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ヨウ素について

 先日、研究室旅行・忘年会で館山の合宿施設(Academy House Tateyama, 館山荘)に出かけたが(写真)、館山は房総半島の南端、下図のチーバくんのつま先あたりに位置している。石川の能登半島、静岡の伊豆半島、神奈川の三浦半島などと同じで、「半島の先のほう」は、さまざまな制約で人のアクセスを拒む自然があり、風光明媚なところが多い。館山は、「山があっても山梨県」出身者としては、能登の珠洲、伊豆の南伊豆、三浦の三崎とならんで個人的には、血が騒ぐ壺の名勝である。 

           
 

(図:千葉県公式サイトより)千葉県の公式マスコットキャラクターであり、その手のキャラクターはしばらく前に雨後の筍の如く日本全国で誕生したが、個人的には相当良くできたものだと感じています(舌が浦安とか、鼻が野田とか結構細かい配慮がされている)。

 もう大分前のことだが、必要以上の「東京中心主義」が蔓延ったことを反映し、東京と冠した施設が、千葉県にはいくつかある。東京ディズニーランド、東京ドイツ村等(新東京国際空港は成田国際空港に変わりました)。アメリカ人のような大きな国から来る人々は、距離感が日本人とは違うので、細かいことは気にしないようだが(横浜と東京、千葉も東京も区別できないようです)。・

 千葉と化学というと、浦安から富津(舌あたりからお腹の出っ張りあたりまで)にかけての東京湾岸あたりのコンビナートや製鐵所が有名であるが、茂原周辺(脇の下あたり)の天然ガス田もまた、ヨウ素の生産拠点として世界をリードしている(海宝龍夫、化学と教育、64(5), 234 (2016) やヨウ素学会のHPに 詳しい)。海宝氏の解説文によると、世界の生産量(2013年)の60%がチリ、28%が日本で、そのうち75%が千葉県で残りは、やはりガス田のある新潟、宮崎である。
 チリではチリ硝石にはNaIO3, Ca(IO3)2などのヨウ素酸塩が含まれ、そこから単離するが、千葉のガス田の場合、天然ガスとともに汲み上げられる古代海水と呼ばれる塩分の濃度の高い「かん水」に含まれるI-(NaIとして100-150 ppm、海水の2000倍)から生産される。代表的な製法として、ブリードアウト法があるが、塩素や次亜塩素酸ナトリウムで酸化し、I2を遊離させて気化したものを亜硫酸ガス水溶液で吸収するととも、還元する。この段階でヨウ素は濃縮されているので、もう一度酸化してあげると、ヨウ素が泥上物として沈殿してくる。これを融解(m.p. 113.5℃)させることで水を取り除く。
 
     

 小学校のときのヨウ素-でんぷん反応、ヨードチンキ(ヨウ素のアルコール溶液)から始まって、現在の研究室での活動や日々の生活に至るまで、結構お世話になっている「元素」ということもあり、好きな「元素」の一つである。

・芳香族のヨウ素化:昔Ullmann反応でC-Nカップリングをやっていたのでたまにヨウ化アリールを合成した。臭素や塩素のように単体ヨウ素でベンゼンのヨウ素化は難しいがヨウ素酸、過酸、硝酸などでI+を生じさせる工夫により進行する。また、アニリン誘導体→ジアゾニウム塩→ヨウ化アリールという手法もベンゼンのニトロ化、還元と組み合わせると汎用性がある。ヨウ化物は薗頭反応、Heck反応等のハロゲン側の基質としてのファーストチョイスになる。

    
・Grignard試薬を作るときの鼻薬:マグネシウムの表面を活性化する意味で、ヨウ素を一粒、マグネシウム上に置き、じっと待つ。
・TLCの発色:紫外線を吸収しない化合物の場合の発色剤である。通常、ヨウ素を入れた密封容器にTLC板を挿入するやり方だが、シリカで希釈して瓶に入れ、TLC板とシャカシャカすると発色が早い。
・うがい薬(ポビドンヨード:命名がかわいい):下記のポリ(N-ビニルピロリドン)とポリヨウ素の錯体で希釈するとヨウ素が遊離し、消毒作用を示す。通常私たちが利用している上質紙は、でんぷん(糊)成分を含んでいて、紙自体はセルロースであるにも関わらず、ヨウ素-でんぷん反応で呈色する。化学だいすきクラブでは、うがい薬を薄めたもので、紙に字とか絵をかいてもらい、ビタミンCを含んだお茶で字や絵をなぞると・・・。字や絵が消える、という実験を小学生にやってもらいます。

       

   図 PVPの構造(PVPは両親媒性のポリマーで水にもクロロホルムにも溶けます。スチレンの分散重合で安定剤として用いられます)

   
  
   図 アスコルビン酸(ビタミンC)によるヨウ素の還元

・偏光フィルム:ポリビニルアルコールフィルムを水で膨潤後、KI/I2溶液に浸し、ポリヨウ素(polyiodine, I4, I6, polyiodide, I3-, I5-, I7-, 例えばV. T. Calabrese、A. Khan, J. Phys. Chem. A, 104, 1287 (2016))を吸着、延伸後、ホウ酸処理をして作製するとされている。ポリヨウ素類はPVAのmicrofibrilの表面やmicrofiblilを連結している非晶部に存在すると言われており、Miyazakiらのよると、microfibrilを連結するポイントに存在し、延伸比が高い時、PVA分子鎖をより伸長させる効果があるとしている(Polymer, 46, 7436 (2005))
 いずれにしても異方性のあるポリヨウ素類が配向し、長軸方向に振動する光を(多く)吸収できるので(吸光度が大きくなる。吸光度は遷移双極子モーメントにより決まり、始状態と終状態の波動関数で規定される。3年生の演習でやります)、一軸方向に配向した偏光フィルムに自然光を透過させることで、直線偏光が得られることになる。偏光フィルムを使った実験を、だいすきクラブの中学生向けに実験教室で紹介しています。
      

 さて今日は千葉に出かけた話からの強引なストーリー展開だったが、実は農工大の館山荘は2019年の3月エンドで閉鎖となります。千葉も好きだし、館山も好きだし、館山荘も何回もでかけて、楽しかった想い出もたくさんあるので、個人的にはものすごく残念です・・・・。







(おまけ)
問1. nを2以上の自然数である。
(1) nが素数または4のとき、(n-1)!はnで割り切れないことを示せ。
(2) nが素数でなく4でもないとき、(n-1)!はnで割り切れることを示せ。

問2. 今年の冬至は12月22日(土)でした。小金井市の冬至の日の南中高度を求めなさい。
なお、小金井市の北緯は35.7°で、地軸の傾きは23.4°である。






解答例
問1.
(1) nが素数のとき、nより小さい約数はないので、(n-1)!/nは、約分できない。よって(n-1)!はnで割り切れない。
n=4のとき、3!/4=3/2で確かに割り切れない。

(2)①nが素数でないときnは2以上、nより小さい自然数p, qの積となる場合(p<qとする)、pqも2以上n-1以下になるので、1からn-1の間の数になる。したがって(n-1)!はnで割り切れる。
②同様にn=p2と書ける場合、pは3以上なので、2pも(n-1)!の約数となる(2pp2=nなので)。したがって(n-1)!はnで割り切れる(2<p<2p<n)。

問2.冬至&クリスマスのサービス問題です。
南中高度は図より90-35.7-23.4=30.9°(答え)

              
(2018.12.24)