その後のヘリウム事情について
2022年雑文を一行も書かなかった反省を込めて、年初に心機一転ということを決意だけはした。今年は年男、厄年ということもあるが、あまり細かいことは気にせず、2021年までのメンタルに戻すよう努力しようと思ったのだろう。ただ、正月に、禁煙とか、日記とか、ダイエットとかを始めるのと同じできっとこういったモチベーションでは長続きしないだろうということで、決意の実行が、10か月遅れということになってしまった(もちろん言い訳です)。作家の綿矢りささんがインタビューか何かで「周辺(私生活)に懸案事項があると、小説は書けない」といった趣旨のことを話されていて、神経を最高レベルまで集中させて繊細で緻密な文章を産み出していく作業と、私の雑文とではレベルが違うので比較すること自体失礼だが、「(雑文を書くため)気分の切り替えがうまくできない時間」をほぼ丸2年を過ごしたということで個人的には総括している。このようなことを書くと「暗黒の時間」を過ごしたように思われるかもしれないが、そういうことではなく「雑文を書くことに、なぜか思考がいかない、楽しく感じない」と思い続けていたようだ。コロナも終息に向かいいろんなことが再開し、研究室の生活が少しずつ元に戻っていくプロセスを感じることは、気分的に楽しかったし、公私ともに気持ちはずっと前向きだったように思う(むしろ暗黒とは正反対だった部分もある)。
ほぼ2年というは体感としては短いが、それぞれの出来事を振り返ると印象的なことがたくさんあった。2022、2023年の世界の情勢変化、コロナ禍の継続から終息、我が巨人軍の2年連続の不振(阿部新監督誕生)、すでに死語かもしれないが「ブラボー」なサッカーW杯カタール大会、鎌倉殿から徳川殿へのバトンタッチ、ヘキサン等の薬品、生協のラーメン類等日用品の値上げ、そして学会の将来像への対応など例年以上の高密度で激動な2年だったように思う。そんな中で、研究室HPからの公表ということを鑑み、諸々の事情を内在したバランスの取れたトピックスとして「その後のヘリウム事情」をまずは取り上げることにした。つい先日、本学のBASE本館にある300
MHzの装置に対してヘリウム回収システム(風船)が稼働したこともきっかけである(写真1)。
ヘリウムの値上げについては以前も書いたが(ココ)、今回はレベルが違っている。図1は財務省貿易統計の資料を使って作成した輸入価格(〇)と本学のNMRのために購入している液体ヘリウムの価格(■)の推移である(ともに単位は円/kg)。前回2019年2月に書いたときの、値上げの動きは今回の長期にわたり高騰の序章に過ぎなかったことがわかる。2021年11月に前回の「涅槃寂静」の記事を書いたとき(8000円/kg)と比べても、2年足らずで倍近くになり高値が安定しているように見える(20年で8倍程度・・)。
図1 ヘリウムの輸入価格と本学NMRでの購入額の推移(〇:輸入価格、■:農工大の購入価格)
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ヘリウムを完全に輸入に頼る日本もそうだが、世界的に見ても米国とカタールが主たる供給源であり、今回の高値には、1)供給元プラントにおける相次ぐトラブル、2)米国のシェールガスへのシフト(シェールガス中のヘリウムは痕跡である)、3)コロナによる世界的な物流網の大混乱(コンテナ輸送費の高騰)、に加えて、4)中国をはじめとする新興国における需要の増大や5)米国のBLM
(Bureau of land management)が管理してきた備蓄ヘリウムがなくなったこと(2018年)等の構造的な要因があり、深刻化と長期化の様相を呈している。そのため、事故などで立ち上げが遅れているロシアのヘリウム供給源の稼働が期待されているが、これも昨今の経済制裁等の国際情勢下では厳しい状況である(海運輸送の混乱は改善しているようである)。
