罪とは何か

村田 実貴生 

 法律に背いた行い、それを世間では罪という。
 そして、それは、あなたにとっては余り縁のないものだろう。
 かといって、あなたは罪に無関係だと言えようか。
 殺人は世間では最も重い罪と考えられている。が、どうして人を殺してしまったのか。その理由というのは案外に身近なものではないか。例えば失恋だとか。「あの人なんか、嫌い、嫌い、嫌い「「。」と言うのを陰で聞いて、私は絶望を感じた。それと共に、何故に私の思いを分かってくれないのだという思いが、殺意をも生んだ。
 ということもあろう。そうなると、人を殺すか否かは、思いの深刻さだけの問題になる。
 そう考えると殺人というのは、ある原因から生まれたただ一つの結果に過ぎないのではないか。そして、殺人よりむしろその原因の方こそが重い罪と言えまいか。
「あの人なんか、嫌い、嫌い、嫌い「「。」と言った人はただうっぷんを晴らすために言っただけだろう。決して人を傷つけるために言ったのではあるまい。けれど、この人も罪を犯したことに違いなかろう。人を傷つけてしまったのだから。
 そんなことを言ったら、世界の全ての人が罪を犯していることになってしまう。そんなことは認めない。という人も出てこよう。が、認めようが認めまいが、「義人無し、一人だに無し。」というのは不変の事実なのだ、と思う。
 人一人でも傷つける以上はあなたは罪人であり、罪を背負って生きているのだ。

 日々の己に罪を感じず、これこそ罪と言えまいか。


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