体験工房2018:体験テーマ9

9. 放射線を知る、α線を観る:環境放射線の観察、霧箱の作製

 福島原発事故以来、環境放射線の問題に関心が高まっています。空気中にある放射性核種を集めて測定します。
また、霧箱を作って放射線の飛跡を見てみましょう。放射線は五感に感じませんが、皆さんの周りに存在することを確認します。

 

 

 

エタノール/ドライアイスを用いた拡散型霧箱 (花びらのように見えるのはα線源のマントル)

 


9-1. 環境放射線の観察:ガイガーカウンターによる観察

放射線とは何か。
放射能をもつ物質からα線、β線、γ線のほかにも原子炉から発生する中性子線、空から降り注ぐ宇宙線などいくつも挙げられる。しかし、これらの放射線は目に見えず五感で感じることができないので、私たちの生活とは無縁と思われるかも知れない。
このテーマではガイガーミューラー計数管(GM計数管)などの放射線検出器を使用して以下の測定を行い、放射能の性質を知るとともに、私たちは自然放射能に囲まれていることを実感したい。
1.市販のガイガーカウンター(Cs標準)
2.放射能防護の3原則
 1)距離をとる:線源と測定器の距離と放射能の関係
 2)遮蔽物をおく:線源と測定器の間に遮蔽物をおいたときの放射能
 3)時間を短くする:被爆時間を少なくする。
3.距離と放射能の関係を測る。
  マントル線源とガイガーカウンタの距離を変えて放射能を測る。マントル線源には、トリウム系列の放射性物質が含まれている。
  マントルは、α線、β線、γ線を出す。それを確認し、線源よりどれぐらい離れたところで、どれぐらいのシーベルトか測る。そこから、マントル線源の放射能がどの程度か、推測する。
4.放射線防護と遮蔽物
  マントル線源とガイガーカウンタの間に、プラスチック製の下敷きを入れ、何枚入れたときに、どのくらいの放射能(シーベルト)になるか測る。
5.カリウム
  身近な放射線源を知るために、塩化カリウムの中に含まれるK40の放射能を測る。
6.環境放射線
  空中の塵を集めて、放射能を測ってみる。

9-2. 霧箱をつくってアルファ線を見る:霧箱による放射線の観察

 1911年イギリスのウィルソンは霧箱を使って放射線の軌跡を写真に撮った。
霧箱は清浄な空気または他の気体中に水蒸気あるいは他の適当な溶媒蒸気の過飽和状態を作り、放射線の通路に生成される正および負のイオンを核に凝結する霧滴の連なりから、放射線の飛跡を観測する装置である。
霧箱が当時の原子物理学の発展に果たした役割は多大で、発明者ウィルソン(C.T.R.Wilson) は1927年ノーベル物理学賞を受賞している。霧箱を使ってノーベル賞を取った人は、コンプトン、アンダーソン、ブラケットなど数多い。
 この体験テーマではウィルソンの霧箱そのものではなく、アルコールとドライアイスを用いた拡散型簡易霧箱を作製する。霧箱は、放射線の飛跡を直接目で見ることができるので、放射線の存在をはっきりと認識できる。また、α線、β線では磁石を近づけると軌跡が曲がるのを見て取れ、放射線が電荷をもっているのを確かめられる。


(付) 原子構造の解明(霧箱とその時代)
1. 原子核の発見 ラザフォード散乱 金属薄膜にα線を当てると、大きな散乱角で後方散乱してくる頻度が予測値より高いことを発見。
原子の中心には殆どの質量が集中した非常に小さな核が存在する,との有核原子模型説を唱え、原子核の発見に至った。(1911年)
2. 陽子と中性子 図 エタノール/ドライアイスを用いたベリリウムに陽子を当て、出てくる中性子線を発見した。
ここから、 拡散型霧箱(花びらのように見える原子核が陽子と中性子でできていることがわかった。(1932年)
3. α線(ヘリウム原子核) ラザフォードはα線がヘリウムイオンであることを発見した。(1908年)
4. β線(電子) ウランなどの自然放射性元素からα線と共に見出されていたが、α線より電離作用等が弱く透過力の強い性質を持つことから、β線と名付けられた。磁場をかけると軌跡が曲がることから、β線は電子線であることが判明した。
5. 見えないニュートリノパウリが、β崩壊の電子線のエネルギー分布が連続になることから、質量のない、電荷を持たない粒子の存在を仮定して説明した。
6. 重い原子 鉄より重い原子は、超新星爆発の時に生成される。原子核の質量が大きく、不安定となり、α崩壊、β崩壊を繰り返し、最終的に鉛になる。
7. 霧箱の時代は原子物理学の黎明期であり、研究者の奮闘を感じさせる。