大学院 生物システム応用科学府 生態系型生産システム教育研究分野
農学部 地域生態システム学科 土壌生態管理学教育分野
豊田研への進学を考えている皆さんへ
豊田研究室は、地球的視野に立って地域における循環型社会を実現するため、農業環境の保全・修復を実現する高度な研究と、それに裏付けられた実践的な高等教育を行っています。
私たちの研究の大きな目標は、「微生物および土壌機能について研究し、作物生産や環境保全に活用する」ことです。そのために、持続的な土壌利用と環境負荷の軽減に関わる研究を行っています。
世界の人口が60億人を突破し、今後、ますます人口が増加していきます。増え続ける人口を支えるためには食糧生産の増加が急務であり、地球温暖化、砂漠化、土壌劣化等の地球規模の環境問題を考慮すると、如何に持続的に、低投入でこの緊急課題を克服するかが最重要です。
食料を増産するために克服すべき課題はなんでしょうか。実は農作物の収量の約3割は病害・虫害・雑草害によって損なわれています。中でも作物の枯死・生育阻害などを引き起こす病害は収量を12%も減らしていると言われています。そこで我々は病害の克服こそが食料増産効果があると考えています。
また、もう一つ人間社会が持続的に発展していく上で問題となるのが、有機性廃棄物の処理です。皆さんはフラスコの中にいる一匹の微生物はどこまで増殖できると思いますか? 無限に増殖できるでしょうか? いいえ、微生物は一旦増殖した後、徐々に数を減らしていきます。その原因は主に排泄物の毒性が影響していると考えられており、つまり生き物が生存し続けていくには排泄物の除去が不可欠なのです。
最初に私たちの目標は「微生物および土壌機能について研究し、作物生産や環境保全に活用する」ことだと述べました。その目標をかなえるため、私たちは「資源循環型農業の開発」、「土壌病虫害診断法の開発」、「農薬や化学肥料の削減・代替法の開発」および「地球温暖化ガス発生量の制御」に取り組んでいます。
<病害虫被害を克服するために>
世界には作物の病気が起こりにくい、発病抑止土壌というものがあります。世の中の全ての畑を発病抑止土壌にするためには、まずその抑止機構の解明が必要となります。
一つの研究例を紹介します。ある堆厩肥連用土壌にトマト青枯病菌を接種すると、急速に死滅するばかりでなく、トマト根および茎葉部における増殖も著しく抑制されることがわかりました。この土壌を殺菌すると土壌中における病原菌の生残が良好となったことから、微生物群がこの抑止性を担っていることがわかりました。
ではこの有用微生物はどのようにしたら増やすことが出来るのでしょうか?その一つの答えが有機物の施用です。有機物を畑に投入する事でこれらの有用微生物が増えていくことを実証するため、研究を行ってきました。
また、メタン発酵残渣が病虫害を抑制するという研究も行っています。メタン発酵残渣とは、メタン発酵残渣とは有機性廃棄物(家畜排せつ物、生ごみ等)からバイオガスであるメタンを取り出すプラントで発生する残りかすです。元々この残渣は肥料成分を多く含んでいるので化学肥料の代替品としての効果が研究されてきました。それに加えて私たちの研究によって、トマト青枯病やネコブセンチュウに汚染された土壌にメタン発酵残渣を入れると、これらの病気が抑えられるということが判明しました。
<環境負荷の軽減のために>
現在、作物生産は化学肥料を使っていますが、その原料である石油エネルギーは有限であり、いずれ枯渇してしまうため、今後は持続可能な循環型作物生産システムに転換していく必要があります。そのために私たちが注目しているのが、前述したメタン発酵残渣の水田への利用です。この残渣の肥料成分を水田に投入することで有効利用しようと考えていますが、一つ懸念があります。それはメタン発酵残渣を用いることで、温室効果ガスであるメタンが放出されたり、地下水を汚染する硝酸溶脱が起こる可能性があることです。そこで私たちは実際にメタン発酵残渣を水田に施用して、その環境負荷と肥料効果を評価しています。
<農薬を削減するために>
皆さんの農薬に対するイメージはどんなものでしょうか?怖い?環境負荷がある?けれども農薬は、現代農業で収量を得るために必要不可欠なものです。ですが、その一方でもし病気が起きたら困るから、と必要かどうかわからないのに毎年毎年農薬が使われていることも事実です。実際、私たちの調査でとある地域のサツマイモ圃場は、植物寄生性センチュウが全くいないにも関わらず、毎年毒性の高い揮発性農薬を使っていました。
では、何故このような無駄な農薬が使用されているのでしょうか?それは農薬が必要かどうか診断する方法がないからです。人間は風邪かな?と思ったら医師に診断してもらって、もし風邪なら薬を処方してもらいます。農業にもそれと同じで、病気が発生するかどうか知る土壌診断が必要なのです。
どうやって土壌を診断するのか?私たちは土壌DNAの分析という方法でこの問題に取り組んでいます。すなわち、農薬を使う前に土壌中に病害虫がいるか、DNAを用いて分析することで、病害虫密度が高いなら農薬を使う、低ければ農薬を使わなくてよい、と診断できるのです。私たちは現在、様々な病害虫に対してこの土壌診断法を開発しようと取り組んでいます。
どうでしょうか。豊田研究室の研究内容は想像してもらえたでしょうか?ここでは紹介できなかった様々な研究に私たちは取り組んでいます。そして、私たちはいつでも農業環境の保全・修復を実現する研究に関わりたい学生、自分ならではの問題意識や考え方をもって主張できるようになりたい学生、上を目指してさまざまな能力を高めていきたい学生を歓迎します。
詳しくは当HPの「研究室を希望する学生へ」というページをご覧ください。
ここまで読んで下さり、ありがとうございました。
(2015年11月26日)