科学と技術をつなぐ切り口

Bridging Science and Technology

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VisionOfHanasakiLab

せっかく継続的に労力をかけて取り組むことなら,世界中で評価されて一生の宝物になるような学術雑誌論文として出版したいですよね.当研究室では,基礎から応用までの広大な科学技術の領域で,科学と技術がつながる絶妙な文脈を世界で先んじて見出して研究を展開しています.その結果として,当研究室の学生達が主体的に貢献して得た成果を,世界中で注目される一流の学術雑誌から出版しています.しかも,それらの一流雑誌の中でさらに,「Editor's Choice Collection」や「Influential Papers」,そして「Most Popular Articles so far」などに選ばれる快挙となっています.世界の第一線で評価される考え抜いたテーマ群を擁することに,研究室のリーダーとして花崎は高い誇りを持っています.緻密に全力で整えている活躍の舞台に,博士課程に進学する人のことも大歓迎で待っています.

 

応用技術の側面は別のページで説明していますので,ここでは基礎科学の側面についてさらに説明します.プリンティッド・エレクトロニクスで用いる導電性インクでは,流体中に激しくBrown運動する導電性のナノ粒子が多数漂っています.また,フレキシブル・デバイスの基板にも有望なナノペーパーの素になるCNF分散水では,水中にセルロースのナノファイバー(Cellulose Nanofiber; CNF)がBrown運動しながら漂っています.いずれも,乾燥過程でBrown運動と共に流動を示す粒子やフィラメントの集団を固体の材料構造にする力学現象を操る必要があります.“テトリス”のように1個1個を人間が逐次的に操ることは,産業応用上の効率面で非合理的です.そこで,自己組織化・集合化の物理を活かすべく的確な力学条件を課すことにより材料構造を実現してゆきます.

 

 ここで重要になるのは,集団の挙動やBrown運動です.断片だけを見ても全体がわからないのに全体を見れば必然的であることの魅力は,19世紀の印象派絵画のようでもあります.基礎学問としては,要素が集まって全体がいかにして出来上がるのかを取り扱うのが「統計力学」です.Brown運動は,周囲環境である流体分子群のカオス的な運動によって生じるランダムな運動ですが,これもまた,昔から統計力学の重要な話題です.統計力学については別のページで補足していますので,ここではBrown運動についてもう少し科学史的に補足しましょう.端的には,Brown運動はかつて流体が分子から成ることを20世紀初めにEinsteinが理論的に説明するために用いた現象であり,その後数年の短期間のうちにPerrinが的確な実験計測で分子の存在を証明して1926年のノーベル賞に輝きました.

 

 今では当然の事実である物質が原子や分子から成るという事実を示すカギとなったBrown運動ですが,その後最近になって再び,関連した話題が2018年のノーベル物理学賞に現れました.光ピンセット技術が主題ですが,生体分子関連の力学的測定への応用が重要な理由になっています.生体分子はそれ自体がBrown運動していますが,光ピンセットで操作しながらBrown運動の影響を受けた応答を統計力学的に解析すると熱力学の自由エネルギー差を評価できるのです.このように,Brown運動や統計力学は地味ながら実は最近のノーベル物理学賞でも根底を支える基礎科学の頼りになる担い手でもあります.花崎は2018年より前から着手している光学の専門家との共同研究を通じて,粒子捕捉の力学に関する基礎理論の拡張や,結晶作製への応用に役立つ顕微鏡動画データ解析の成果を挙げています.

 

 次世代型ウェアラブルデバイスと,Brown運動や光ピンセット技術との間には,応用や結果だけを見ると何の関わりも見えません.しかし,モノを限定しないコトの力学である統計力学の視点からは,そこに共通する重要ポイントが見えます.結果だけに注目していると膨大な試行錯誤によるレシピの塊となり,メカニズムが未解明ではレシピの応用も利きません.これに対して,力学のプロである機械工学では,力学的な設計でモノ作りを実現します.当研究室では,分子レベルと目に見える構造をつなぐ力学を追究していますので,研究に取り組むうちに色あせず応用の利く基礎が身に付きます.学術雑誌論文に結実した個々の研究成果の一覧を御覧戴ければ,色々な応用が利くことの一端がお分かり戴けると思います.

 



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