Department of Environmental and Natural Resource Science,
Faculty of Agriculture
Tokyo University of Agriculture and Technology

東京農工大学 農学部環境資源科学科
大気化学研究室(中嶋研究室)

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研究概要

 大気環境に影響をおよぼす物質の濃度は極めて低く、温室効果気体で有名な二酸化炭素 CO2でさえ大気全体の0.4%程度、夏季に高濃度となる光化学オキシダント(主にオゾンO3)でも100 ppbv程度です。これら大気環境に影響をおよぼす物質(ここでは『大気微量成分』と呼びます)は主に、
(1)化石燃料燃焼などの人間活動、植物や微生物などの生物活動、火山活動や波しぶきなどの自然現象からの放出
(2)大気中での気体どうしの化学反応や雨滴、雲粒などの粒子の表面または媒体を用いた化学反応
に由来します。(1)は一次排出(または直接排出)とよばれ、CO2やメタン CH4などの温室効果気体、一酸化炭素 COや窒素酸化物 NOxなどの大気汚染物質などがよい例です。一方で(2)は二次生成とよばれ、光化学オキシダントがよい例です。大気環境はこれら大気微量成分の一次排出、二次生成、消失(化学的または物理的)、移流などにより左右されます。

中嶋研究室では主に、大気微量成分の一次排出と二次生成に関する研究を進めています。
ここでは現在取り組んでいる4つの研究テーマを紹介します。

 ・テーマ1:野焼きや山林火災などのバイオマス焼却に伴う大気微量成分の排出量評価
 ・テーマ2:光化学オキシダント生成に関与する大気微量成分濃度の大気観測
 ・テーマ3:地上FT-IRによる温室効果気体の観測
 ・テーマ4:大気微量成分測定のための装置開発




稲わらの焼却による大気微量成分測定実験

テーマ1:野焼きや山林火災などのバイオマス焼却に伴う大気微量成分の排出量評価
 野焼きは土地の開拓や農業への利用,生態系の管理などを目的に古くから行われています。特に農作物を収穫した後の非加食部位や果樹の剪定枝などの農業残差物の野焼きは、現在でも世界中で行われています。例えばアジアでは、大規模な野焼きが各地で行われており、年間約2億5千万トンの農業残渣物が処理されているとの報告があります。山林火災も世界各地で発生しており、生態系への影響が懸念されています。日本では冬から春にかけて山林火災の件数が増加するそうです。
詳しくは林野庁「山火事予防!!」を見てください。

 内燃機関や火力発電などの化石燃料燃焼の場合、排出ガス規制や燃料中の有害物質の除去などにより排出される大気微量成分を極力抑制する技術が用いられている。一方で野焼きや山林火災などのバイオマス焼却の場合、大気微量成分の排出抑制は事実上不可能である。またバイオマスの種類や含水率,空気の供給量などに大きく影響を受けます。

 この研究では農業活動により生じる農業残渣物や、森林を構成する樹木の枝、葉、樹皮のほか、低草やリターを対象として、これらバイオマスの焼却過程により生じる大気微量成分の排出量が、バイオマスの種類、構成部位、含水率などによりどのように変動するか等を評価することを目的としています。

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野外での大気微量成分測定装置の調整

テーマ2:光化学オキシダント生成に関与する大気微量成分濃度の大気観測
 光化学オキシダントは人体や植物の成長に悪影響をおよぼす物質であると同時に、近年では温室効果気体としての寄与にも着目されています。光化学オキシダントの主な成分はオゾンO3です。O3は成層圏のオゾン層でも有名な物質ですが、成層圏と対流圏ではその役割が大きく異なります。成層圏のO3は、太陽光に含まれる紫外線を吸収することで、陸上生物への紫外線の影響を抑える役割があります。一方で対流圏のO3は、先程も述べた通り、陸上生物への悪影響をおよぼします。そのため成層圏のO3を"Good Ozone"、対流圏のオゾンを"Bad Ozone"と呼ぶことがあります。

