不可能の証明
化学の世界で「〇〇はできません・・・」ということを証明することは、殊の外難しい。例えば、ある構造のモノマーはアニオン重合しない、という実験結果がでて、世界中の誰もが「重合したこと」を報告していなかったとしても、「お前のやり方が悪い・・・。こうすればうまくいくはずだ」という輩が必ずいるので、そんな人々を納得させることは、これもまた不可能ということだ。
数学の世界では「ギリシャの三大難問」【問題1(円積問題): あたえられた円と等しい面積を有する正方形を作る、問題2(立方体倍積問題)あたえられた立方体の体積の2倍の体積を有する立方体を作る、問題3:(角の三等分問題)任意にあたえられた角を 3 等分する、これらを 定規とコンパスを使ってという制限で作図せよというもの】に関して、いずれも不可能なことが証明されている(問2と問3については1837年に、フランス人数学者ピエール・ローラン・ヴァンツェル(Pierre Laurent Wantzel)によって解決され、問題1(円積問題)については、1882年にドイツ人数学者フェルディナント・フォン・リンデマン(Carl Louis Ferdinand von Lindemann)による)。
ギリシャの時代から19世紀ということで、解決には2000年以上かかったようで、いわゆる「できないことをいう」ということは、やっぱり大変だということです。
以前の拙文で正五角形を定規とコンパスでということを書いたが、五角形の場合は2次方程式の解を求めることに帰着した。作図により決められる点は1次方程式や2次方程式を解いて決められる点であることが必要らしく、問題1では有理数を係数とする方程式の解から求めることができない、問題2,3では3次方程式の解を求めることになるため、それぞれ作図ではできないそうです・・・。
それとは別件で高等学校のころ、読んだ不可能なことを証明するという話を少々(相変わらず古い話だなー)。
〇飛車の進路
6行6列の枠のついてXの位置に飛車を置く。飛車は将棋のルールに則って前後左右自由に動ける(斜めには進めない)。Xの飛車を36個の枠すべてを通らせて、Yの位置に移動することはできないことを証明せよ(ただし、それぞれの枠は1回しか通ることができない)。
という問題だが、36個の枠を市松模様に塗り、白とオレンジを0, 1とする(2値化という)。枠に順番をつけて、Xの最初の枠を1枠、次を2枠・・・・36枠と順にしていくと(飛車が進める順番に)、N枠目を考えると偶数番目でオレンジ(数値1に対応)、奇数番目は白(数値0対応)となる。どんな経路を辿ったとしてもY地点は36番目なので(同じ枠を通ってはいけないので)、偶数番目ということで1(オレンジ)でないといけないことになる。実際には0(白)であり、そのため36番目の枠としてY地点を選ぶことはできない(記号等の間違いを修正しました・・・)。
〇橋渡り
ケーニヒベルクの街(旧ドイツ東部、今はロシア・カリーニングラード)の街をプレーゲル川が流れ、下の概略図のように7つの橋が架かっている、同じ橋を一度渡って7つの橋全部を渡ることはできないことの証明せよ。
4つの地区を下記のような点で表し、橋を線で表す(線系という)。
どの橋も1度だけ通るということは、線系のどの線も1度だけ通ることになるので、この橋渡りは「一筆書き」と同じ問題となる。一筆書きに関してはWEBを叩けばいくらでも解説記事が出てくるが、折角なので私の高校時代の資料を活字に起こしてみると・・・。
一筆で書いた線系には必ず、「始点」と「終点」がある。それら以外の点(途中点)は、どれも入ってくる線と出ていく線があるので、途中点では集まる線は偶数本となる。
ここである点において集まる線の数が偶数、奇数の場合、それぞれ偶点、奇点という。前述の通り、途中点は必ず偶点となり、始点と終点が一致する場合は、その点も偶点となるが、一致しない場合は、始点と終点は奇点となる。
ゆえに「一筆書き」ができる線系では、奇点の数は0か2個になる。
問題のケーニヒベルグの街の問題では、奇点が4つあるので、一筆書きはできない(題意のような橋渡りは不可能)ということになる。
化学は「もの」を相手にしているので、できるできないは、対象となっている「もの」に彼らの「気持ち」を聞いて見ないとわからないという、元も子もない教訓です。
現実には、費用対効果、限られた時間を考えた場合、一般人は、特別な信念、思い入れがない限り、できないことをなんとかしいようとすることに拘泥はせず、頃合を見て、撤収、諦めますよね・・・。だからダメなんだといわれそうですが、まあ、しょうがないです。
(2018.11.25)