Scope

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力学(Mechanics/Dynamics)を駆使して新たな価値を生み出す機械工学(Mechanical Engineering)において,特に要素が集まって全体が構成される仕組みを扱う力学((非平衡)統計力学; Statistical Mechanics)や,時々刻々変化していく仕組みを扱う力学((非線形)力学系; Dynamical Systems)の切り口から分野横断的な研究を展開しています.長期的視点に立って論文を通じて世界に問い続けてきたこのような着眼点は,近年になり卓越した技術力を備えた各界を代表するような研究者達から現場での切実なニーズとして急速に理解され始め,これから共に基礎学理に根ざしたイノベーションへ展開していこうとしています.

 

例えば,一分子計測や光操作技術では,ブラウン運動のような現象に対処する必要があります.従来の見方では,熱揺らぎはノイズとして忌避されていましたが,対象自体が示す揺らぎは本質的な特徴であり計測に有用な情報も秘めています.そして,ランダムさを伴うダイナミクスのビッグデータを的確に活用するためには,統計力学・力学系に根ざした応用力学が必要です.その成果の一例であるParticle Image Diffusometry (PID)は,世界で初めて結晶核生成前の分子群の状態を非染色で可視化しました.この流体と固体の間の物質状態の知見は製薬産業でも重要ですし,計測データ解析を通じて宇宙や惑星の歴史を紐解くカギにもなります.

 

また,膨大な試行錯誤を必要とするモノ作りでも,開発は暗黙のうちに何らかの前提や考え方に基づいて進められます.したがって,カルノーの時代から200年を経た今,材料のミクロな自由度をデバイスのマクロな機能へつなぐには,熱揺らぎを考慮した新たな熱力学に基づく設計指針が重要になります.熱揺らぎに支配されたダイナミクスを通じて流体と固体をつなぐ応用力学はナノテクノロジーだけではなく,ナノペーパーなどのセルロース素材を活かしたロボットの開発にもつながっています.また,要素と全体の関係を設計した力学的メタマテリアルは,しなやかな大変形挙動に基づくソフトロボティクスへの展開につながっています.

 

私達が目指すのは,縦糸に対する横糸のように各分野をつなぎ,“モノ”を最大限活かす“コト”となるような研究です.琳派という独自ジャンルを認知される尾形光琳も,基礎を踏まえた型破りだからこそ紅白梅図屏風のように斬新な対比のある作品に結実しています.硬い先入観の枠を壊す理論的知見は,往々にしてその真価を理解されず,活かされるその時を待っています.科学技術の大きな歴史を踏まえた洞察は,永続的な価値を持つ知見の獲得につながっています.私達は共感してくれる方々と一緒に,対照的とされるアカデミズムとイノベーションをつなぐ成果を通じて,世の中を豊かにしていきたいと考えています.

 

花崎 逸雄 


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