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赤井研では赤外分光法や質量分析法などを使って,環境中での化学物質の反応過程を研究しています。
研究に用いている装置は こちら

大気微量成分の光反応

SOxやNOx,O3といった大気微量成分がDMS(海洋由来で硫酸エアロゾルを形成)などと分子錯体を形成することで はじめて進行するようになる可視光反応過程をマトリックス単離法を用いて研究しています。
オゾンの可視光領域の吸収は通常の紫外可視スペクトルでは測定できないほど非常に弱いことが知られていますが,DMSと分子錯体を 形成することで可視領域に強い吸収バンドが現れることを見つけました。
さらに,エネルギーの小さい赤色光の照射によってもDMSOへの酸化反応が進行することがわかりました。
1) D. Wakamatsu et al. "Red-light-induced Photoreaction of DMS–O3 Complex in a Cryogenic Neon Matrix" Chem. Lett. 41, 252-253 (2012).

オゾン-DMS錯体

このような,オゾン-分子錯体の可視光誘起反応の反応メカニズムは未だわかっていないことから,様々なオゾン-分子錯体の光反応を研究しています。
オゾン錯体の光反応機構は理論計算がちょっと難しいことからまだまだ未解明な部分が多く残されていますが、過去に報告のない様々なオキシド化合物ができる傾向があることがわかってきました。

2) K. Kamata et al. "Red-light induced photoreaction of ozone-dimethylamine complex; matrix-isolation infrared spectra of dimethylamine-N-oxide and N,N-dimethylhydroxylamine” Chem. Phys. Lett. 707, 49–53 (2018).
3) K. Kamata et al. "Visible-light-Induced Reaction of an Ozone-Trimethylamine Complex Studied by Matrix-Isolation IR and Visible Absorption Spectroscopies” J. Phys. Chem. A, 124, 9973-9979 (2020).
4) A. Kon et al."Photoreactions of ozone-tetrahydrothiophene, ozone-pyrrolidine, and ozone-thiazolidine complexes studied using matrix-isolation IR and visible absorption spectroscopies" J. Phys. Chem. A, 125, 2114-2120 (2021).

また、マトリックス単離赤外分光法と量子化学計算を用いて,未だ観測されたことのない分子やラジカルなどの生成・同定や反応機構解明にチャレンジしています。
これまでにHOOClやHOOBrといった大気化学反応中間体の分光測定に成功しました。

5) T. Yoshinobu et al."Neon matrix-isolation infrared spectrum of measured upon VUV-light irradiation of an HCl/O2 mixture" Chem. Phys. Lett. 477, 70-74(2009).
6)N. Akai et al.“"Matrix-isolation infrared spectra of HOOBr and HOBrO produced upon VUV light irradiation of HBr/O2/Ne system" Chem. Phys. Lett. 499, 117-120 (2010).

 

未知の分子や反応中間体を探索

マトリックス単離赤外分光法を用いて、これまでに知られていない分子やラジカル類の検出・同定を試みています。
理論的には存在してもいいはずなんだけど、未だ実験的に検出できていない分子のスペクトルを測定したり、 他の実験方法では捉えられない反応中間体などを検出して光反応機構を明らかにしようとしています。
未知の分子種であってもマトリックス単離赤外スペクトルと量子化学計算による解析で分子同定が可能です。

最近の研究では8-アミノ-1-ナフチルナイトレンが可逆的に光異性化反応を示すことを見つけました。
1) T. Okamura, et al. "Reversible Photoisomerization among Triplet Amino Naphthylnitrene, Triplet Diimine Biradical, and Indazole: Matrix-Isolation IR Spectra of 8-Amino-1-naphthylnitrene, 1,8-Naphthalenediimine, and 1,2-Dihydrobenz[c,d]indazole, Journal of Physcical Chemistry A, 121, 1633-1637 (2017).

ナフチルナイトレンの光異性化
分子によっては最低電子励起三重項(T1)状態のスペクトル測定ができることもあります。
(T1)状態のスペクトルも量子化学計算で再現できるため、分子同定が可能になります。
2) T. Kumakura et al. J. Mol. Struct, 1172, 89-93 (2018)
3) T. Kumakura et al. Chem. Phys. Lett. 714, 160-165 (2019)

固体高分子などの熱分解機構

固体を加熱して発生した分解物ガスを分析することで、熱分解初期の反応機構を解明しようとしています。
真空中で固体試料を熱分解させて、発生した試料をマトリックス単離赤外分光法やGC-MSで分析することで、 耐熱性ポリマーやエラストマーの分子鎖のうちどういった部分から熱分解が起きるのかを突き止めようとしています。

1) M. Minatoyama, N. Akai, E. Yamada, T. Noguchi, H. Ishii, C. Satoh, T. Hironiwa, K. R. Millington, N. Nakata, “ Degradation mechanism of γ-irradiated polytetrafluoroethylene (PTFE) powder by low-temperature matrix-isolation infrared spectroscopy and chemiluminescence spectroscopy” Polymer J. 48, 697-702 (2016).

凍結水溶液・エアロゾル中での光反応

~10μm程度の液滴は環境条件によって簡単に水分子の蒸発による濃縮がおきたり,凍結によって不均一な氷となることが予想され, 通常の固体や水溶液中と異なる化学反応が進行すると考えられます。そこで,顕微ラマン分光法を用いた微小液滴での化学反応を 研究したいと思っていますが,直接測定は現状では難しいので,GC-MSとGC-IRを用いた分析を行っています。

GC-MSで分子組成を決定し、GC-IRで測定したIRスペクトルを量子化学計算を用いて解析することで、標準試料を準備できない未知試料でも定性分析が可能になります。