リグニン生合成系の抑制による飼料イネ消化性の向上

リグニンは地球上のバイオマス資源のうち、セルロースに次いで多量に存在するポリマーです。リグニンは多年生草本を含む、全ての陸生高等植物により生産されるフェニルプロパノイド系二次代謝産物として、植物体の構造的な支えの他、傷害・病害に対する抵抗性や草食動物の食害に対する抵抗性に寄与しています。

植物の生産する物質の有効利用は、主にリグニンによる妨害を受けています。例えば、製紙業ではパルプから紙を作る製紙過程において、パルプの脱リグニン化が必要となります。また、畜産においても農産未利用資源の有効利用手段として、稲藁飼料化の試みがなされてきました。稲藁を家畜の粗飼料として与える試みでしたが、稲藁自体が子実を収穫した後の植物体であるため、「高度に木質化(lignification)して、飼料としての消化性が低い」という難点がありました。リグニンはセルロースやヘミセルロースのような構造性多糖がフェルラ酸を介したエステル・エーテル結合により結合している化合物です。構造性多糖はルーメン内で分解・変換され、単糖や少糖、揮発性脂肪酸として消化・吸収されます。しかし、エステル・エーテル結合したフェルラ酸やリグニンが多いと、それらが構造性多糖の分解を阻害し、全体としての飼料消化性を下げてしまいます。よって消化性の高いリグニンを持つ植物を作出することは畜産の発展への貢献となると考えられます。

リグニンの生合成に関わる酵素のうち、CAD(cinnamyl alcohol dehydrogenage)と、SAD(sinapyl alcohol dehydrogenase)の二つの酵素の働きを抑制することを目的としました。これらはリグニンモノマー前駆体の修飾酵素であり、抑制によってリグニン含量を減少させずに、リグニン組成や構造を変化させることが報告されています。Baucher M et al. Plant Mol Biol. 1999 Feb;39(3):437-47.このことから、CAD・SADの改変はイネの耐倒伏性や導管形成、生長などに影響を与えずに、リグニン組成・構造を改変し、より化学的反応性や消化性を向上させることができると考えました。


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