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ポリビニルアルコールについて②-偏光フィルムを用いた実験①-  (最後の式が間違っていました。ルートの中のsinは2乗がつきます@2021/9/4
 「梅雨明け十日」とはうまくいったもので、猛暑の中、本学での恒例の中学生向けの実験教室も終わり、化学だいすきクラブ系のイベントも一段落である。2017年からこの時期にポリビニルアルコール(PVA)を題材に実施していて、去年終わったときに「来年は新作で・・」なんて考えていたが、案の状今年もほぼ同じ内容での実施となった。以前の記事に書いた通り、PVAは化学的にも物理的にもとても教育的であり、高分子微粒子合成における分散剤として不可欠な高分子でもあり、自分にとって2番目に好きな高分子である。この高分子を使っての実験であるが、大体の実験内容は下記の通りである。

1.高分子鎖の1,2-グリコール単位の過ヨウ素酸による選択的酸化分解(詳細はココ参照)
2.水溶液(洗濯糊)をホウ酸ナトリウムで橋架けして、スーパーボールの作製。粘弾性の実体験。
3.PVAをベースにした偏光フィルム(ヨウ素の記事:ココを参照)を使ってのさまざまな実験と解説(偏光フィルムを洗濯糊から作製するということになれば、なかなか説得力のある実験になるが、フィルム作製、延伸、ヨウ素の吸着は、限られた時間では難しく、残念ながら市販品@東急ハンズを使ってもらっている)。

①二枚の偏光フィルムを重ねて、角度を変えてみる
②二枚重ねで、最も暗くなったとき三枚目の偏光板を45°で挿入してみる
③回りの風景を偏光板越しに眺め、回転させる
④液晶ディスプレイを偏光板越しに眺め、回転させる
⑤ポリエチレンフィルム(スーパーの水物用の袋、農工大生協のお弁当用袋など)(短冊形2x5cmぐらい)を用意して、二枚の直交した偏光板の間に短冊を入れる(45°で)。引っ張った短冊を挟み込み観察。偏光板を回転してみる。

   
⑥用意してある下の台紙にセロテープを張る(数字は重ね併せの枚数を表す)。二枚の直交した偏光板の間に短冊を入れる(45°で)。回転させて色の変化を見る。

   

 さて今日の雑文だが、この3の実験の①~③について追加の説明をしたいと思う。
 まず、光だが進行方向(z方向)に対して電場と磁場が垂直に振動する横波である。電場と磁場の振動する面を青と緑でそれぞれ示すと、電場の面から磁場の面に右ネジ(普通のネジ)を回すとネジの進む方向が光の進行方向となる。

  

 自然光(太陽とか室内灯とか)の例えば電場の振動面はいろんな方向を向いているが、偏光板(下図、延伸して分子鎖が配向したPVAにヨウ素化合物が吸着、配向したもの)を通ると、棒状のヨウ素化合物の方向の光を吸収し、図では青色で示した光(ヨウ素化合物に対して垂直の電場成分)のみが、通過してくる。十分な厚みがあれば、透過光は直線偏光となる。

  

  

①で一枚目と二枚目のそれぞれの偏光軸(透過する方向)をx軸として、それらのなす角度をθとすると、一枚目を透過してくる光の電場ベクトルの大きさをE0とすると二枚目を透過するのはE0cosθとなり、光の強度は、電場の大きさの二乗に比例するので、最初の強度をI0とすると、I=I0cos2θとなる。
②では三枚目は一枚目と直交しているので、透過光強度はI=I0cos2θsin2θとなる。45°で2枚目を挿入するとI=0.25I0となる。

   





   

③では、光の屈折・反射と偏光の関係を知る必要がある。
 平滑な界面(空気から水とかの屈折率が異なる媒体同志が形成する)に光が入射した場合、一部は透過光となり残りは反射光となる(下図)。入射光と反射光が作る面を入射面というが、電場がこの面内を振動する偏光をp偏光、面に対して垂直に振動する偏光をs偏光と呼ぶ。界面に対する垂線を引き、垂線と入射光、反射光の成す角度をそれぞれ入射角と反射角とすると、反射の法則から入射角と反射角は等しい( φir)

   

媒質2の屈折率が媒質1と違うとき、透過光の進む方向の角度は入射角と等しくならない(水や一般的なガラスのような等方的な媒体の場合、屈折光も入射面内にある)。φtを屈折角といい、下記のスネルの法則に従う。

    

この状況の中で、偏光フィルムを回転させながら、室内外の風景を眺めると、偏光フィルムを90°回転すると反射光の強度が変わることがわかる(金属のように反射率が高すぎるものは除く)。入射光強度をIi反射光強度をIRとすると、反射率はR=IR/Iiで定義される。反射係数rは、入射光電場と反射光電場の比とすると、先と同様に光の強度は、電場の大きさの二乗に比例するので、反射率R=r2となる。反射率は偏光の種類で変わり、

 

となる。ただし、n=n2/n1とする。空気→水への入射を想定して、反射率をプロットすると下記のようになり、いずれの入射角でもs偏光の反射率がp偏光のそれを上回ることになる。上の反射係数の式のフレネルにより導出されたが、やや面倒なので別な機会に・・・。

    


 簡単な実験だけど、いろんな知識を学ぶことができるという点で、なかなかいい実験だなと自画自賛しているわけで・・・。これに取って代わる実験(新ネタ)の開発はなかなか難しいかなとも思っています。いろいろと勉強してみますが。


おまけ2 屈折率を並べた図です。

  

おまけ2(久々に化学の問題です。国際周期表年のイベントのクイズ大会で出題された問題です)
問1 現在、元素記号に使われていないアルファベットが2つあります。何と何でしょう?
問2 うがい薬にも使われ、千葉県が世界第2位の産地である物質は何でしょう?この物質を元素記号で答えなさい。
問3 周期表には原子番号と原子量が記されています。周期表の中で元素は原子番号の順に並んでいます。原子量に関してもほぼ値が小さい順に並んでいますが、原子番号1から56の中で原子番号と原子量の並びが逆転しているところが3ヶ所あります。何と何のところが逆転しているか、元素記号で答えなさい。


解答
問1 JとQ 問2 I 問3 ArとK CoとNi TeとI

(2019.8.11)