10. 超伝導を測る:巨視的に現れた量子現象
超伝導は、低温で電気抵抗がゼロになる現象です。これを利用して非常に強い電磁石をつくることができます。その電磁石は、磁気浮上列車(いわゆるリニアモーターカー)に利用されることが決まっています。このテーマでは、実験を通して超伝導現象を体感し、この特異な物理現象について学んでいただきます。
超伝導には、(1)電気抵抗が0になる完全伝導性、(2)マイスナー効果(完全反磁性ともよびます)、(3)磁束の量子化、(4)ジョセフソン効果という4つの基本的性質がありますが、このテーマで参加者の皆さんに体験していただくのは、(1)と(2)です。
体験内容を少し具体的に言いますと、高温超伝導体の典型であるイットリウム系超伝導体YBa2Cu3O7--x(略称YBCO123相、Tc~90K)に、微小電気抵抗測定用の電極を付け、反磁性を検出するためのコイルを巻きます。これを、液体窒素温度まで徐冷しながら電気抵抗とコイルのインダクタンスの同時測定を行います。図1に示すように、超伝導体はコイルが作る弱い磁場を自分自身の外側に押し出すので、超伝導が実現する温度(転移温度TC)において、電気抵抗が0になると同時に、コイルがコイルでなくなるようすが計測できます。磁気浮上のようすも観察(図2)し、超伝導現象の一端を体感していただきます。
図1:超伝導体の性質
図2:磁石上に浮上する円板状超伝導体
参考までに超伝導のしくみについてほんの少しだけ説明します。1911年、オランダのカマリン・オンネスによって発見された超伝導は、その特異な性質ゆえ解明が難航し、1957年のBCS理論によってようやく発現機構が説明されました。そのエッセンスは、図3に示すとおりです。自由電子の海の中に金属イオンが存在する場合、電子間のクーロン反発力は、多数の電子の素早い動きによって互いに遮蔽され、近距離以外ほとんど働きません。そのような状況では、金属イオンに1つの電子がやってくると、金属イオンは電子に引き寄せられてほんの少し動きます。この後、電子は軽いためすぐに飛び去ってしまいますが、イオンは重いため復元に少し時間がかかります。このとき、たまたま近くを通りかかった別の電子には、ほんの少し正に帯電した領域があるように見え、そちらに引き寄せられことになります。その結果、最初にやってきた電子と、次にやってきた電子の間に引力が働き、空間的広がりをもつ電子対(提唱者の名を付けてクーパー対とよびます)が形成されることになります。電子はフェルミ粒子であるため同じ量子状態に一つしか存在できないのですが、対を作った電子はボーズ粒子となり、同じ量子状態に複数存在してもよい状態となります。さらにある温度(転移温度といいます)以下になると、ボーズ粒子がすべて同一量子状態をとるボーズ-アインシュタイン凝縮が起きます。対をなす電子の波の位相がそろうと、全体が1つの大きな波のようになるため、格子の熱振動や不純物などによって電子の運動は妨げられなくなり、超伝導状態が発現するという説明です。詳しくは当日!
図3:格子歪みによる電子間引力