終了したプロジェクト(2013年4月更新)

1.「もやし残渣を活用したダイズシストセンチュウ防除法の開発」
2.「水田生態系を用いた家畜廃水浄化と水稲生産の可能性とそのリスク評価」
3.「メタゲノム線虫診断の導入による殺線虫剤使用量の30%削減」
4.「畑への殺線虫剤の使用要否を判断する線虫診断技術の開発」
5.「飼料イネを用いた資源循環型の生産および環境修復システムの構築」
6.「環境負荷低減型高機能養液栽培システムの開発」
7.「ゲノム情報に基づいた線虫病害診断技術の開発」
8.「熱帯泥炭低湿地の環境保全と持続的生産システム構築のための物質循環インベントリ作成」
9.「堆厩肥連用土壌のトマト青枯病抑制機構の解明」
10.「水田土壌生態系における遂次還元過程に関わる微生物群集の解析」
11.「根圏微生物群集の根圏における生態的地位(ニッチェ)に着目した土壌病害の生物的防除
12.「微生物多様性および微生物群集構造からみた土壌病害抑止土壌の特徴」
   

   

1.「もやし残渣を活用したダイズシストセンチュウ防除法の開発」H22~H24年度
文部科学省科学研究費 基盤研究(C) 代表
研究内容:
東京都内のエダマメ栽培圃場において、ダイズシストセンチュウによる被害が広がりつつある。多くの消費者が減農薬を要望するため、薬剤に頼らない防除法の確立が求められている。一方、食品製造廃棄物の有効利用も重要な課題となっている。"もやし"生産過程で生じる廃棄物が未利用となっていることから、この資源を用いてセンチュウ被害を効果的に防除する方法を確立することが、本研究の目的である。室内試験において、もやし残渣およびもやし残渣の水抽出液をダイズシストセンチュウ(SCN)汚染土壌に添加し培養したところ、1週間後にはシストの孵化促進が確認され多数の二期幼虫が観察された。この増加した二期幼虫は培養2ヶ月後にはほとんど見られなくなったことから、宿主不在下で飢餓により死滅したと推察された。そこで、土壌からDNAを抽出しリアルタイムPCRによりSCN密度を求めたところ、無添加の対照区と比べ約1/10に低下していることがわかった。つまり、もやし廃棄物を土壌に施用することで、SCN密度を低下させ、被害を軽減できる可能性が明らかとなった。ついで、もやし残渣および残渣抽出液を実際のSCN汚染圃場に施用したところ、7月~9月に施用した際には表層土壌のSCN密度を1/4に低下させたことがわかった。しかし、下層土壌への密度低減効果は表層ほど顕著ではなかった。また、10月以降の施用では有意な密度低減効果は認められず、シストの孵化を促進するには土壌温度が重要な要因であると推察された。次年度以降、施用時期、施用方法を再検討する必要がある。

   

   

2.「水田生態系を用いた家畜廃水浄化と水稲生産の可能性とそのリスク評価」 H21~H23年度
JST戦略的国際科学技術協力推進事業・研究交流型 分担
研究内容:
・牛糞尿由来の消化液を水田に施用した場合、化学肥料と比べ有意にメタン発生が増加するが、豚糞尿由来の消化液の場合には化学肥料と同程度であることをライシメータ試験により明らかにした。この結果に基づき、水田に施用するメタン消化液は、豚糞尿由来のものが好適であると結論された。豚糞尿由来の消化液は牛糞尿由来のものと比べ固形分が少ないため、基肥や追肥として水田に灌漑水を介して施肥しやすいこともわかった。
・1区3.6mx4.8m、3連の圃場試験において、無肥料、化学肥料(N:P:K=100:100:100 kg N/ha)、豚糞尿由来のメタン消化液(無機態窒素で100あるいは300 kg N/ha)で飼料イネ(品種Leaf Star)を栽培したところ、乾物生産量は高濃度でメタン消化液を施用した処理区で3年間一貫して最も高い値を示した。同一の窒素レベルで比較しても、豚糞尿メタン消化液の肥料効果は化学肥料と遜色がないことがわかった。これらより、メタン消化液は飼料イネの肥料源として化学肥料を代替できることが明らかとなった。Leaf Starは農工大で開発された強倒伏耐性品種である。2009、2010の両年度は300kgNの高窒素施肥レベルでも倒伏しなかったが、2011年度は一部が倒伏した。さらなる強桿性品種育成が必要である。
・水田として利用していない圃場を水田化した場合、初年度のメタン発生量はきわめて少ないこと、2年目、3年目と栽培を継続するにつれて急増することを明らかにした。
   

   

