Big Data Analysis from Microscopy

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ProjectOfHanasakiLab

計測ビッグデータからランダムさの背後に潜む秩序を読み解く

 

歴史上,理論的な研究成果が現れ易いのは,豊かなデータが手に入る時です.例えば,惑星の楕円軌道を明らかにしたJ. Keplerの成果は,T. Braheの計測データがあってこその偉業です.現代では「ビッグデータ」という言葉が使われることが多くなりましたが,コンピュータを使ってデータ解析を大量に実行できるからこそ意味を解読できます.特に,取り扱う現象自体がランダムさを伴う場合,つまりカオスが背後にある場合には,対象の特徴について何かを結論するために,解像度や精度だけでなくデータの総量も多く必要です.ランダムであれば個々の断片を切り取って全体のことを断言できないからです.昔から,「木を見て森を見ず」という諺がありますが,現象を捉えたビッグデータを的確に取り扱うためには,いわば木と木の関係やスケールに留意しながら森を見る必要があります.このような背景から,当研究室ではランダムさを伴う力学現象を専門的に取り扱っています.特に典型的なアプローチは,顕微鏡動画データ解析です.

 

例えば,プリンティッド・エレクトロニクスやフレキシブル・デバイスで重要なセルロース・ナノファイバー(CNF)が水中で3次元的にどのように振る舞うのか,真空中を好むSEMでも,表面を対象とするAFMでも,光の波長で解像度が限定される光学顕微鏡でも,直接観察はできません.しかし,Brown運動する微粒子を分散させて光学顕微鏡動画を撮影し,動画から個々の微粒子を追跡し(Single Particle Tracking; SPT),得られた軌跡群の特徴を読み解けば,拡散係数や粘度を包含する物質の力学特性をミクロな構造から評価できます.これは,CNFからナノペーパーを作製する際の設計指針につながります.また,SPTに基づく解析から,敢えて焦点の絞りに限界のある産業用レーザーを広範囲に照射するとナノ粒子群がランダムな針状の構造を持つ基板で整然と配列した構造を形成するという意外な現象も発見しました.これは溶液中で可逆な現象であり,次世代型光学結晶デバイスの実現につながります.さらに,SPTだけでなく,花崎が発明したParticle Image Diffusometry (PID)により,私達は2019年に世界で初めて溶液中の有機分子が結晶化する前段階の分子群の挙動を蛍光染色せずに可視化することに成功しました.しかも,結晶核生成前の分子群が形成する状態は,ハチミツに匹敵する高い粘度を持つことも明らかにしました.これは,分子結晶が必要な医薬品や材料の開発に大いに役立ちます.

 

上記SPTもPIDも,ランダムなBrown運動を読み解くことが重要となる手法です.ランダムな状態から秩序が生まれる「相変化」は物理学の普遍的に重要な問題として昔から認識されています.また,昔から流体工学分野ではParticle Tracking Velocimetry(PTV)とParticle Image Velocimetry(PIV)という,流れの「速度」場を評価する技術が高度に洗練されてきました.ただし,流速が追究の対象である一方で,Brown運動は速度場評価の邪魔になる存在として忌避されてきました.しかし,滑らかな流れとランダムなBrown運動が共存する現象において片方「だけ」に注目しても,上述のような発見や開発は有り得ません.科学技術の数100年の歴史を機械工学の視点から踏まえ,10年以上も先駆的に世に問いかけてきた統計力学・力学系を活かすコンセプト自体は,短期的流行の派手さは無いかもしれません.しかし,それはまた,単純な競争とは対極にあるブルーオーシャンのように豊かなものです.だからこそ,これからも実験・開発の具体的な場面で潜在的なニーズとつながって,重要な科学的発見やイノベーションに役立つ成果が次第に増えてゆくことでしょう.

 



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