貿易統計によると2017年には米国が75%だったが、2022年にはカタール54%で米国が41%となっていることからも上記の事情が読み取れる(図2)。全体として輸入量は減っていて(資源保全の立場からよいことだが)、輸出国から見ると、「お得意様感」はなくなってることが推察され、いわゆる「買い負け」の状況の一因ともなっている(上客が高値でも買っている)。
図2 日本のヘリウムの国別輸入量と総量(図1と同じく、財務省貿易統計の資料を使って作成
図3は日本産業・医療ガス協会のHPに掲載の統計データから作成した、2022年のヘリウムの購入用途の割合を示している。液体ヘリウムで見ると、MRI(NMRを含む)が他を圧倒している(ガスは半導体や光ファイバーなどで多く使われる)。OECD
Data, Magnetic resonance imaging (MRI) unitsによると、2019年でOECD加盟国のうちMRIの人口100万人あたりの台数は55.21台でトップ、2位の米国(40.44台)、3位のドイツ(34.71台)を大きく引き離している。NMRはMRIの中に括られていて図3からはわからない。大学等における研究での購入は「低温工学」のところに括られるが割合は一見小さく見える。低温工学の研究者の間では「ヘリウムの一滴は血の一滴」と言われている通りで、回収リサイクルシステムが多くの大学で進んでるためであり、実際の使用量はずっと多くなると思われる。
さて本学の場合、「低温センター」のような設備がなく、学内で回収・リサイクルすることはできない。旧物理システムの先生方は使用したヘリウムを回収し、電通大で液化してもらうというシステムを作り上げていたが、残念ながらこれまでNMR関係は使いっぱなしで、蒸発して無くなった分を購入し補充していた(この作業が1987年以来、休むことなく続けている私のお仕事・・)。昨今の状況では、経済面でもさることながら、限りある資源の有効利用という観点から、分析センターの野口先生の尽力により回収システムが設計され、動き始めた(配管の設置と圧縮システムの更新も含む)。分析センターからは4号館の裏の設備(圧縮してボンベに詰める)まで、配管でヘリウムガスを移動させる。一方、BASE1階にある300
MHzの装置では、バルーンを使って5号館まで運搬することになっている(図4参照)。日記にも書いた通り、研究室の学生諸氏にお手伝いいただいて、試行が無事終わった(ココとココ)。
さて、私も定年まで5年余りとなってきたが、BASEの300
MHzの装置の更新が最後のミッションとして考えていて、野口先生に協力いただき予算申請等のアクションは続けている。そもそも5号館耐震工事のとき、BASEに引っ越した装置なので、更新ということになったらこれは無くなります(ヘリウムバルーンによる移動もなくなる)。あとは後継者(ボランティア)探しですが、これが一番難しかったりします。
おまけ1
ヘリウム液化の難しさについて、纏めましたので学生諸氏はよくご覧ください(pdfです)。
おまけ2
問1 次の計算をしなさい。
1) 12345679 ×9
2) 12345679×81
(ヒント:9を掛けるということは10倍して・・)
問2 3桁の回文数のうち、11で割り切れる最小と最大のものを求めなさい。
解答)
問1 1)12345679
×9=12,345,679 ×(10-1)= 123,456,790-12,345,679=111,111,111
(答)
2) 12345679×81=12345679 × 9×
9=999,999,999
三桁の回文数をN=aba とおくとN=101a+10bとかける(3桁のなので、1≤a
N=(99+2)a+(11-1)b=11(9a+b)+2a-bと変形できるので、Nが11の倍数のとき、2a-bが11のの倍数のときである。
2a-b=11k kは整数だが、-9
k=0のとき
(a,b)=(1,2), (2,4), (3,6), (4, 8)
k=1のとき
(a,b)=(6,1), (7,3), (8,5), (9,7)
∴最小値 121, 最大値 979 (答)
どんな整数でも、奇数桁の数字の合計から偶数桁の数字の合計を引き算して、その答えが11の倍数になれば、その数字は11の倍数です。