3.「メタゲノム線虫診断の導入による殺線虫剤使用量の30%削減」H21~H23年度
農林水産省 新たな農林水産政策を推進する実用技術開発事業 代表
研究内容:
殺線虫剤の使用量削減を目標に、線虫被害を予測するための診断技術と診断基準を作成することが本研究の目的です。そのためにまず、土壌に生息する植物寄生性線虫を直接定量するメタゲノム線虫診断法を確立しました。ついで、ダイコンおよびサツマイモについて、3年間にわたり合計約600点で作付け時の線虫密度と収穫時の線虫被害度との関係を調べました。その結果、要防除水準は、黒ボク土、沖積土のダイコン栽培のネグサレセンチュウでは5~9頭/20g土壌、砂土のサツマイモ栽培のネコブセンチュウでは100頭/20g土壌となることを明らかにしました。この密度以下の圃場では100%近い信頼性で実質的に線虫被害のない作物を収穫できましたので、要防除水準以下の圃場では、殺線虫剤を使用しなくてもよいことがわかました。
   

   

4.「畑への殺線虫剤の使用要否を判断する線虫診断技術の開発」H21年度   JSTシーズ発掘 代表
キタネグサレセンチュウとサツマイモネコブセンチュウ、キタネグサレセンチュウとダイズシストセンチュウを同時に定量するリアルタイムPCR手法を開発した。
   

   

5.「飼料イネを用いた資源循環型の生産および環境修復システムの構築」H19 ~H22年
文部科学省科学研究費 基盤研究(A) 分担
研究内容:
本研究では、飼料イネを「環境材料」として用いて、地域における循環材料生産および環境修復システムを構築し、適切な窒素循環を図るために、飼料イネにより汚濁河川水、牛及び豚ふん尿のメタン発酵消化液、畜産ふん尿を固液分離した液肥の窒素除去を評価した。また、飼料イネ水田による窒素除去のモデル及び流域規模の水収支モデルの構築を行った。さらに、飼料イネを環境材料とした循環材料生産システムの持続性を評価するために、飼料イネの生産を20年以上にわたり継続している埼玉県熊谷市妻沼地区の善ヶ島において、聞き取りアンケート調査を行い、飼料イネの普及や継続生産に伴うシステムの構築や経済的な評価を把握することができた。
   

   

6.「環境負荷低減型高機能養液栽培システムの開発」H17~H19年度
農林水産省 先端技術を活用した農林水産研究高度化事業 代表   

   

7.「ゲノム情報に基づいた線虫病害診断技術の開発」H17~H19年度
文部科学省科学研究費 基盤研究(B) 代表
研究内容:
本プロジェクトでは、我が国における重要植物寄生性線虫であるキタネグサレセンチュウ、サツマイモネコブセンチュウ、ジャガイモシストセンチュウ、ダイズシストセンチュウに対するリアルタイムPCR用プライマーを設計した。またこれらの線虫数を、ベルマン法を介さずに土壌から直接検出できる新規な手法である締固め法を用いて定量できることを明らかにした。これにより、従来3日間以上を要した線虫の定量が、半日で可能となった。また、線虫群集構造を評価するための手法として、PCR-DGGE法の開発を行った。ベルマン法と二層遠心浮遊法では抽出される線虫群集構造が異なることを明らかにし、両手法を組み合わせることで、土壌中の線虫をより網羅的に評価できることがわかった。ダイコン栽培圃場を対象とした4年間の研究により、作付け時のキタネグサレセンチュウ密度が土壊20g当たり2.5頭以下の場合、収穫時のダイコンに全く線虫被害がみられないこと、3.4~12頭の範囲内ではキタネグサレセンチユウの密度からは線虫被害を予測できないが、PCR-DGGE法により線虫群集を評価することで、被害大と被害小の土壌を区別できることを明らかにした。一方、キタネグサレセンチユウ密度が30頭/20g以上の圃場では、被害が甚大であることがわかった。また、線虫によるダイコンの被害を予測する際には、表層土壌だけでなく、主根が伸びる範囲である0-60cmまで採取して、キタネグサレセンチュゥ密度を推定する必要があることを明らかにできた。そのほか、ジャガイモ、エダマメ、サツマイモ栽培圃場の線虫診断を行った。
   

   

