二月○日朝

稲葉 智裕 

 其之日は吹雪がやみ 青天が顔を出した 窓からは弱々しいが 春の到来を告げるような光の乱舞を見ることができた
時刻は六時四十分 朝食をとる前のことであった

 外へ出ると春の陽気のようなものが空中にエーテルのごとくただよっていた 雪は昨日のうちに雪とはいい難い氷の結晶をあつめたままのごとく降りづもって光のスペクタクルを演じていた

 だが窓のこもれ陽とは違う心持ち、いやなにか知らぬ物足りなさを感じた

 光はガラスだろうが氷だろうがとにかく物に反射し、また吸収され屈折をうけるものである だから窓と雪とでは光の趣きを異にすることは当然のようと言えばそうであろう

 しかし今気付いたことは物理的なもので終えるものではなかった
つまり人の理想と現実とのギャップを一折垣間見、自分の人生十八年間の失敗の反省を瞬時にオン・ラインしたことであったのである 今は十時三六分陽の光は青天によっておおいかぶされている


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