United Four Mechanics/Dynamics

United Four Mechanics/Dynamics

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Shear-induced instability of lipid bilayer membrane in water

ナノ・マイクロ系で四力の境界は自明でなくむしろ共存している

 

固体力学・流体力学・熱力学・機械力学は「四力」と呼ばれ,しっかりとした基礎のある機械工学の特色を成しています.しかし,ナノ・マイクロ系では,必ずしも取り扱っている現象がこのうちのどれかに常に限定されるわけではなく,むしろ共存していることが多いです.このような場面では,原子・分子・粒子・フィラメントなど,物質を構成する要素と全体の関係を明らかにする統計力学(Statistical Mechanics)や,対象を限定せず普遍的に時間発展の仕組みを取り扱う力学系(Dynamical System)の視点を通じて,四力を横断あるいは融合した視点から力学現象の解明が可能です.

 

例えば,マクロな円筒容器に水を入れても常温常圧なら水は身近な液体状態のままです.これに対し,分子レベルで円筒構造を有する直径2 nm程度以内の小さなカーボンナノチューブ(Carbon Nanotube; CNT)の内部に水を入れると,水分子群は常温でも水素結合を介して集団構造を形成し,流体でありながら固体のように構造の秩序があります.この集団構造は,熱揺らぎによって水素結合の生成崩壊を常に繰り返して,熱力学的な平衡状態が保たれます.このような揺らぎを伴う構造を持つ水に対して流体力学的な流れを引き起こすと,マクロな円管内の流れが放物線型の流速プロファイルを持つPoiseuille流と著しく異なり,CNT内の流れは流速プロファイルが平坦なプラグフローに近い流動現象となります

 

また,細胞膜の主要構成要素である脂質二分子膜がせん断流れにさらされた状況で発生する構造不安定現象では,まず流れ場により脂質分子の平均的な配向が変化し,それが流れに垂直な方向にも広がると共に膜構造スケールの座屈が起き,さらに流体の界面に典型的なKelvin-Helmholtz不安定現象が起きます.まさに文字通り,異なる視点から見ることで,固体や流体の側面が共存していることがわかります.また,この不安定現象は,非線形力学系における分岐現象の一種としても整理することができます.平衡状態でも,膜の構造としては固体の性質を持ち,尚且つ,膜の面内では構成要素である脂質分子が熱揺らぎによるBrown運動で互いの位置を変えて拡散し続けるので流体の性質も持ち合わせています.

 

流体から固体が現れる結晶生成は,流体と固体の両方が関連する力学現象であり,相変化としては熱力学でもあります.そして,構成要素のダイナミクスへの視点は,四力の中で機械力学に近いものです.私達は,結晶核が現れる前の状態で,溶質分子を蛍光染色することなく,水溶液中の溶質分子が複数結合した前駆体であるクラスターがさらに集まって群れを成す様子を,2019年に世界で初めて可視化しました.分子クラスターが集まった物質の状態はハチミツのように高粘度であり,しかも,それはレーザー誘起結晶化現象において顕微鏡視野内で特有の空間パターンを形成しながら時々刻々変化したりもします.これはまさに,固体と流体の間のような特有の物質状態です.

 

力学(Mechanics/Dynamics)的視点を活かすことが,異分野と比較した場合の機械工学(Mechanical Engineering)の特色の1つです.多様な物質・物体を活用する際に遭遇する力学現象を網羅する上で,統計力学と力学系の視点は従来認識されていなかった物質が要素の集まりとして示す性質を明らかにし,四力を横断または融合した形でその時間発展を取り扱うことを可能にします.ここでは,分子論と連続体の描像をつなぐナノ・マイクロスケールに焦点を当てましたが,実際のところ,連続体力学も統計力学も力学系も,具体的な時空間スケールを限定するものではありません.それゆえ,次第にマクロな系でも力学系と共に統計力学の視点が活かされる場面は増えてゆくことでしょう.



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