8.「熱帯泥炭低湿地の環境保全と持続的生産システム構築のための物質循環インベントリ作成」H13~H15年度
文部科学省科学研究費 基盤研究(B) 分担
研究内容:
熱帯泥炭は重要な炭素貯蔵庫であるが、一方主要なメタン発生源とされている。土地の開発と泥炭火災は泥炭地からの炭素放出を増加させ、地球温暖化を助長する。熱帯泥炭における農業と泥炭火災が地球温暖化に及ぼす影響を評価するため、森林、農地および火災中の主要温室効果ガスであるCO2、CH4、N2O放出を測定した。泥炭火災の温暖化ポテンシヤル(GWP:CO2当量の温室効果ガス放出)は、自然森林のGWPの17倍であり、樹木の燃焼によるGWPより4倍大きかった。その77%はCO2が占め、CH4とN2Oはそれぞれ22%、0.14%を占めた。泥炭と樹木の燃焼の合計のGWPは37kgC m-2 yr-1で森林の純一次生産の約37倍と見積もられた。火災後のGWPは自然林の32から42%に低下し、その99%はCO2放出によるものであった。ただし、植物が消失したため、CO_2は直接大気へ放出される。自然林、再生林土壌はCH_4を吸収していたが、火災地はCH4を放出した。農地のGWPは自然林の2倍であつた。CO_2放出は日本の農地土壌の5倍であり、GWPの50から90%を占め、残りはN2O放出が占めた。N2O放出は年間窒素施与量(626kg N ha-1 yr-1)の4から23%を示した。これは、泥炭の分解と農地土壌の高いpHと高い交換性Ca含量のためであると思われる。熱帯泥炭における森林火災は農業のインパクトより圧倒的に大きかった。ただし、有機物分解を促進するかもしれない窒素施肥はN2Oの放出を助長し、CH_4の吸収を抑制した。
  

   

9.「堆厩肥連用土壌のトマト青枯病抑制機構の解明」H13~H14年度
文部科学省科学研究費 若手研究(B) 代表
研究内容:
名古屋大学農学部付属農場堆厩肥(400t ha-1 y-1)連用土壌(厩肥区)における青枯病抑制機構について検討した。薬剤耐性変異株を用い土壌環境中での病原菌の動態を追跡したところ、トマト青枯病菌は厩肥区土壌では急速に死滅するばかりでなく、トマト根および茎葉部における増殖も著しく抑制されることがわかった。したがって、厩肥区土壌では根における病原菌の増殖、感染、植物体内への蔓延が抑制される結果、発病が軽減されると推察された。土壌をガンマ線殺菌、あるいはクロロホルム燻蒸すると、土壌中における病原菌の生残が良好となり、ほぼすべての個体が発病するようになった。土壌を60度、30分間熱処理しても病害発生は無処理と比べまったく変化しなかったことから、胞子形成菌などの熱に対してある程度耐性能を有する微生物群が厩肥区土壌におけるトマト青枯病抑止性を担っていることがわかった。また、土壌pHを低下させたり、土壌水分を比較的乾燥気味(最大容水量の35%程度)に維持することにより、植物生育を損なわずに、青枯病を防除することが可能となることが示唆された。これら一連の実験ではトマト青枯病発生程度と土壌における病原菌の生残とがきわめてよく対応しており、病原菌の土壌中における死滅を促進することにより青枯病が軽減されることがわかった。
一方、化学肥料連用土壌に各種堆肥を添加し、有機物施用によるトマト青枯病抑制効果を検討したところ、本農場で使用している厩肥、および鶏糞堆肥を4%添加することでトマト青枯菌を減少させると共に青枯病を顕著に抑制できることがわかった。しかし、その他の有機物(豚糞堆肥、バーク堆肥、コーヒー粕堆肥、青刈り作物)ではそういった抑制効果は認められず、有機物を施用する事では必ずしも青枯病防除にはつながらないことが判明した。   

   

10.「水田土壌生態系における遂次還元過程に関わる微生物群集の解析」 H11~H12年度
文部科学省科学研究費 若手研究(B) 代表
研究内容:
水田生態系に特徴的な逐次還元過程を担う細菌群集を明らかにするために、1)リン脂質脂肪酸組成による化学分類学的手法、2)16S rDNAの塩基配列の違いに基づく系統分類学的手法であるPCR-RFLPおよびPCR-DGGE法を適用した。
昨年度は石英砂を用いたが、今年度は風乾細土に、稲ワラ粉末0.4%(C換算)および各種還元剤として硝酸カリウム(脱窒系)、二酸化マンガン(Mn還元系)、水酸化鉄(鉄還元系)、硫酸アンモニウム(硫酸還元系)を加え湛水し、暗所25℃で静置培養した。還元剤の代わりにメタン生成の特異的阻害剤であるBESを添加した系(発酵系)、および硫酸還元の阻害剤であるNa2MoO4を添加した系(メタン生成系)も作成した。脱窒系では添加した硝酸イオンの減少、Mn(IV)添加区および鉄(III)添加区では培養に伴いそれぞれMn(II),Fe(II)の生成が、硫酸イオン添加区では硫酸イオンの減少、発酵系ではメタンが生成しないことが確認できた。活発に各還元過程が進行していると思われる培養途中にリン脂質脂肪酸およびDNAを抽出し、脂肪酸組成の分析およびPCR-RFLP、DGGE解析を行った。いずれの処理区においてもリン脂質含量が増加したことから、各還元過程に特異的な微生物群が増殖している可能性が示唆された。リン脂質パターンは還元の第一過程であるMn、鉄還元過程と、第二過程である硫酸還元。メタン生成系、および脱窒系の3つのクラスターに分けられた。RFLP、DGGEのパターンはリン脂質のパターンとは多少異なっていたが、脱窒系が他と大きく異なる点は一致していた。各還元系により多少バンドパターンが異なっていたが、各還元系に共通するバンドも多く認められ、これらの微生物群が稲ワラの分解に共通して働いていると推察された。
   