 対流圏と成層圏ではO3の生成過程は大きく異なります。成層圏のO3は、「チャップマン機構」と呼ばれる反応により、大気中の酸素と紫外線のみで生成されます。一方で対流圏のO3は、大気中の非メタン炭化水素(NMHCs)と窒素酸化物(NOx)の光化学反応により生成されます。この光化学反応においてもう一つ重要な役割を担う物質にOHラジカルがあります。このOHラジカルの生成に寄与する物質として亜硝酸HONOがあります。大気中のHONOは、燃焼による直接排出と化学反応による二次生成を起源とします。一般にHONOは太陽光を吸収することで容易にOHラジカルに変化するため、日中には存在しないと考えられていました。しかし大気観測により、日中にもHONOが存在することが確認さており、HONOの直性排出または二次生成には依然として不明な点が多いです。

 対流圏のO3の生成過程では、ホルムアルデヒドやグリオキサールなどの、いわゆる含酸素揮発性有機化合物(OVOCs)も副次的に生成されます。これらの物質は、対流圏のO3の生成過程の解明につながると期待されているほか、二次有機エアロゾル(SOA)の生成にも寄与していることが示唆されています。

 この研究では他大学や研究機関と共同で都市部や郊外地域における大気観測を行い、光化学オキシダントの生成過程の解明や、HONOのようないまだ未解明な排出源または化学反応過程の解明につなげることを目的としています。

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地上FT-IRによる温室効果気体の観測

テーマ3:地上FT-IRによる温室効果気体の観測
 温室効果気体の増加とそれに伴うと考えられている気候変動は、現在我々が直面している最も大きな環境問題の一つです。主要な温室効果気体である二酸化炭素CO2やメタン CH4、一酸化二窒素N2Oは赤外吸収分光法による計測器を用いた地上および海上観測のほか、航空機を用いた大気捕集およびその分析、人工衛星を用いた観測が世界各地で実施されています。特に人工衛星による観測では、全球規模での観測が可能であるため各国の研究機関が実施しています。一方で人工衛星での観測では、大気中のエアロゾルや雲による光散乱の影響を受けるため、観測結果の妥当性を検証する必要があります。

 この検証方法の一つとして、地上にフーリエ変換赤外分光計(FT-IR)を設置し、太陽光を光源として大気中の温室効果気体を計測する手法があります。地上FT-IRは単に人工衛星観測の補助的な役割だけでなく、観測地周辺の温室効果気体の変動を長期追跡することも可能であり、またCOやNOxなどの大気汚染物質を対象とした濃度変動を追跡することも可能です。

 この研究では国立環境研究所地球環境研究センターと共同で府中キャンパスに地上FT-IRを設置し、府中市周辺の温室効果気体の長期変動を計測しています。また国立環境研究所地球環境研究センターでは、都市部や府周知を含む周辺地域の大学、研究機関にも地上FT-IRを設置し、温室効果気体の長期観測を行うことで、関東平野における温室効果気体の長期変動や排出源の変化に関する研究を進めています。

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自作の広帯域キャビティ増幅光吸収測定装置

テーマ4:大気微量成分測定のための装置開発
 大気環境を把握するうえでは、大気微量成分の計測は最も重要です。COやNOxなどの環境基準対象物質については自動計測法が確立されており、多くの市販品があります。またNMHCsや揮発性有機化合物(VOC)などについても自動または半自動の計測法が確立されています。これらの大気微量成分については測定手法が確立されており、多くの研究成果が報告されています。一方で大気環境において重要でありながら観測手法が確立されていない物質もまだまだ存在します。また観測手法が確立されているものの、操作方法や下処理の難しさ、計測頻度を高めることの困難さ、時間分解能の低さなど様々な課題を含んでいます。

 他のテーマでも紹介した亜硝酸 HONOはこれまで大気観測においてリアルタイム計測が比較的難しい物質でした。当研究室ではHONOの紫外線吸収を利用した、広帯域キャビティ増幅光吸収法(IBBCES)による測定装置を開発し、サブppbvレベルの検出下限の大気観測を行っています。

 この研究では大気環境を把握するうえで重要と考えられる物質を対象に、簡便・高精度・高感度・リアルタイム(数秒〜数分程度の間隔)での計測が可能となる装置の開発を行っています。

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他にもいくつかの新しいテーマを進行中です。
興味のある方はぜひ、研究室見学をお勧めします。
他大学の学生さん(大学院生も含め)の見学も大歓迎です。