はじめに

最先端の固体NMR構造解析技術と新しい高機能化絹の
設計・生産・再生医療材料への応用

工学府・工学部 名誉教授 朝倉哲郎



  クモを含む多くの絹の構造を最先端の構造解析手法である固体NMRを用いて徹底的に解析しています。解析手法や測定装置自身も開発します。

  続いて、その構造解析の成果をもとにして、再生医療に適した機能を有する絹を分子設計、大腸菌培養またはトランスジェニック蚕を用いて大規模に生産しています。そして、最終的に、この高機能化絹を骨・歯、眼角膜、血管、皮膚用の各目的に合わせた形状に作成、In vitroの細胞培養と臨床医の先生方と連携したIn vivoの動物実験を繰り返すことによって、優れた再生医療材料を実際に開発しています。

 すなわち、高齢化社会を迎え、優れた再生医療材料の開発は急務な課題です。それを、長年にわたって外科手術用の縫合糸として使われてき絹自身を用いて、あるいは、それをさらに再生医療に適したように絹の一次構造を変えて、再生医療材料の開発を成し遂げようとしています。

 絹の構造はどのように変えたら良いでしょう。そのために、固体NMRを用いて徹底的に構造を解析しようと言うわけです。

 続いて、NMR精密構造解析から得られた多くの絹に関する構造の知見を直接、実際の再生医療材料の開発に結びつけることが必要なのですが、

 それを成し遂げることは予算の制約もあり容易ではありませんでした。

 しかしながら、朝倉研究室は、幸いにも25年前、生研機構の大型基礎研究推進事業に提案プロジェクト『絹タンパク質の構造ー物性相関の徹底解明とバイオセンシングシステム等への応用』が採用され、5年間にわたって、十分な研究費のサポートを得、一気に、NMR先端構造解析から再生医療材料の開発までの一貫した研究を、すべて研究室内で行うことができるようになりました。

 現在、『NMR(核磁気共鳴)』と『Silk(絹)』をキーワードとし、高機能化絹を用いた再生医療材料を開発すべく、挑戦し続けています。

【学歴・職歴】
1977年 東京工業大学 博士課程修了(工学博士)
1980年 日本大学 松戸歯学部 理工学教室 助手
1981年 東京農工大学 工学部 助教授
1990年 フロリダ州立大学 化学科 招聘教授 
1993年 東京農工大学 工学部 教授
2015年 東京農工大学 名誉教授・特任教授

【専門分野】
高分子のNMR構造解析 絹の基礎と応用

【受賞歴】
1982年 高分子若手奨励賞
1986年 蚕糸学会 進歩賞  
1989年 繊維学会 桜田武賞 
1997年 繊維学会賞
2000年 高分子学会賞  
2009年 東京農工大学 第一回工学府ベストリサーチャー賞
2014年 プラスチック成型加工学会 論文賞
2015年 高分子学会 功績賞
2015年 繊維学会 功績賞
2015年 日本核磁気共鳴学会 特別講演者
2019年 繊維学会 名誉会員
【その他】
前 日本核磁気共鳴学会会長、元 東京農工大学科学博物館館長、
現 高分子学会 フェローアカデミア 等
生研機構基礎研究推進事業、生研センターイノベーション創出基礎的研究推進事業、
農水省アグリバイオ実用化・産業化研究、JST先端計測分析技術・機器開発事業、
農水省アグリヘルスプロジェクト・科学研費基盤研究S等、大型プロジェクト研究代表者

【現在継続中のプロジェクト】 
●科学研究費 (基盤研究 C 19K05609 平成31-33年度) 代表
「自己再生型の高強度動脈用および高弾性静脈用小口径絹人工血管の開発」
●共同研究 Spiber(2019年)
「リコンビナントクモ糸の構造とダイナミクスに関するNMR解析」
●受託研究 東ソー(2019年)
「人工血管用材料に適合する生分解性ウレタンの検討」