   

11.「根圏微生物群集の根圏における生態的地位(ニッチェ)に着目した土壌病害の生物的防除」H9~H10年度
文部科学省科学研究費 奨励研究(A) 代表
研究内容:
現在我が国で最も被害の大きいトマト青枯病の病原菌( Ralstoniasolanacearum YU1Rif)およびその拮抗細菌として蛍光性シュードモナス(Pseudomonas fluorescens MelRC2Rif)を取り上げ、これらモデル細菌の根圏への定着に関与する微生物群集を解明することを目的とし、lux遺伝子を組み込んだ両細菌のトマト根面への定着に及ぼす個々の微生物種の影響について検討した。トマト種子を20種余の分類的位置の異なる様々な土壌細菌を含む軟寒天中で栽培し、各種細菌を先住させた後、MelRC2RifあるいはYU1Rifを接種し、トマト根への定着程度を比較した。MelRC2Rifのトマト根への定着は、同種以外の細菌によってはほとんど抑制されず、MelRC2Rifは根面上で多くの根面細菌と住み分けていることが推察された。また同種の中にも影響の強い菌とない菌とが存在し、同種内に生態的地位の異なるグループが存在することが想像された。これらの推察は根面への定着抑制効果がない菌でも、トマト根分泌物中では抑制効果を有していたことからも支持された。YU1Rifのトマト根への定着もMelRC2Rifの場合と同様に同種の菌によって最も強く抑制され、種が異なる細菌種の定着抑制能は多くの場合小さいものであった。しかし、本病原菌に対する拮抗菌として分離されたMelRC2RifはYU1Rifの定着を最も強く抑制し、本拮抗菌によるトマト青枯病防除のメカニズムは病原菌の根面への定着抑制であることが示唆された。また、CCDカメラを用いることにより、これら細菌のトマト根面への定着の様子を簡便に観察することが可能であった。昨年度の結果も踏まえると、MelRC2Rif.YU1Rifのトマト根面への定着に最も影響するのは同種の菌であり、種が異なると多くの場合住み分けが起こることが明らかにされた。
   

   

12.「微生物多様性および微生物群集構造からみた土壌病害抑止土壌の特徴」H8年度
文部科学省科学研究費 奨励研究(A) 代表
研究内容:
ダイコン萎黄病発病抑止土壌、助長土壌に特徴的な土壌微生物群集構造の解明を目的として、両土壌中の直接検鏡法による全菌数、希釈平板法による培養可能な細菌数(生菌数)、培養可能な細菌フローラ、16SrDNAをターゲットとしたPCR-RFLPによる土壌DNAの多様性、Biologでの基質資化能より類推される機能的多様性を測定した。発病抑止土壌である神奈川県三浦土壌および助長土壌である三重県津土壌いずれにおいても全菌数、生菌数はそれぞれ乾土1g当たり10^9cell、10^8cfu、培養可能な細菌フローラはグラム陰性細菌が約5割、コリネ型細菌が2-3割、放線菌が1-2割、胞子形成細菌が約1割と両土壌間で顕著な差は認められなかった。また、PCR増幅した16SrDNAの制限酵素断片の中に三浦土壌でのみ、あるいは津土壌でのみ検出されたバンドが存在し、両土壌間で若干細菌種の構成に相違が認められたものの、土壌DNAの多様性は三浦土壌でより多様というわけではなかった。他方、Biologからみた機能的多様性は三浦土壌と津土壌間で明らかな差異が認められたものの、三浦土壌でむしろ多様性が低く、さらに、このときの基質資化速度も津土壌に比べ三浦土壌で遅く、これが抑止土壌の特徴とは考えにくかった。以上の結果より、今回用いた方法では三浦土壌あるいは津土壌に特徴的な微生物群集を特定することは不可能であり、三浦土壌の発病抑止性に関与する微生物群集の詳細についてさらなる研究の必要性が示唆された。
   

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