研究内容 Research

中田研究室では「グリーンケミストリーが拓く環境資源の革新」を掲げて、化学をベースとする新しい研究分野を創出することを目指しています。

Nakata Laboratory is aiming to create a new research field based on chemistry, with the idea of "innovation for environmental and resources research using green chemistry."


光触媒を用いた糖質バイオマスからの希少糖の生成

糖は食料として生物に必須であるだけでなく、最近では発電用途やバイオエタノール、ポリ乳酸の原料としても期待されており、その需要が格段に高まっています。本研究では、糖質系バイオマスを光触媒によって分解し、ブドウ糖や希少糖などの有用糖を作る研究を行っています。特に希少糖は、がん細胞の増殖抑制や抗炎症作用などの薬効が発見されており、新しい薬として期待されているだけでなく、最近では、エイジング効果をもつ化粧品としても使用されるようになりました。一方、当研究室では希少糖のリキソースやエリスロース(25グラムで約200万円)をブドウ糖や乳糖といった安い糖から合成したり、希少なオリゴ糖の合成にも成功しています。また、希少糖の中でも特に希少なL体の希少糖は極めて入手が困難です。当研究室では、Dーソルビトールという自然界にありふれたバイオマスから、L-グロースなどの特に入手困難な希少糖を作ることにも成功しています(ACS Sustain. Chem. Eng., 11, 9030-9035, 2023)。
宇宙の研究を通じて地球の環境資源を考える
宇宙の研究を通じて地球の環境資源を考える
糖質バイオマスの炭素-炭素結合開裂による希少糖生成と薬剤としての応用

高活性光触媒の合成

光触媒の合成法には様々な方法が知られていますが、当研究室では、エレクトロスプレー法や陽極酸化法などの電気的手法を用いることによって低次元構造体を容易に制御して作製できる方法を見出しました。例えば、光取り込み効率を高めたマルチチャンネルファイバーやコアーシェルナノ粒子の開発に成功しています。一方、光触媒表面が常に活性のある状態を保つ(新陳代謝効果)モノリス構造光触媒など、先進的な手法を用いて多様な構造を有する光触媒に開発を進めてきました。
宇宙の研究を通じて地球の環境資源を考える
光触媒を利用した環境浄化および宇宙用環境材料の開発

宇宙空間における環境制御・生命維持システム(Environmental Control and Life Support System, ECLSS)

国際宇宙ステーションのような宇宙環境では、人間が生きていく上で必要な空気や水、食料などが存在しないため、必要な物資を地球から補給する必要があります。しかし補給できる物資の量には限りがあり、コストも非常にかかるため、決して物資を贅沢に使えるような環境ではありません。そこで現在、国際宇宙ステーションでは環境制御・生命維持システム(Environmental Control and Life Support System, ECLSS)によって、空気や水を再生する装置が稼働し、資源をリサイクルして再利用しています。しかし、これらの装置は重く場所をとるため、軽くてコンパクト、さらにはより効率のよい装置の開発が求められています。中田研究室ではECLSSに資する環境資源技術の開発を行っています。具体的には、光機能材料を利用した環境負荷の少ない空気浄化技術の開発を進めています。将来、人類が宇宙空間で暮らす時代が訪れるでしょう。宇宙空間に長期間滞在するためには、究極の環境維持および資源活用に関する技術が必要です。それは現在、地球が必要とする環境資源技術のベクトルと一緒と考えています。
宇宙の研究を通じて地球の環境資源を考える 宇宙の研究を通じて地球の環境資源を考える
写真(左):中田研究室で作製した光触媒フィルターを搭載した空気浄化装置は,米国Axiom Space社による初めての民間宇宙飛行士ミッションAxiom Mission 1に搭載され、日本時間4月9日午前0時17分、米国フロリダ州ケネディ宇宙センターより国際宇宙ステーションに向けて、打ち上げられました.
写真(右):国際宇宙ステーション内で実験している様子

宇宙環境における廃棄物を利用した有用物質生成とリサイクル(宇宙リサイクル)

現在、国際宇宙ステーションには様々な細菌がいることが報告されています。現在は問題が少なくとも、宇宙空間には強い放射線が存在しますのでそれによって変異し、人類に悪影響を及ぼすようになる細菌が現れる可能性も視野に入れておかなくてはいけません。また宇宙に滞在する際には、密閉空間の中に滞在することになりますので、一度、悪影響を及ぼす細菌が繁殖すると、閉鎖空間内にいる人間にとっては大きな驚異になることも想定されます。また将来、宇宙飛行士だけではなく一般の人も宇宙に長期間滞在するような時代がきた際には、人類としてこれらの細菌をいつでも制御(すなわち殺菌)できる手段をもっておくことがより望まれます。殺菌剤は、地球から補給することは様々な制約があるため、宇宙において現地で生産でき、かつ様々な細菌を不活化することができる抗菌スペクトルの広い殺菌剤が、宇宙においては望ましいと考えられます。 中田研究室では、光触媒を利用した環境にやさしい方法によって抗菌スペクトルの広い過酸化物を生成し、細菌の中でもアルコール消毒液や100℃の煮沸を行っても死滅しないような最強の耐性をもつと言われる芽胞を不活化させることに成功しています。現在は、この技術をベースに、国際宇宙ステーションで生み出される廃棄物を原料にして抗菌スペクトルの広い殺菌剤の開発を進めています。

光触媒のバイオ応用

当研究室では、殺菌剤として一般的に使用されているエタノールを光触媒によって処理することで有機過酸化物を生成させ、最強の耐性をもつ芽胞形成菌の不活化に成功しました。光触媒を用いた芽胞形成菌の不活化は世界初の報告です。一方、光触媒は、その強力な酸化力を利用して様々な微生物を不活化することができるますが、薬剤のように特定の微生物種のみの不活化は困難でした。当研究室では、SrTiO3にドープしたRhイオンが特定のウイルス(バクテリオファージ)に対して顕著な不活化効果を示すことを初めて明らかにしました。
宇宙の研究を通じて地球の環境資源を考える
光触媒のバイオ応用研究

ダイヤモンド電極触媒を用いた有用物質生成

ダイヤモンドは絶縁体ですが、ホウ素などの元素をドーピングすることにより半導体や金属として振る舞うことができるようになります。当研究室ではこのようなダイヤモンドを電極触媒として用いて、ありふれた物質から有用物質を作る研究を行っています。例えば、ダイヤモンド電極触媒を用いることにより、空気中の二酸化炭素を還元してギ酸やホルムアルデヒドなどの工業原料を作ることに成功しています。ダイヤモンド電極触媒は、sp3炭素に由来する高い物理・化学的安定性だけではなく、広い電位窓や小さなバックグラウンド電流をもつ、他の材料にはないユニークな性質を示すことから、これを利用した電気化学的な有用物質変換について研究しています。
宇宙の研究を通じて地球の環境資源を考える
人工ダイヤモンドを利用した二酸化炭素の資源化