される皆さん、皆さんには更に一歩先へ進み、より専門的な研究者となるべく実力をつけていただかなくてはなりません。現在地球が抱えている諸問題は非常に複雑で、単独の研究分野によって解決できるものでないということは、皆さんお分かりだと思いますが、農学と工学という二つの柱だけでなくその融合領域に常に挑戦的に取り組みグローバルに研究を推進してきた本学は、それらを解決するために有効な対策を提言及び実現するオピニオンリーダーを育成するのに最適な環境であると言えます。また本学は、他機関や他大学との連携、民間企業との共同研究を活発に行い、常に外に開かれた研究活動を意識して推進しています。民間企業勤務経験のある研究者の受け入れ、テニュアトラック制度や男女共同参画を積極的に推進し、所属する教員・研究者に多様性を持たせることも重要視しています。また、海外との交流も積極的に行い、現在世界80以上の大学と学術交流協定を結んでいるだけでなく、海外拠点を設けて有力大学・研究機関や企業との連携を進め、優れた学生・研究者の受入・派遣を行うなど、研究者の国際化を進めています。皆さんには、こうした本学の特色をぜひ有効に活用し、幅広い経験をしていただきたいのです。柔軟な思考、吸収力、多角的視野、客観性、挑戦的姿勢、不撓不屈の強い心、高感度な感性、いずれもこの大学院にいる間に身に付けることができるものであり、皆さんの将来の宝となるはずです。学部同様、むしろそれ以上に自分自身の目で物事を見極めることを意識し、前向きに、意欲的に進んでください。そして、グローバルな問題解決に中心的役割を果たし、循環型社会・持続発展可能な社会の構築に向けて大きく寄与する、質の高い研究者になっていいただきたいと思います。

 最後にもうひとつ、当たり前のようですが、とても大切なことがあります。研究は、時に精神的にも身体的にも厳しいものになります。健全な心と体がなくては、学問の道も続けることができません。特に、地方や海外から来られた方々は、慣れない地でいろいろと不安なこともあるかと思います。健康に十分留意して、実り多い大学生活を送ってください。もちろん我々も、まだまだ現状で満足しているわけではありません。さらに発展し、さらに力強く皆さんのバックアップができるよう、常に最大限の努力を続けていきます。本日ここに集まった皆さんが、今日の気持ちを忘れず、明日を担う社会人として大きく成長されんことを願い、また、皆さんが本学の一員となることにあらためて歓迎の気持ちをお伝えして、式辞とさせていただきます。