私たちは、微生物群集の代謝を化学反応とエネルギー変換の体系として捉え、
熱力学の計算原理を応用して群集機能を理論的に記述する研究を行っています。
生物が行う反応は自由エネルギー変化(ΔG)に支配されており、
その反応の進行可能性を定量的に評価することで、
「どの反応がどの環境で発現しやすいか」を予測できます。
この枠組みを拡張し、群集レベルでの機能発現や構造安定性を
生態熱力学の理論として体系化することを目指しています。
メタゲノム解析や環境データから得られる情報を熱力学的理論と結びつけることで、
実環境で発現している代謝機能を数理的に推定します。
統計的因果推論やネットワーク解析を組み合わせ、
反応ネットワークの構造と微生物群集の機能発現を対応づける新しい解析手法を開発しています。
理論とデータを双方向に行き来させることで、複雑な生態系に潜む
物質循環や反応選択性のメカニズムを明らかにします。
生態系のエネルギー変換過程を理論的に理解することは、
生命システムがもつ普遍的な制約や進化の方向性を明らかにする手がかりとなります。
本研究室では、熱力学・情報科学・地球化学・微生物生態学を統合する
新しい「生態熱力学」の確立を目指し、微生物群集から生態系全体まで
一貫して説明できる理論基盤を構築しています。