Structural Order from Fluid Dynamics

Structural Order from Fluid Dynamics

Structural Order of Materials Emergent from Fluid Dynamics

ProjectOfHanasakiLab

流体から材料を創り要素と全体をつなぐ新たな応用力学

 

車の構造部材にも活用が模索され始めたセルロース・ナノファイバー(Cellulose Nanofiber; CNF)から,シート状の材料であるナノペーパーを作製すると,材料力学特性が優れる上に,透明性すら生まれます.これは,通常の紙に比べてはるかに緻密に繊維が集積しているからです.そのおかげで,電気を流すナノ粒子が分散した導電性インクの染み込みも抑えられ,導電性インクをインクジェット描画するプリンティッド・エレクトロニクスの基板材料としても期待されています.これらの固体状態で発揮される機能を司るのは,構成要素であるナノ粒子やナノファイバーが流体中で激しいBrown運動をしながら流動し,そして分散媒である水の揮発により分散質が集積してゆく統計的流動の力学です.

 

私達は光学関連研究者達との共同研究を通じて,レーザーを援用して流体中に漂う分子やナノ粒子を集めて結晶構造を組み上げる方法も追究しています.これは,既に普及している除去加工とは逆の方法で,2018年のノーベル物理学賞と関連します.例えば,敢えて焦点の絞りに限界のある産業用レーザーを広範囲に照射すると,ナノ粒子群がランダムな針状の構造を持つ基板で整然と配列した構造を形成します.これは溶液中で可逆なので,次世代型光学結晶デバイスの実現につながります.また,レーザー誘起結晶化技術と花崎が発明したParticle Image Diffusometry (PID)を組み合わせると,蛍光染色せずに溶液中で結晶化の前兆となる分子集団挙動が可視化できます.これは,分子結晶が必要な医薬品や材料の開発に大いに役立ちます.

 

光学材料の直観的イメージとして,オパールやモルフォ蝶が例に挙がります.色素分子ではなく,それより大きな光の波長と大差ないサイズのナノ粒子が特定の周期構造に配列していると,その構造の配向と光の当たり方次第で,見える色合いなどが決まります.これは,粒子1個の特性で決まる機能ではなく,それらの配列の仕方で決まる機能です.また,医薬品の分子が作用する対象分子と結合した構造を知るためには,その結合した分子が配列した結晶を作製してX線で計測する必要があります.さらには,医薬品の分子それ自体,望む薬効を発揮する医薬品として供されるためには,同じ分子で異なる結晶構造を取り得る中から,特定の結晶構造を実現しなければなりません.

 

既に存在する材料の特性は,それを的確な方法で試験すればわかります.実験が困難な場合には,計算力学の手法があります.しかし,世界で初めてその材料を「創る」ためには,それが出来上がる「過程」となる力学現象に注目する必要があります.流体中で固体の構造を構成する要素(分子,ナノ粒子,ナノファイバー,etc.)が集積する過程では,流れと共存するランダムなBrown運動が,むしろ秩序を生み出すのに好都合な役割を担う側面があります.ランダムさが秩序に役立つのは意外かもしれませんが,これは,個々の要素が流体中で熱揺らぎに駆動されて安定な配置を探索する必要があるからです.粒子が金属原子なら急冷するとアモルファスができることを思い起こせば,理解し易いでしょう.

 

CNFも導電性ナノ粒子も,それがいかにして組み上げられるのか,という秩序形成の法則を明らかにし,それを活かすことで,全体の機能を生み出せます.集団構造を創る力学的メタマテリアルの追究は,流体の力学でもあり尚且つ材料の力学でもあります.また,相変化は昔から熱力学の問題でもありますし,構成要素に対する運動方程式の視点は機械力学に近い側面もあります.そして,近年ではイオン液体だけでなく,フレキシブル・デバイスの要素に「液体材料」を追究する研究も盛んになってきています.つまり,「材料」の概念も,固体を足場としながら流体にまでつながりつつあります.このように,物質の構成要素のみならず,ミクロとマクロ,そして「四力」をつなぐ機械工学を追究しています



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